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第143話 蔓延る犯罪

 人仕事終えた俺とイズンは今、旧王都の町を散策している。

だがお忍びのため、目立つ格好をして歩くわけには行かない。

そこで俺たちは庶民の服をいくつか用意してもらい、それを着用していた。


「車から見た時はあまり活気がないように見えたが、実際に目で見てみると意外とそこまでひどくはないかもな」


「そうね。みんな必死に生きている、って感じがするわ」


 路地裏を覗いたりすると、こっそりと店を開いてものを売買しているものなのがいる。

昔で言うところの闇市のような存在であろう。

なんだかんだいって人はたくましく生きていけるのだな、と思った。


「キャ――!!!! 助けて〜〜!!」


 突然女性の悲鳴が表通りから響く。

俺は何事かと思って表通りの少し先の方を向き直った。

するとそこではガラの悪い男が若い女性の首を掴んで裏路地に引き入れようとしていた。


 だが驚くべきことに道行く人は女性を憐れむような目で見るが助けようとはしない。

全員生きることに必死だから他人を助けている暇もないのだろう。

そのまま女性は裏路地に姿を消してしまった。


「……ルフレイ、追うわよ」


「分かっている。はぁ……警察組織も作るべきであろうか……」


 俺たちは連れ去られた裏路地の方へと走る。

大して時間も経っていないためすぐに犯人には追いついた。

犯人は俺たちの足音に気付いてこちらを振り返る。


「おい、その女性を離せ」


「離してたまるか。こいつは売り飛ばされるんだよ!」


 そう言って男は女性の首元にナイフを突き立てる。

女性は恐怖でプルプル震えていた。

だが俺はそんなことよりも売り飛ばすという言葉に驚いた。


「売り飛ばす、だと?」


「そうだ。今女奴隷はルクスタントの金持ちに高値で売れるからな」


 何だって? ルクスタントの金持ちに売れるだと?

気になるが今は置いておこう。

とりあえずは今目の前の犯人に集中だ。


「もう一度だけ言う。今すぐにその女を離せ」


「嫌だと言っているだろう。それよりもあんた、見た感じ金持ちのようだがこの国のものほど疲れた顔つきをしていない。ということはルクスタントのものか? せっかくの縁だ、離してほしいと言うならこの女を安く売ってやろう」


 金持ちに見える?

俺はそうは見えないようにちゃんと変装をしているはずだが……

もしやバレるものでも身に着けているか?


「俺のどこが金持ちにみえるというんだ?」


「この国の普通の人間はコートなんて贅沢物は持っていないんだよ。それをあんたはさも当たり前かのように着ている。だから金持ちだと推測したんだ」


 ポケットに色々入れて持ち歩きたいと思ったからコートをもらったが、それが仇にでたか。

まぁ仕方がない、ここは一芝居を打つとするか。

俺はルクスタントの金持ちになりきることにした。


「……分かった。金を払うから約束通り女性を開放しろ」


「もちろんだ。金を払えば後はあんたの勝手だよ」


 俺はコートの左ポケットに手を突っ込む。

中には一応いるかと思って持ってきておいた金貨の入った袋がある。

俺はその袋の中を弄り、一番大きな金貨を取り出した。


「ほら、これでいいか」


 俺は金貨を男に向けて投げた。

男は女性から手を離し、空中で金貨をキャッチした。

だが男はその金貨を見て驚愕する。


「だ、大金貨……庶民の給料何十年分の金額なんだ。あんたは一体……」


 そういって男が放心している間にイズンが女性を保護する。

俺は大金貨がどれほどの価値か知らなかったが、島の金庫にはまだまだあるから良いだろう。

大金貨を少し眺めた男はなにか考えた後、ニヤッと笑った。


「あんた、これ以上に金を持っているな。見た感じひょろひょろだし簡単に殺せるだろう。あんたを殺して俺は大金持ちだ!」


 そういって男はナイフを俺の方へと向けた。

そしてそのままの姿勢でじりじりとこちらに近づいてくる。

俺はそんな男を見てため息を付いた。


「はぁ、早速これを使うことになるとはな……」


 俺は右ポケットに手を突っ込む。

そして俺はポケットの中に入っていたものを取り出した。

取り出したものは護身用に持っておいたコルトM1911自動拳銃、しかもサプレッサー付きだ。


「ナイフを下ろして両手を上げろ。さもなくば撃つぞ」


「あぁ? なんだその黒い鉄の棒は。そんなもので俺を殺せるとでもっ!」


 そういって男は俺に向かって飛びかかってきた。

仕方がないので俺はセーフティーを解除し、拳銃を男のすねに向ける。

照準を合わせたところで俺は引き金を引いた。


 ドン!


「ウァァァァ――!!!! 痛いっ――!!」


 銃弾は男のすねに命中し、血がだらだらと垂れてくる。

男はあまりの痛みに地面にうずくまった。

そんな男を俺は取り押さえる。


「あほだな、そのまま大金貨1枚で我慢しておけばよかったものを。まぁよく考えたらお前のようなやつは今後何をするかわからないから捕まえておいて正解かもしれないがな」


 ……だが俺は気付いた。

よく考えたら手を縛るための縄や手錠がないじゃないか。

何とか逃げないように捕縛しながら届け出ないとな。


「ルフレイ、これを使いなさい」


 そういってイズンが俺に何かを渡してきた。

なんだろうと思い俺が受け取ると、それは彼女の髪の毛であった。

何故に髪の毛、と思い俺は彼女の方を向く。


「これでは流石にちぎられると思うが……」


「良いから一回やってみなさい」


 イズンはそうとしか言わないためとりあえず試してみることにした。

俺は男の手に髪の毛を巻き付け、きつく縛る。

これでいいかと思い俺が手を話すと……


 なんと髪の毛が太くなり、しかも鋼鉄のように固くなった。

イズンの方を見ると、ウインクを返してきた。

不思議な髪の毛だなぁと思いながら俺は立ち上がる。


「あ、あの!」


「?」


「私なんかを助けて頂き、ありがとうございました!」


 そう言って助けた女性が頭を下げてくる。

俺はお礼は構わないと言い、どこか異常がないか聞いた。

特になにもないとのことなので俺は安心した。


「私、アンナと申します。お礼ならば何でもするので何なりとお申し付けください!」


「お礼かぁー、じゃあ交番まで道案内してくれない?」


 俺がそう言うと「交番?」とアンナは首を傾げた。

そうか、この世界には交番というものがないのか。

ならば別の言い方を……


「交番というか、犯罪者を突き出す場所かな」


「ならばギルドですね。すぐにご案内いたします♪」


 そういってアンナは先頭に立って俺たちを先導する。

犯人の男を抱えようと後ろを見ると、既にイズンが抱えていた。

俺たちは路地裏を出て表通りに戻る。


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