ゼーブリック旧王都にそびえる王城。
そこの玉座の間は今回の対談仕様にセットされていた。
机と椅子が整然と並べられ、地方からやってくる貴族たちも全員入れるようになっていた。
俺はというと、イズンの試験から帰ってきた次の日から早速会議での内容を考えていた。
どうすれば国を纏めることができるのか、どうすれば誰からの文句をなくすことができるのか、政治の話というのはなかなか難しい。
全員が納得する政治など不可能なのだ。
それでもこの国の国民に安心感を与えるためにはやるしかない。
だがそこで障壁となるのが、『この世界では王がいないと国として認められない、もしくは下等な扱いを受ける』という謎の風習だ。
そのせいで俺も無理やり皇帝になったんだからな。
王がいなければ他国から舐められる、だがそれでは国民の声が届かない。
俺は考えに考え抜き、ついに一つの答えにたどり着いた。
その答えを携え、俺は会議の開始を待つ。
俺は玉座の間の横に併設されている王の待合室で参加者の貴族らが集まるのを待っていた。
この部屋は玉座の間の貴族たちの声が待機中の王に聞こえるよう設計されたので、会話は筒抜けになる。
しばらく待つと、扉の開く音とともに人の入ってくる足音、椅子を引く音や声などが聞こえてきた。
「お、貴方も来たのですね」
「当たり前だ。呼んだのが新政権とか何とか言っている人間ならば無視したが、今回の呼び出し相手は我が国との戦争に勝ったイレーネ帝国の皇帝直々というじゃないか。もしも失礼があってお家取つぶしにでもなったら……」
どうやら彼らはお家取り潰しを恐れてやってきたようだった。
俺の意図したことではなかったが、結果的にうまくいっているようで良かった。
しばらくガタガタと音が続いた後、音はピタリと止んだ。
「ルフレイ様、全員が着席いたしました」
俺の隣に防衛隊隊長がやってきて囁く。
俺は了解したと言って立ち上がった。
目の前の、玉座の間に続く扉を開け、俺は足を踏み出す。
「!」
玉座の間にいた貴族たちは、俺が入ってきたとわかると立ち上がった。
そして皆俺の方を向いて一斉に頭を下げる。
俺はそのまま真っすぐ歩いて、そして玉座に座った。
「ぎょ、玉座に……」
貴族たちは俺が玉座に座ったのをみて驚いたようだった。
実は俺もただ玉座に座りたかったから座ったわけではない。
これも俺の作戦の一環だ。
ゼーブリック王国の貴族からして俺は他国の皇帝で、そして敵国の総大将だ。
だから彼らにとって俺というのは従う対象ではない。
だから俺は一芝居を打ってみる。
俺はあえて高圧的な態度を取り、貴族たちにプレッシャーを掛けることにしたのだ。
そのために俺はいつもの海軍の軍服だけでなく、その上にイズンからもらった赤いマントを掛け、頭には王冠をかぶっている。
胸元には勲章がついており、威圧効果はあるはずだ。
「では、これより会議を始めます」
指揮官はそう言い、俺の隣に立った。
貴族たちはその言葉を合図に椅子に座る。
その時、オイラー公爵の顔がちらっと見えた。
「本日はお集まり頂きありがとうございます。今回の議題は『今後の国家方針』についてです」
国家の方針と聞いて場がざわつく。
指揮官はその声を抑え、再び室内は静かになった。
俺は立ち上がり、考えてきたことを喋る。
「皆さん、今日は集まってくれてありがとう。俺はイレーネ帝国皇帝のルフレイ=フォン=チェスターだ。今回呼んだのは先程も言っていた国家の今後の方針についてだ。この国は戦争に負けて以来中央の力が弱まり、政治的な混乱に陥っている。そこで今日を境に新たな政治体制へと移行しようと思うのだ」
「あ、新たな政治体制ですか?」
貴族のうちの1人が立ち上がって質問する。
俺は「そうだ」と頭を縦に振った。
他の貴族たちは自分たちが締め出されるのではと驚いているようだ。
「今回俺が導入しようと思っているのは『議会制帝国主義』の政治体制だ」
「その『議会制帝国主義』とはなんですか?」
「そうだな、まずは議会制の説明から始めようか。議会というのはすなわち国民の代表者が集まって協議をし、今後の政治方針を決める会議のことだ。こうすることによって国王1人に権力が集中せず、多くの人間が納得する結論を導き出すことができる」
なるほど、と彼らは頷く。
正直議会制を理解してもらえるか不安だったが、そこは何とかなったようだ。
俺は話を続ける。
「その上で会議を行う場として、貴族院と平民院というものを置こうと思う。それらに徴収された代表者が話し合い、その結果を国王に託し、国王がそれを採択するという政治体制を構築できればと思う」
「ちょっと待って下さい、貴族院はわかるとして平民院とは? もしや貴族ではない平民が政治に参加するというのですか?」
「そうだ。そうすることによって民意をより政治に反映させることが出来る。ただ、平民院に関しては政治に関する知識を持っている人が少ないので、開設は3年後を予定しているが」
ある程度の反発はやはりあるな……
貴族制度そのものを撤廃するという考えもあったが、それは酷だろうと貴族院を残したのでその辺りで妥協して欲しいという気持ちもあるのだが、やはり貴族の気持ちを考えると難しいな。
「今からパンフレットを配る。そこには考えてある方針が載っているので、また今度じっくり読んで欲しい。では今から決議を取ろうと思う。では議会制帝国主義に賛成の人、手を挙げてくれ」
俺が挙手を募ると、まばらに手が挙がった。
だが手を挙げていない貴族の方が多い。
そんな中、すっと手を挙げた貴族がいた。
「お、オイラー公爵殿!? 正気ですか?」
手を挙げたのはオイラー公爵だった。
彼の周りにいる貴族は驚き、彼に詰め寄る。
オイラー公爵はそれにこう返答した。
「ルフレイ殿の言うとおりだ。我々がこれまで民意を政治に反映させることを怠ったばかりにフェルディナント王のような王が現れ、我々はそれに同調したばかりに戦争が起こり、そして敗れた。そんな今こそ変わる時ではないだろうか、いや、今以外に変わる時はない!」
その言葉に貴族たちは何か心の奥底にあったものを刺激されたようだ。
一人、一人と手を挙げる人が増えていく。
遂には全員の手が挙がった。
「では、全会一致で議会制帝国主義を採用する」
俺がそう言うと、場から拍手が起こった。
ふと見ると、オイラー公爵と目が合い、彼にウインクをされた。
ここに、世界初めての議会制の国家が誕生した。