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第152話 揺らぐ大陸国家会議の意義

 イレーネ帝国宮殿、鏡の間。

各国の代表たちはそれぞれの席につき、残りの派遣されてきた使節の人間は代表の後ろに立つ。

彼らの顔はこころなしか緊張しているように見えた。


 彼らの緊張は、宮殿近くにある、イレーネ島のターミナル駅の駅舎から始まっていた。

東京駅を模した駅舎を彩る彫刻、装飾品の数々。

また宮殿入口の女神像や庭など、彼らの目に映るものは彼らを戦慄させた。


 そして極めつけの宮殿鏡の間。

本家のヴェルサイユ宮殿の物にも負けず劣らずの豪華絢爛な装飾品の数々が彼らを迎え入れる。

新興国家だと心の何処かで決めつけていた彼らには、その輝きは脅威に映った。


「どうだい、この宮殿は?」


 俺は隣りに座っているヴィロンに話しかける。

彼は緊張しているのか、額から汗が垂れていた。

彼は俺の方に向き直り答える。


「えぇ、とても素晴らしいものだと思います。特にこの部屋はまるで天国にいるかのような気がします」


 天国、天国か。

俺はそう思って上を向く。

天井には鮮やかな色彩で天井画が描かれていた。


 本家の鏡の間の天井にはシャルル・ル・ブラン作の『太陽王の栄光と歴史』というルイ14世の映画を誇示する絵が描かれているが、この宮殿は違う。

代わりにこの宮殿には地球人類の誕生に関する絵が描かれていた。


 とはいっても生物学的な人類の誕生ではなく、旧約聖書に載っている神様が粘土をこねてアダムを作った話から地上に落とされる失楽園の風景が描かれている。

中央にはセフィロトの樹が描かれ、それは美しい出来であった。

この絵をデザインしたのはシュペーだが、モチーフから察するにもしかしたら地球への郷愁の思いがあるのかもしれないな。


 俺は視線を天井から戻す。

今は大陸国家合同会議に集中しないとな。

俺は使節らの方を向き直り、彼らを見つめる。


「ではこれより、大陸国家合同会議を始めます」


 俺は立ち上がってそう宣言する。

他のものも皆立ち上がり、拍手をする。

拍手が止むと、各々は席についた。


「では、今回の大陸国家合同会議は加盟国の過半数の要求により開催されていますが、要求した国家はフリーデン連立王朝、ミトフェーラ魔王国、それにイーデ獣王国ということで間違いないですか?」


「えぇ、間違いないです」


 ヴィロンが立ち上がりそう答える。

他の代表もそれぞれそれに賛同した。

俺は敬語に切り替えて質問を重ねる。


「では、要求した理由をお聞かせください」


「はい。我々三カ国はこの間まで起こっていた三カ国戦争において、戦勝国のルクスタント王国とイレーネ帝国の両国が大陸での影響力を拡大することを阻止することを目的として招集いたしました」


「第一回の大陸国家合同会議では、全国家がこれ以上の拡大をしないことを互いに確認し合いましたが、その後ルクスタント、ゼーブリック、ヴェルデンブラントの各王国はそれに反して領土拡大を続けました。それまでは相手が小さな国家でしたので黙認されていましたが、今回はことが大きすぎます。これ以上領土が膨らみ続けるといずれ大陸中の国家が戦争に突入してしまいます。我々はそれを防がねばなりません」


 いや、これまで小国は見捨てていたのかよ。

そんなことでは何の説得力にもならんぞ。

国際連盟がありながらも第二次世界大戦が防げなかったように、この会議ももはや形骸化しているのでは?


「……つまり小国だからと今までは見捨てていたと?」


「その通りです。心苦しい話ですが我々が戦争に介入すると全面戦争になりかねません。ならば我々は介入すべきでないと判断したまでです」


 こんな事を言うのもあれだが、傍観者が行けないというのはこのことなのかもしれないな。

自分が入ると自分が巻き込まれるからと、傍観をきめこんでそれを正当化するやり方。

まさにいじめの関係の究極系のような存在だ。


 俺は思った、これらの国に安全どうこう言う資格はないと。

結局彼らは自国が戦争に巻き込まれることを恐れているだけだ。

そんな人間にどうこう言われる筋合いはない。


「……そうですか、傍観者をきめこむとは結構なご身分ですね。いや、『ゴミ』分ですかね?」


 俺はニヤッと笑ってそういった。


「「「っつ……!!」」」


 痛いところを突かれた三人は顔を青くして下を向く。

だが自分たちにも非があるとは分かっていたのか、特に反論してくることはなかった。

俺も少し言い過ぎたかなと思い、話をもとに戻すことにした。


「……少し話が脱線しました。で、我々がゼーブリック、ヴェルデンブラントの両国を併合して強くなることを懸念しているとのことですが、結論から申し上げますとそうはなりません。我々は両国を再び独立国とすることを承認していますし、事実両国にはすでに新政権が発足しています。現段階では国内情勢が不安定であるため独立させることはできませんが、将来的には完全に独立させるつもりです」


「なんですって、併合しないのですか!? 戦争に勝ったのに?」


 べオレトが驚いたように聞いてくる。

今までに戦勝国は敗戦国を併合してきたから、併合しないという選択肢は想定外だったのだろう。

だが別に領土が欲しくて始めた戦争ではないし、最低限の軍事施設だけ手に入ればいいかと思う。


「えぇ、なにか問題でも?」


「いえ、別に……」


「では今回の招集事案はこれで解決ということで異議のない人は挙手してください」


 俺は挙手を求め、自分自身も手を上げた。

俺以外にも各国家の使節団の代表は皆手を挙げる。

これによって全会一致で招集事案は解決した。


「では折角の機会ですし今度は私から1つ提案があります」


 俺は手を下げた後、彼らにそう告げる。

彼らは何のことだか分かっていないので、不思議そうな顔でこちらを見る。

俺は彼らにこう告げた。


「私はこの大陸国家合同会議を廃止しようと思う」


「!!」


 俺の突然の発言にその場の全員が驚く。

全員俺の発言の意味がわかっていないようであった。

だが俺にはとっておきの考えがある。


「この大陸国家合同会議を廃止する代わりに、新たに『国際連盟』を設立させたいと思う。これは今よりももっと国同士が深く結びつき、大陸に安定をもたらすものだ」


 『国際連合』制度。

俺の理想が実現するのか、それはこれからの議論に全てがかかっている。


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