俺たちは表通りを歩き、ギルド前へとたどり着く。
歩いている途中で通行人からは怪訝な目で見られた。
そりゃ白い長髪の美女が血をダラダラ垂らしている男を担いでいたらビビるわな。
俺はキルドのドアを開けた。
中はルクスタント王都ものと同じく活気があった。
まるで外とは違う世界のようだ。
「犯罪者の受け渡しも通常の任務完了の受付と変わりませんので、あの列にお並びください」
アンナの指差す方向を見ると、受付で長蛇の列ができていた。
あれに並ぶのか……まぁ仕方がないな。
そう思っていると突然ギルドの従業員から声をかけられた。
「ルフレイさん、ルフレイさんではないですか!?」
俺は声をかけられた方を振り向く。
するとそこには見覚えのある女性がいた。
確か、俺が冒険者カード取得のためにルクスタントのギルドに行った時に受付をしてくれた女性だ。
「お久しぶりです、こちらにおられたのですね。あれ以降お見かけしなかったので」
「久しぶり。えぇと……そう言えばまだ名前を聞いていなかったね、なんと呼べばいいかな?」
「エミリーとでも呼んでくださいな」
エミリーはルクスタントのギルド所属だったが今はこちらに来ているのだな。
こちらにも転勤のようなものはあるのだろうか。
俺は気になったので聞いてみた。
「まぁこっちの国にゴタゴタがありましたのでその混乱をおさえるというか、応援ですね」
ギルドの方にも戦争の影響は飛び火しているようだ。
そしてエミリーはイズンが背負っている男に気がついた。
彼女はその男がすぐに犯罪者だと気がついたようだ。
「犯罪者の引き渡しですね。ルフレイさんは特S級の冒険者ですのですぐにご案内しますね」
そういってエミリーはカウンターの奥へと消えていった。
そして彼女の代わりにやってきたのは他の冒険者たちの視線であった。
彼らは口々に「特S級……」とつぶやいており、なんだか居心地が悪かった。
「お待たせしました、こちらのカウンターにどうぞ~」
エミリーは特別にカウンターを開けてくれ、俺たちはそこに向かった。
イズンは背負っていた男をカウンターの上にどかっと置く。
男は痛みのせいか知らないが気絶していた。
「はい、確かにお預かりいたしました。お手数ですが皆さんの身分確認をいたしますので冒険者カードを出していただけますか?」
そう言われて俺は裏ポケットからカードホルダーを取り出す。
中には冒険者カードとマルセイ商会の会員カードが入っている。
その中から冒険者カードを取り出してカウンターに置いた。
続いてアンナもカウンターに冒険者カードを置く。
アンナのカードは俺の純金製のものとは違い、鉄で作られているようだ。
表面にはBランク冒険者と書かれている。
「預からせていただきますね。そちらのお姉さんもカードの提出をお願いします」
だがイズンは冒険者カードを持っていない。
俺はその旨をエミリーに伝えたので、早速冒険者カードを作ろうという流れになった。
彼女は早速奥イズンをステータス測定の置いてある部屋へと連れて行く。
「では、これに手を当ててください」
エミリーはそういってイズンに手を当てるように促した。
たしか俺がやった時にはほとんど情報が出てこなかったから、イズンならもっと無理だろうなと思った。
イズンは手をステータス測定板に置く。
――ERROR、のステータス――
○基本情報
・名前:ERROR
・年齢:ERROR
・性別:ERROR
○基本ステータス
・MP:ERROR/ERROR
・装備:R 庶民の服【上】
R 庶民の服【下】
R 庶民の下着【上】
R 庶民の下着【下】
○固有スキル
・ERROR code:∞
○汎用スキル
・ERROR
○称号
・ERROR
――でしょうね
こうなることは分かっていたが、俺のときとは違い黒塗りではなく認識すらされていない『ERROR』が表示されるのだな。
さすがは神様、と言ったところか。
「……はて、故障でもしたでしょうか?」
この前も同じやり取りを見た気がするが、エミリーは測定板の上に手を当てる。
だが当然のようにエミリーの正常な値が表示された。
彼女はその結果には混乱しているようだ。
「そうなるとは思っていたがやはりな。エミリー、今表示されたイズ――、イレーナの値は正常だ。何も表示されなくてあっている」
「といいますと?」
「なんというかまぁ……そういうことだ」
どういうことだよと自分でも思いながら笑って誤魔化す。
エミリーもよくわからないがそうなんだろうと自分に言い聞かせ、これ以上は気にしないことにした。
そのまま今度は試験を行う流れになる。
「ステータス鑑定は以上です。次はルフレイさんもやったことがあると思うのでわかると思いますが実地での戦闘になります。原則として先輩の冒険者が同行することになりますが今回はルフレイさんが同行されますか?」
「そうだね。それと1週間後に用事があるからそれまでに済ませれるように段取りしてもらえるかな?」
「畏まりました。では早速ですが明日の朝より旧ヴェルデンブラントとの国境にある森沿いで魔物をできるだけ狩ってきてください。証明にはその魔物の一部を持ってきていただければ構いません」
そういうことで、明日に俺が狩りに出かけることが確定した。
久しぶりの狩りだから少しワクワクする。
俺はエミリーのもとを辞し、ギルドの外に出た。
「ルフレイさん、明日に狩りに出かけるとのことでしたら今日は私の家に泊まっていかれませんか?」
ギルドの外に出るとアンナにそう誘われた。
だが戦争終わりで生きるだけで大変だという時期にお邪魔するのは悪い。
俺は迷惑はかけられないと丁重にアンナの誘いを断った。
「あら、家に負担をかけるとかの心配であれば何の問題もありませんよ? 私の父、公爵ですし。それに私の父にも命の恩人として紹介しないといけませんからね」
「え、公爵の娘?」
驚いた、まさかアンナが公爵の娘だとは。
服が一般人のものと同じだったのでそうには見えなかったな。
だが着ていないと外に出づらいとか、なにか理由があるのだろう。
しかし公爵と言えば貴族の中では最高位の存在のはずだ。
もし仲良くなることができれば、今後のゼーブリックの政権安定にもつながるかもしれない。
ならば提案にのっておくほうが得策か。
「じゃあせっかくだしお邪魔しようかな」
「本当ですか!? やったー!」
そういってアンナは俺の手を掴んだ。
そしてそのまま俺は彼女に引っ張られる。
その後ろをイズンは「やれやれ」と言いたげな顔でついてくる。