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第149話 返り咲く王

 決議が終わり、次の議題に移ることになった。

合図を出すと、俺のいた控室から何やら黒くて薄い板が運んでこられる。

運んでこられたのは、俺が事前に用意しておいていたテレビだった。


「何ですかこの板は? 見たことがありませんがステータス測定板か何かですか?」


 テレビを見たオイラー公爵が不思議そうに聞いてくる。

チッチッ、こいつはステータス測定板なんてものではないよ。

俺はテレビのリモコンを取り出し、電源を付けた。


「「「「えぇっ!? 何かが板に映った!?」」」」


 その場にいた貴族たちは椅子から転げ落ちそうなほどに驚いた。

突然黒い板に映像が映ったら、テレビを知らない人はもれなく同じ反応をするだろう。

俺はテレビにこれまた用意されていたパソコンを繋ぐ。


 これらも【統帥】スキルで出したものだ。

パソコンやテレビも作戦などで使うことがあるため、召喚が可能だ。

兵器以外も出すことができて、つくづく便利なスキルだ。


 俺はパソコンを開き、リモート通話ができるアプリを開いた。

俺が部屋を立ち上げ、暫く待つ。

すると1人部屋への参加者が現れた。


 俺が許可を押すと向こう側のカメラがオンになり、部屋の様子が映る。

カメラは間違えて天井を向いており、向こうで操作している(であろう)トマスはカメラの向きを変えた。

そのカメラに映っているのは……


「オラニア大公閣下が映っているぞ!? どうなっているんだこれは!?」


 オイラー公爵は突然映ったオラニア大公に腰を抜かす。

他の貴族たちも驚いて開いた口が塞がらないようだ。

画面の向こうのオラニア大公はトマスからなにか説明を受け、その後カメラに向かって話し始めた。


『久しぶりじゃな皆のもの、元気にしておったか』


「大公閣下! お久しゅうございます。陛下の方こそお体は大丈夫ですか?」


『その声はオイラー公爵か、儂は大丈夫じゃ! 一時牢に閉じ込められていて死ぬかと思ったときもあるが、ルフレイ殿に助け出されて今はもうピンピンじゃ!』


 そういってオラニア大公は腕を曲げ、筋肉を貴族たちに見せつける。

その元気そうな様子にオイラー公爵ら貴族たちは安堵したように息を吐いた。

オラニア大公の生存が確認できたところで、今度は公爵が疑問に思ったことを質問として投げる。


「それであれば何よりです。で、この装置は一体何者なんですか? 映像を映しながら会話をすることができるものなど聞いたことがありませんよ」


『いや、それは儂に聞かれても困るわい……だがこうして話し合えていることは事実。イレーネ帝国の技術力には脱帽じゃな!』


 そう言ってオラニア大公はケラケラと笑う。

だが貴族たちは笑っているが苦笑いで、むしろ少し怯えていた。

こんな技術を持った国と戦争していたのか……ってね。


「ところでオラニア大公閣下、今回はどのような要件で?」


 オイラー公爵は何のためにオラニア大公がこの場にいるのかを知りたがっている。

勿論彼を呼んだのは俺だし、許可を取ったのも俺だ。

俺は入院中のオラニア大公にある『お願い』をし、それを彼が実行することになった。


『私がここにいる理由は唯一つ、国王の座に返り咲くためである!』


「「「「え〜〜」!!」」」


 オラニア大公の一言に貴族たちはあごが外れるほど口を開いた。

おらには大公はオラニア大公で『どうだ!』と言わんばかりのポーズを取っている。

やれやれこいつらは、と思いながら、俺はオラニア大公を呼んだ理由を説明する。


「現在は元王都防衛隊の隊長が国王代理として政治を行っていたが、彼は今回の議会制帝国主義への転換を気に最もふさわしい人へ王の位を受け渡したいとの意向を示した。そこで俺が今回新国王に選びだしたのがオラニア大公、前ヴェルデンブラント国王だ」


 その意向というのは、俺が2日前に議会制について彼に聞いた時彼から直接聞いたことだ。

あまりの仕事量に、自分は軍人をやっている方が幸せで意味のある時間だと思っていたらしい。

ちょうどいい機会だしってことで交代することになったのだ。


 オラニア大公自身も自身の息子の行動の落とし前をつけるべく王になりたいと思っていたようだ。

彼は貴族たちからの人気もあるのでうまく政治を回してくれるだろう。

俺はその後オラニア大公の就任に関する決議を取ったが、満場一致で成立となった。


「さすがの人気だな……これならば政治もうまくまわってくれることだろう」


 まだオラニア大公は万全の状態ではないので、今日のところは一旦リモート通話を切る。

貴族たちはもう少し話したかったのか、残念そうな顔をしていた。

だが、オラニア大公の体調を考えると仕方がないかと納得してくれたようだ。


「ではこれからはそれぞれから何か話したいこと、聞いておきたいことに応える時間とする。話がある人は手を上げてどうぞ」


 そう促すと、1人の若い貴族が手を上げた。

俺は彼を指名し、彼は発言のために立ち上がる。

彼は立った後、このように言った。


「今、私の領内では戦争で夫を失った未亡人が急増しています。彼女らは稼ぎ頭を失ったことによって困窮し、犯罪に手を染めてしまう場合もあると言います。私としては彼女らに何らかの保証を与えてあげたいのですが、そのへんに対する対応は国からはどうこうすることはできませんか?」


 ……戦争で夫を失った未亡人か。

戦勝国の俺が、夫を殺した軍のトップである俺がそれに対して何か介入をしても良いものなのだろうか。

だが彼女らが窃盗などに走る前になにか手を打たないとな。


「分かった。では彼女らには2つの支援を行うこととしよう。まず1つ目は仕事を得るための職業スキル取得講座の解説を開き、定職につきやすくする支援だ。これは裁縫などのノウハウを持つ人をコーチに招き講座を開いてもらい、それを受講してもらう。参加費用は国持ちだ。2つ目にイレーネ島への留学プラン。こちらは新規に我が国に開設する学校に通い、将来の議員やそれぞれの領地の事務の仕事などの担い手を養うことができる。これらは今考えたことなのでこれから修正していかねばならんがこんなものでどうか?」


 こちらの提案も採択された結果可決となった。

まだまだ他にも議論するべきことはある。

議論は永遠と続き、日が落ちても誰も帰ろうとも寝ようともせず、永遠と議論を重ねるのであった。


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