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第142話 新しい仲間

 薄暗い牢の中には火のついたろうそくが真ん中に1つだけ置いてある。

だが部屋が広いのでその明かりだけでは到底周りは見えない。

それに密閉空間であったせいもあるだろうが燃焼に酸素を使い、二酸化炭素が蓄積しているせいか息も詰まる。


「陰湿な部屋、とても人間の生きる場所じゃないわよ。仕方がないわねぇ……」


 後ろを見るとイズンが鼻を摘んでブツブツ言っている。

神様でも臭いとかは思うし感じるんだな。

彼女は指をこすり合わせ、『パチン』と鳴らせた。


 その途端部屋から異臭が取り除かれ、なぜか知らないがろうそくの発する光が強力になっていた。

一体何をしたんだか、俺は神様って便利だなーと思った。

だがお陰で牢内の様子がよく見えるようになったぞ。


 牢内は個々の部屋に分かれている。

そして分かれている部屋のいくつかに人が入っていた。

合計で4人、この前に引き連れられてきたときと同じ人数だ。


「全員何とか生きているようだな。まずは近くの……」


 俺はまず入口に一番近い牢に入れられていたロイドに近づく。

彼は過酷な収容生活もあって痩せこけていた。

だが俺が近づくとこちらを向いてじっと見つめてきた。


「……久しぶりだね。少しはこの前のこと、反省したか?」


「あぁ……そうだな……」


 ロイドは何とか声を出しているという感じであった。

かなり体調が悪いように見える。

そう思っていると後ろのドアが開き、食事だろうか、何かをお盆に乗せた兵士がやってきた。


「おい、食事の時間だ。ありがたく食え」


 そう言って兵士は食事をロイドの前に置いた。

そのまま何の言葉もかけることはなく次の人間へと食事を運んでいく。

俺は置かれた食事に目を通した。


「な、何だこれは!? これが食事だと、ふざけるのも大概にしろ!」


 その食事を見た時、俺は思わず声を張り上げてしまった。

トレーに乗っているのはほぼかびかけのパン一切れに泥のようなもののスープ、そしてコップ一杯の水だけだ。

こんな食事で人間が生きていけるはずがない。


「ど、どうしましたかルフレイ様。なにか問題でも……?」


「問題しかないだろう! この食事の量、メニューはどうなっているんだ!」


 これに何の問題も感じ何のであろうか。

この食事は地球のアウシュビッツやラーゲリーのそれと同じかそれ以上にひどい。

捕虜虐待などという言葉以上のものだ。


「は、元王族ということもあり多めで出しておりますが、少し豪華すぎたでありましょうか……」


「逆に決まっているだろうが! こんな量の食事で人が生きていけると思っているのか!?」


 この食事量を豪華だと思っているのか。

俺は急いで他の3人も確認をするために走る。

他の3人もロイドと同様に衰弱しており、その中でも最高齢の先王オラニア大公の衰弱度合いがひどかった。


「とりあえず捕虜は全員こちらで預からせてもらう。いいな?」


「えぇ、どうぞどうぞ……」


 俺は牢を開けようと思い鍵を受け取ろうと思った。

だがそれよりも先にイズンは牢の鉄格子を掴む。

そしてふんっと力を入れ、鉄格子を左右に引っ張った。


 すると驚くことに鉄格子はふにゃりと曲がり、人一人が通れるだけのスペースが空いた。

その場にいた全員がイズンの行動に驚愕する。

だが彼女は特になんとも思っていないようで、こちらを見ると首を傾げていった。


「あら、なにか問題でも?」


「いや、問題しか……まぁ良いか」


 俺はそれ以上そのことについて言及することはなかった。

イズンに牢からの人質の解放と玄関口まで運ぶよう伝えた俺は牢の外に出る。

ブルネイ泊地で待っているワスプからオスプレイを呼んで彼らを搬送するためだ。


『どうかしましたか司令?』


「済まないが王城に至急オスプレイを派遣してくれ。緊急の患者を搬送してもらう。搬送し終えた後はそっちで治療をするよう使えておいて遅れ」


『了解しました。すぐに向かわせます』





 40分後、俺は無事に捕虜たちをオスプレイへと受け渡した。

どうやらイズンがちょちょいと何かをしてくれたようで、少しだけ容態は良くなっていた。

一段落ついたので俺達は元の部屋に戻ってソファーに腰掛ける。


「先程は不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした……」


「俺も声を荒げてしまってすまない。まさかあれが当たり前よりも多いとは思っていなくてな」


 俺たちはお互いに謝った。

とりあえず何とかなりそうで良かったよ。

もしもう少し発見が遅れていたら彼らは死んでいたかもしれないな。


「……で、お聞きしたいのですが本来の目的とは一体?」


 彼は俺にそう聞いてくる。

そうだ、俺がこの国に来たのは捕虜の保護のためではなかった。

本当はメイドを探しに来たんだった。


「あぁ、実は今度我が国で大陸国家合同会議が開かれることになったんだが、そのもてなしや掃除をするためのメイドの人数が圧倒的に足りていなくてね。だからいくらかメイドをいくらかこちらで雇えないかと思ってね」


「メイドですか? 人数が余っているので構いませんよ。何なら今何人か見繕ってご紹介しましょうか?」


「そうしてくれるとありがたい。頼む」


「分かりました。少しお待ち下さいね」


 そう言い残し彼は部屋を出ていった。


 数十分後……


 戻ってきた彼から部屋に入り切らないからと言われ俺は玄関ホールへと連れ出された。

俺がホールに出ようと廊下の角を曲がった時。

俺は信じられない光景を目にした。


「え、いや、これ何人いるんだ……?」


 俺はホールの上から顔をのぞかせる。

下にはざっと200人ぐらいはメイドがいた。

彼女らは俺の存在に気が付き、頭を下げる。


「「「「よろしくお願いいたします、御主人様」」」」


「彼女らはイレーネ帝国への転属を希望した者たちです。といってもメイド全員ですがね」


 全員って。

そんなにうちの国のほうが良いのであろうか。

まぁ来てくれる分には大歓迎なのだが……


「そんなに連れていてしまったらこの城の掃除が今度大変になるだろう?」


「そこは新たなメイドを雇うことにします。これも雇用の創出に繋がりますから」


 そう言われてしまえばもう断ることができない。

宮殿のメイドも一気に大所帯になったな。

オリビアもきっと泣いて喜んでくれることだろうな、と俺は思った。


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