「ギャ――!!!!」
ゼーブリック王都ギルドに響く叫び声。
ギルドの外の道ではエミリーが半分失神しかけていた。
それもそのはず、彼女の目の前には数えきれないほどの魔物の討伐部位が転がっているのだ。
王都まで運んできたイズンは、その荷物が建物内に入らないことに気が付いて外に置いた。
そしてあまりの光景に通行人が叫びながら走って逃げて行った。
その声を聴いたエミリーもまた外に出てきて同じく被害を受けたってわけだ。
「ル、ルフレイさん……これは一体? そもそもまだ一日経過していないと思いますが」
「あー……森の魔物を全滅させたからもう倒す相手がいなくなってね」
「は、全滅?」
エミリーは魔物が全滅したという言葉に絶句していた。
ちょうどその頃に建物内から応援の職員たちがやってき、量に驚きながらも一つ一つ建物内へと運び入れていく。
だが何時間やっても終わりそうにない量がそこにはある。
「確かにこの量であれば森の魔物の総数といっても何の不思議もないぐらいですが、そもそもどうやって短時間でそんなにも倒してしてきたんです?」
「それはね~ヒ・ミ・ツよ♪」
イズンは目立つ羽は格納して俺の横に立つ。
俺も何と説明しようか迷っていたため、彼女が秘密と言ってくれて助かった。
だがエミリーもエミリーで食い下がらない。
「倒し方だけではありません! 平然とあの量を持って帰って来ますし、そもそもさっき空を飛んでいたでしょう!? あれをどうやって説明するんですか!」
「まぁまぁ落ち着いて……別に言いたくないんだから言わなくてもいいじゃないか」
「ムムム、ルフレイさんまで……逆にルフレイさんはあれが何か知っているのですか?」
「うん、おおむねは分かっているつもりだ」
「教えてくださいよー」とエミリーは俺にねだってくる。
だが流石に「彼女は創造神だから」とは言い難い。
それを言うと俺が変な奴だと思われるに違いないし、そもそもイズンの存在は隠しておきたい。
「これ以上の質問は俺がイレーネ帝国皇帝として禁止させてもらおう」
「あっ、ズルいです。元首としての権限を使うなんて! そんなに隠さないといけないものなのですか?」
エミリーは頬をプクッと膨らませて俺を見つめてくる。
だがかわいさで訴えようと俺には聞かないな。
逆にこれで言ってしまうぐらいならば俺は国家元首として向いていないだろう。
「あぁ、絶対に隠し通さないものだ。多分」
「そこまで言うのでしたら……これ以上の詮索はあきらめましょう」
「ありがとう、そうしてもらえると助かるよ」
ひとまずエミリーからの質問攻めから逃れることは出来たようだ。
彼女と俺は再び討伐部位の山を見つめる。
さっきからせっせと運び込まれてはいるが、まだまだ終わりそうにはなかった。
「……これ、終わるんですかね?」
「さぁ? もう少し量を少なくしておけばよかったかな?」
「徹夜確定コースですよこれ……はぁ……」
エミリーは肩を落として落胆しながらも、自分の仕事のためにギルド内へと戻っていく。
俺もイズンの試験の結果を見た上でのランクの推薦を行うために建物内に入る。
だが誰が何を言うまでもなく特S級で間違いないだろう。
「えぇと、ルフレイさんは今回の結果を踏まえてイズンさんを何級に推薦いたしますか?」
「もちろん特S級だ」
「でしょうね。では間違いなく通ると思うのでそのまま特S級で申請を出しておきますねー」
俺はエミリーから渡された書類に必要事項を記入し、サインを書いた。
これでイズンも俺たち人間と同じくカードを持つようになり、この世界での立ち回りがやりやすくなるだろう。
こういうことは早めにやっておいて正解だ。
「それにしてもルフレイさん、あの魔物の量異常だとは思いませんか?」
「異常? 普段はもっと少ないのか?」
「えぇ、普段、というよりかはつい最近突然森での魔物の発生量が急増したんですよね。何か良くない兆候であろうと我々ギルド職員一同は警戒していますが、今のところは何も起きていないですね」
確かイズンがこの前イレーネ島で魔物が減っている代わりに他国で多く発生するようになっていると言っていた。
今回の魔物の量もおそらくそれが関係しているのだろう。
今後は国対国の紛争だけでなく、魔物の大量発生などにも注意をする必要がありそうだ。
「はい、手続きは完了いたしました。で、ここからは提案になるのですが……」
そういってエミリーは机の引き出しから紙を一枚取り出す。
どうやらそれはチラシの様であった。
俺とイズンはそのチラシに目を通す。
「『急募! ~仲間との楽しいパーティー生活であなたの冒険者ライフがもっと楽しく!~』だって、なんか胡散臭い文面だなぁ。イレーナもそう思わないか?」
「そうね。でも内容を読んでみないと分からないわよ」
俺たちはチラシの詳細を読んでいく。
そこにはパーティーを組んだ際のメリットなどが詳しく書かれていた。
だがデメリットには触れられていないため余計に胡散臭さが増す。
「実はそれ、最近の魔物の増加に伴って死亡する冒険者が続出しているのですが、その対策としてギルド本部が考え出したキャンペーンなんです。というのも今まではソロで向かわれる冒険者の方が多かったので、二人以上で行動すればお互いをカバーできるだろうという魂胆だそうです」
「でも『竜討つ剣』とか、有名なパーティーは存在しているじゃないか」
「あれは特殊なケースです。大概の冒険者は基本的には毎日山や森に入って素材を採取することで生計を立てていますので、パーティーを組むのは臨時で大きな討伐クエストに行く時ぐらいですよ」
へー、知らなかったな。
まぁパーティーを組むぐらいならば何の問題もないし構わないだろう。
俺たちそれぞれのは同意のもとでパーティーを組むことにした。
「組んで下さるのですか!? やったー! 毎月ノルマの組数があって大変なんですよねこれ」
エミリーは嬉しそうにはしゃいだ。
しかしこっちの世界にもノルマ制度があるとは。
結局どの世界でも働く人間は大変だな。
「ではパーティー結成に伴い、パーティー名を考えていただけますか?」
パーティー名か、何が良いかな。
俺はとりあえずイズンに聞いてみることにした。
彼女にはいいアイデアがあるそうなので聞いてみる。
「私は『エプリ』が良いかな」
「なんでエプリ?」
「エプリは『不老の実』を意味する言葉だわ。一般的には『黄金の林檎』として表され、そして私が守らないといけないものでもあるわ」
「どういうことだい?」
「それは……いえ、その話はまた今度しましょう」
イズンは急に話を濁した。
『不老の実』、『黄金の林檎』……なにか関係があるのであろうが今は場所が場所なので話を一旦流す。
俺は命名に戻った。
「『エプリ』だけでは何だか寂しいな……そうだ、『エプリ』」と『アプリコット』を合わせて『エプリコット』なんてどうだろう」
「『エプリコット』……うん、いい名前ね、気に入ったわ!」
そうと決まれば早速記入だ。
俺は用紙のパーティー名欄に『エプリコット』と記入した。
そしてお互いの名前を記入し、書類を提出する。
「お預かりいたしました。新パーティー『エプリコット』の活躍を楽しみにしていますよ♪」
ここに、創造神とその使徒による冒険パーティーが結成された。