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第139話 艦隊ハリネズミ化計画

「司令、爆発の威力ですが想定の33メガトンよりも大きく、55メガトンであることが判明しました。私の計算ミスです」


 そう言いながらうなだれて作戦室に戻ってきたのはトマスだ。

魔石による反応を利用した未知の兵器である以上計算結果に狂いが生じるのも仕方がないだろう。

俺は彼に大丈夫だ、問題ないと言った。


「そう言ってもらえるとありがたいです。でも55メガトンといいますと、威力を半分に落としてはいるものの世界最強の出力を叩き出したツァーリ・ボンバよりも出力が大きいです。こんなもの普通には使えないですね」


「そうだな。でも【神殺し】にはこれぐらいいるんじゃないかな。それとももっと威力が必要かもしれん」


「仮想敵が全く未知の相手ですからね。我々は神の力を測る定規を持っていませんから」


 なんでも良いから神の力を測る基準が欲しいよな。

それさえ手に入れることができれば色々と推察できるのに。

どこかに転がっていないかなぁ……


 あ、そう言えば思いっきり島にいるじゃないか。

イズンもロキと同じ神だし、聖書の記述によると2人共ほとんど力は拮抗していたはずだ。

イレーネ島に帰ったらイズンに聞きに行くとするか。


「では司令、これにて爆弾の実験は終了となりますが、何か意見などありますか?」


 意見、意見なぁ。

現状ミトフェーラ魔王国にこの兵器を使うのはオーバースペックすぎるし。

できればであれば、戦術核のように小型化して運用しやすくするとかかな。


「そうだな、爆発機構は同じだが小型化して威力も抑え、戦術核のように運用できるようにするのはどうだろう」


「戦術核ですか? それだと1つ問題があるんですよね」


「問題? 何が問題なのだ?」


「魔石の出力というのは、そのぶつける魔石の体積比の2乗に比例します。簡単に言うと体積1という魔石同士をぶつけるのと、体積2という魔石同士をぶつけるのとでは威力が4倍違います。なので戦術核と同じ大きさにしても出力は大幅に減衰し、ミサイル程度の大きさになると1t爆弾とか、そこらの通常兵器と出力がトントンになってしまいます」


 なるほど、核兵器と違って威力が大幅に減衰するのか。

魔石は魔力の塊だし、その内包している魔力が大きく関係してくるのだな。

それにしてもミサイルの大きさまで小さくすると1t爆弾級になるとは、逆にあの爆弾に詰められていた魔石は規格外の大きさのものだったのかもしれないな。


「でも応用法はあるかもしれませんよ? たとえば戦艦の砲弾に使うとか。砲弾程度の大きさになると大規模殲滅兵器としての威力はなくなりますが、代わりに対地攻撃や対空攻撃などでは威力を発揮するのではないでしょうか」


「そういえばミトフェーラが翼竜ではない変な魔物を運用していたな、名はガーゴイルか」


 こちらで見たこのがないガーゴイル。

おそらくドラゴンがヴェルデンブラントの固有種であったように、ガーゴイルもそうなのであろう。

垂直離陸が可能とのことだから、どんなところでも万能に使える航空戦力となるであろう。


 それに我が艦隊には1つの問題がある。

それは大勢の適期が襲ってきたときの同時対処能力の欠如だ。

現代戦では飛んでくるミサイルに対応するが、どれほど多くても1000とか10000が飛んでくることはないはずだ。


 だが昔の時代は多数の航空機が敵艦隊に群がって攻撃していた。

あんな感じでもしガーゴイルが無数に群体を形成して襲ってきたら?

我々にはきっと全てのガーゴイルへの対処は不可能であろう。


 そうなってきた時に大事になってくるのはミサイルではなく対空砲だろう。

対空砲で弾幕を張り敵の侵入を許さず、そして入ってきたとしても機関砲、機銃の弾幕の雨を受ける。

幸いにもガーゴイルはあまり速度が出ないそうなのでハリネズミ弾幕も効果的だろう。


「よし、じゃあガーゴイルの相手をするためにも対空砲弾の研究を始めよう。そしてもう1つ作って欲しいものがある」


「もう1つ? 何でしょうか」


「それは大型の巡洋艦だ。足が早くて空母に随伴でき、かつ多数の対空砲と機関砲、機銃で弾幕を形成できる防空巡洋艦として用いたい。だが主砲は新規開発するその砲弾を使えるようある程度の大口径が良いな」


「分かりました。では似たような巡洋艦のアラスカ級をベースに設計しましょう」


 そんなこんなで対空砲弾の開発、新規の建造計画が決定した。

これらが達成された日には艦隊の防空能力は大幅に向上するだろう。

E-4たちはイレーネ島へと帰還していく。





 アルマーニ海、イレーネ島より南に300kmの海上。

そこには極秘に建造されたミトフェーラ魔王国の大型サルベージ船が航行していた。

この船は極秘の任務を与えられており、魔導通信の封鎖も行っていた。


 サルベージ船の乗組員は空に響く轟音に気づく。

だがその音が何の音かは分かっていなかった。

そして少し経った後、真っ暗だった空が昼間以上に明るく輝いた。


 ドォォォォン……


 大きな音とともに衝撃波がサルベージ船を襲う。

舷窓が粉々に割れ、乗員は驚き音がした方向を見た。

そこには大きくそびえるキノコ雲があった。


「な、何だあれは! まるで世界の終わりを告げるような雲ではないか!」


 そう言いながら乗員は周りを見る。

だが周りの乗員は皆衝撃波で吹き飛ばされ、絶命していた。

生き残った乗員はよろよろと艦橋に歩いていく。


「生きている人は……はぁ、はぁ……」


 艦橋の窓は吹き飛ばされ、室内には様々な瓦礫が散乱していた。

そこには血を流して倒れている別の乗組員らがいる。

だが幸いにも彼らは生き延びていたようだ。


「今のは何だったのだ、何が起こったのだ!」


「何かが爆発したようだ。とりあえず今はこの海域から脱出を……!」


 艦橋内ではあちらこちらから声が発せられた。

そしてとりあえず舵を取ろうと羅針盤の方へと向かう。

だが羅針盤は爆風で破壊されていた。


「これでは方角が分からない、どちらに向かえば正解か分からないではないか……」


 そして羅針盤以外の航海図なども吹き飛ばされて行方が不明になり、船は完全に位置を見失った。

乗員たちはその状況に絶望し、床に座り込んだ。

だがいくらかの乗組員は帰還をあきらめず、舵輪を手に取った。


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