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第151話 初めての電車

 島の南端に新設された民間用の港。

そこに初めて停泊する船として、ルクスタント王国海軍の帆船戦闘艦『カイザー』だ。

そこは民間船じゃないのかよという話だが、まぁそればかりは仕方がないな。


 カイザーは桟橋に横付けし、そこからロープを垂らす。

そのロープを伝って今回の会議への参加者が続々と降りてきた。

だが人数がこの前の会議の時よりも圧倒的に多い気がするのは気のせいなのだろうか。


「皇帝陛下直々にお出迎えとは、恐縮であります。私のこと覚えておいででしょうか?」


「えぇと、確かミトフェーラ魔王国の外交官の……」


「ウッド=ヴィロンです。気軽にヴィロンとでもお呼びください」


 そう言ってヴィロンは俺に握手を求めてくる。

俺が彼の手を握り返している間にも、続々と船からは人がおりてきた。

皆外交官なのか、身だしなみはきちんとしているな。


「すみませんねこんな大人数で押しかけてしまいまして。みんな新しい国を見て見たいというものですから」


 それでこんなにも人数がいるであろうか。

何だか嫌がらせな気もするが、まぁ別に対応できる人数だし問題ないか。

にしてもこの前にメイドを大量雇用しておいて正解だったな。


 そんな風に思っているとどうやら船に乗っていた全員が下船したようだ。

どの国も大量の使節団を引き連れており桟橋の上は人でいっぱいになった。

俺は彼らを引き連れて、港に一番近い駅まで彼らを連れていく。


「何ですかここは? ここで何をするのです?」


 そう言ってきたのはイーデ獣王国の外務官のベオレト=フォルマンだ。

彼もまたヴィロンと同じくこの前の大陸間国家合同会議に参加していた。

俺は彼の方を向き直った。


「ここに何が来るのかはお楽しみだ。それと、全員が1つの車両に乗ることは出来ないから適当に分散するように言ってくれないか?」


「乗るということは乗り物なので? ならば確かにこの人数では乗るのは大変ですね。すぐに並ばせましょう」


 そうしてベオレトは使節団の人間を順番に並ばせる。

その時に床に書いてある番号に気づいた彼は、国ごとに違う番号に並ぶよう指示した。

ベオレトに加えてヴィロン、それにルクスタント王国の軍務卿とこれまた前回の会議にいたフリーデン連立王朝の外交官ユリウスが協力して、列に並ばせることに成功した。


「助かったよ。……お、そろそろ来るみたいだぞ」


 俺はそう言ってホームの先、電車の来る方を指差す。

ヴィロンたちは俺の指差す方角へと視線を向けた。

するとそこには……


 ガタンゴトン、ガタンゴトン……キィーッ……


 音を立ててホームに電車が入線してくる。

その車両は茶色に金の装飾が入ったものであった。

特に先頭の1号車だけは防弾仕様になっている。


「な、なんですかこれは一体!?」


「これは電車さ。あらかじめきめられた路線を走行し、荷物や人を大量に輸送するんだ」


 俺がそう言っていると、電車は目の前に停車し、ドアが開いた。

俺は彼らを手招きして車内へと入っていく。

だがヴィロン含め全員入ってこようとはしなかった。


「おい、早く乗ってきなよ、何時までも出発できないぞ?」


「その……食べられたりはしないですか?」


「食べられる? こいつはそもそも生き物じゃないから食べられるなんてことは絶対にないぞ」


 俺は入ってくるよう促すため再び手招きをする。

すると軍務卿が意を決したような表情でこちらにやって来、そして乗り込んだ。

勿論何も起こらず、彼はホッとしたように胸をなでおろした。


「ほら、なにもないって分かっただろう? 分かったなら早く乗ってきなさい」


 全員軍務卿の行動に後押しされたのか、いそいそと乗り込んできた。

全員が乗り終えたことを確認した俺はドアを開け、1号車に備わっているVIPルームへと足を踏み入れる。

そこにはふかふかのソファーや高級感あふれるテーブル、それに車窓が大きいのできれいな景色も楽しむことができるようになっている。


「これが電車の車内……すごく豪華、まるで動く部屋だ……」


 べオレトはソファーに座ってそう声を漏らす。

他の人達もソファーの座り心地に虜になってしまっているようだ。

そんなこんなをしていると、乗車口の閉まる音が聞こえてきた。


「お、いよいよ出発だな」


 俺がそう言うとヴィロンたちは椅子を回転させ、車窓を見るように変更した。

直後、電車がガッタンと揺れてゆっくりホームを出発する。

ヴィロン達、特にべオレトは動き出したことに興奮していた。


「すごい、本当に動いたぞ!」


 べオレトは興奮して立ち上がった。

その間にも電車はゆっくり加速して、外の景色は流れてゆく。

そんな景色を彼らはまるで子どものように眺めていた。


 電車はぐんぐん加速し、時速110km台に到達した。

この測度になると外の景色も目まぐるしく変わり面白い。

そう思っていると電車はトンネルへと入った。


「! これはトンネルか! 小さいものを掘るだけでも大変なのにこのトンネルを掘るには一体どれだ明けの月日がかかるのだろうか……」


 べオレトがそうつぶやいているのを聞いていると、電車はトンネルを抜けた。

海沿いだがすこし標高が高い位置を走行しており、上から下が見下ろせる状態であった。

眼下にはイレーネ湾泊地と付随する工廠群が広がっている。


 俺自身あまり気にしていなかったが、こうして少し上から覗いてみると工廠がかなりの敷地面積を持っていることがわかる。

それに滑走路なども付属して巨大な軍事施設と化していた。

最初の何もなかった頃と比べるとずいぶんと発展したものだ。


「何だあれは、全部軍艦か! やはり観艦式に派遣した際に派遣した艦の乗組員がみてきたものは間違いないのか……」


 そうエルフのユリウスは言って、ため息を付いた。

ちょうど手前側に戦艦や空母と言った大型艦が固まって停泊していたので、余計迫力が増していたのだろう。

他の者達もその艦艇群の前にはため息しか出ないようであった。


 そのまま電車は走り、宮殿に最も近い駅に到着する。

俺達は電車を降り、駅舎の外へと出る。

そしてそのまま宮殿目指して歩き始めるのであった。


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