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第146話 イズンとケラウノス

 一晩止めてもらった後、オイラー公爵の屋敷を俺たちは辞した。

今日はイズンの試験の日である。

オイラー公爵領から森までは車を走らせて1時間というところだ。


 俺たちは日が出るよりも前に出発し、もうすぐで到着しようとしていた。

まだ暗いと思いながら出発したが、今はもう太陽が顔を出している。

目線の先にはもう森の木々が見えていた。


「いよいよだな。イズン、大丈夫か?」


「何を言っているのよ。私は創造神、魔物を倒すぐらいのことは平気だわ」


 そう言って彼女は手に持っている杖と槍が合体したような武器をさする。

この武器はイズン自身がその能力で生み出したものだ。

同じく防具もであり、この世のものとは思えないほどの美しい白をした鎧であった。



――昨晩、ルフレイに与えられた寝室――



「明日は冒険者カードの取得試験があるけど、心の準備は大丈夫?」


 俺はなぜか自分の部屋ではなく俺の部屋のベッドでゴロゴロしているイズンに話しかける。

彼女は湯上がりで、頭にバスタオルを巻いていた。

俺もお風呂には入ってきたのだが、給湯器などないだろうと後で見に行ったらメイドさんが必死で火を焚いてお湯を沸かしていたよ。


「何を言ってるのよ、大丈夫に決まっているじゃない。私を誰だと思っているのよ」


 イズンはなんだか誇らしげそうにそういった。

まぁ創造神なんだから魔物討伐ぐらいはちょちょいのちょいだわな。

俺と同じ特S級だろうか、いや、俺が推薦すればいいのか。


「そう言えばイズン、防具や武器はどうするんだ? 特に何も着ないのか?」


「いいや、着るわよ?」


 防具を着ると言ってもあいにく俺は防具のたぐいは一切持っていない。

俺の試験のときには軍服だけで受けに行ったからな。

防具屋さんはしまっているし、どうしようと思っているとイズンは「心配しないで」と言ってきた。


 後ろを向いておけと言われたので、俺は素直に後ろを向く。

背中側からは布と布の擦れる音が聞こえ、時折何かが落ちる音も聞こえてきた。

見てもいいと言われたので俺は視線をイズンのいる方に向けた。


「どうよルフレイ、これで完璧でしょう?」


「どれどれ……ってビキニアーマーじゃないか!? それでは何も着ていないのとあまり変わりないし意味ないわ!」


 俺はノリノリでビキニアーマーを着ていたイズンにツッコミを入れる。

彼女は「ちぇー」と不満そうではあったが、再び着替えるべく俺に後ろを向くよう言った。

俺もそれに従って後ろを向く。


「どうかしら? これで文句はないでしょう」


 俺はそう言われて再び後ろを見た。

今度はイズンは白を基調とし、ところどころに金の細工の入った鎧を身に着け、手には槍とも杖とも言い難い巨大な武器を手にしていた。


「その武器は槍? 杖?」


「答えはどっちもよ。でも主には槍として使う事が多いかしら。後この子の名前はケラウノスね」


 イズンはてっきり魔法使い系だと思っていたからそのギャップには驚く。

でも彼女の白い髪に白い鎧、そして輝く刃を持つ彼女の武器は恐ろしいほど彼女に似合っていた。

俺でも一目惚れしてしまいそうなほどの破壊力だ。


「これで問題はないよね。じゃあ私は明日に備えて寝るわ」


「そうだな、そうした方が良い」


 イズンは再び寝間着に着替え、部屋を出ていった。

まさかオリビアと同じく俺のベッドで寝るつもりではないかと身構えていたがそんなことはなかったようだ。

俺はベッドに身を投じ、そのまま眠りについた。



――



 そんなこんなで車を走らせていると、森の入口に到着した。

此処から先は車では走っていけないため、護衛についてきていた兵士に車を預ける。

俺たちは森へと足を踏み入れた。


「ふーん、ここで狩りをすればいいのね?」


「そうだ。1日中狩れるだけ狩ってこいとのことだ」


 森に入って暫く経つが、未だに魔物の姿は見えない。

そもそも魔物がいないのであれば狩りができないじゃないか。

そう思っていると、突然イズンが俺の手を掴んでいった。


「ルフレイ、飛ぶわよ」


「へ?」


 そう言っている頃にはもう俺の体は上空にあった。

イズンは人間化する過程で隠していた6対の羽を再び展開する。

彼女は何かをブツブツつぶやいた後、手に持っているケラウノスを掲げて言った。


『神の裁き』


 直後、イズンの頭上に巨大な魔法陣が展開される。

魔法陣は森全体を覆っているように見えた。

そしてその魔法陣からさらに小さな魔法陣が複数現れ、そこからも魔法陣が現れるという多重展開の構造を取っていた。


 そう思っているとその魔法陣のうちの1つが白く発光する。

他の魔法陣も同じく発光し、空は直視できないほどの光で覆われた。

そしてそこから光の柱が無数に地面へと降り注ぐ。


「……イズン、杖よりかは槍として使うんじゃなかったのか?」


「敵を探すのが面倒くさかったのよ。この『神の裁き』なら指定範囲内の敵、私が敵と認識したものを自動でロックして攻撃してくれるからね」


 『神の裁き』……

確か聖書には世界を滅ぼした神の攻撃として描かれていたものだ。

それをイズンが使ったということはやはり何かしらの関連はあるのだろう。


「これでこの森の中の魔物は全部処理できたわ。証明のために体の一部をもってこいと言っていたから……こんなものかしらね」


 イズンはケラウノスを再び振る。

すると地面から山程の討伐された魔物の一部が出てきた。

こんなにどうやって持って帰れば良いんだろう。


「もう魔物がいないからこれ以上いても仕方ないわね。ルフレイ、帰りましょう」


 そう言ってイズンは空をとんでゼーブリック王都のギルドに帰ろうとした。

俺は下に待たせている護衛たちに先に帰ると大声で叫んだ。

向こうにもちゃんと聞き取ってもらえたようで、彼らはこちらに手を振ってくれた。


「にしてもこの量の討伐証明部位か……エミリーが泡吹いて倒れるな」


 俺はこの量の討伐証明部位をチェックしなければいけないギルド職員たちがかわいそうに思えてきた。

俺はイズンの腕でガッチリホールドされたまま空を飛ぶ。

まだ森についてから30分も経たないうちに俺は王都に帰るのであった。


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