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第138話 キノコ雲と爆風

「し、終末兵器、と言いますと……?」


 俺の発した終末兵器という言葉。

その言葉にトマスは動揺を隠せていなかった。

少し語弊のある言い方だったかな、と思い俺は補足した。


「終末兵器と言っても世界を滅ぼすための兵器ではない、逆に世界を救うための救済兵器だ」


「救済兵器、ですか……。一体何に使うつもりで?」


「冥界神との連絡の途絶、聖書の記述、神の器としての人造の巨人。イズンの言う『辛く、残酷な現実』とは冥界神のロキが復活してしまった世界線を指していると俺は考えている。そしてそれに抗うための兵器群を俺は終末兵器と呼んでいるんだ」


 トマスは表情を変えることなく考え込む。

冥界神が復活して世界が滅びるというシナリオは一見突飛なことに思えるが、十分にありえると俺は考えている。

そのシナリオに抗うことのできる力が俺の【統帥】であり、兵器の力ではないだろうか。


「言いたいことは概ね理解しました。つまり【神殺しの力】を作り出せというのですね」


「その通り。具体的には魔石同士の衝突で生まれる膨大な力を応用した兵器を開発して欲しい」


 そう言うとトマスはびっくりしたような顔をした。

ついこの間に「そんな危険な兵器を作るな」と言っていた本人が今度はそれを作ってくれと言っているんだから。

でも兵器の爆弾やその他の兵器の製造が公認されたことにより彼は内心喜んでいるようだ。


「この間は危険だと言っていたのに、えらく急な路線変更ですね。まぁ全然構いませんが」


「状況が状況だからな。こんなことがなければ俺も作れとは言わなかったが、背に腹は変えれん」


 正直魔石爆弾や、核爆弾でさえ神に効くかどうかはわからない。

でも何も準備しないよりはマシであろう。

そしてロキが復活せず兵器を使う必要がなくなるならなお良い。


「爆弾の他にも無人兵器や艦艇群、航空機や携帯火器など、多岐に渡る兵器群の研究、製造をお願いしたい。これらの兵器計画を『Operation Doomsday』と呼称しよう」


「終末計画……なんだかおどろおどろしい計画ですね。分かりました。工廠員全員の総力を上げて研究に取り掛かりましょう」


「頼んだ。この計画が成功するか否かはこの世界の運命を左右するということを覚えておいてくれ」


 俺とトマスは固い握手を交わした。

ではここからは具体的にどんな性能で、どんな運用をするのかを含めて話し合いを始めよう。

と思っていたのだが……


「では司令、早速あの爆弾の実証試験といきましょう」


「あぁ、先にそっちをやるのね。確かに理論だけではなく実測のデータも必要か」


 トマスからの提案でまずは魔石爆弾の実証試験をすることにした。

地球の最高クラスの核兵器にも近しい出力を持つ爆弾、これで神にダメージを与えることはできるのだろうか。

そこらへんは未知数だがまずは実験だ。


「では私はバラしてある組み立ててきます。それと並行して投下機に特殊な塗装も行わないといけないですね。あまりの熱線で塗装が剥げ落ちてしまいますから」


 それもそうだ、なんせ爆弾の出力が大きすぎるからな。

その後俺はトマスに言われたものを召喚し、後はいい感じに仕上げておくと言われた。

その言葉を信じて俺は工廠を後にした。





 あれから3日後。

俺の体は空中に存在していた。

そう、俺自身も飛行機に搭乗してこの目で実験を観察するのだ。


 今回俺が乗っているのはE-4ナイトウォッチ。

もとはアメリカで核戦争などの有事が起きた場合に使用される国家空中作戦センター機だ。

これに耐光塗装の白を塗って運用する。


 このナイトウォッチ以外にも、爆弾投下用のB-52H、観測用のRC-135、周囲の監視用のE-3セントリー、護衛のF-15Cなどが一緒に飛行していた。

これらの機は午後5時ごろにイレーネ島の空軍基地を離陸、イレーネ島南方の沖合で空中投下による実験を予定している。

到着する頃には夜中なので爆発の光が夜空を明るく照らすであろう。


 俺の乗るE-4にある国家指揮権限作業区画には俺と開発責任者のトマス、陸海空の三大臣がいた。

そして俺の手元には赤いボタンが1つ置かれてある。

このボタンはB-52Hへの爆弾投下要請のためのボタンであった。


「司令、予定作戦空域に到達しました。あとは司令がそのボタンを押すだけで爆弾が投下されます」


 そう言われるとなんだか緊張してくるな。

一応全国家には当該海域への立入禁止を勧告しているので巻き込まれる心配はないはずだ。

俺は意を決してボタンに手をかけた。


 カチッ


 ただそれだけの小さな音がしただけであった。

だがボタンを落としたことにより爆弾が投下された。

爆弾は落下速度を落とすためにパラシュートを展開する。


「爆弾が投下されたようです。映写室に移りましょう」


 俺達はRC-135が撮影している映像を見るために映写室へと移動する。

映写室では既に映像の中継が始まっていた。

そして俺が扉を開けて部屋の中に入った瞬間であった。


 ピカッ!


 映されている映像が急に真っ白になり、強い光を放った。

その光に俺は思わず目を瞑る。

そして目を開けると、そこには恐ろしい映像が広がっていた。


 そこに映っていたのはどんどんと大きくなっていくキノコ雲であった。

上の方から何重にも天使の輪のように水上機のリングが形成され、下に落ちていく。

結局横に広く、縦に低いキノコ雲が出来上がった。


 そして爆発によって発生した衝撃波は星を駆け巡り、1000km以上離れたフォアフェルシュタットの窓ガラスさえ打ち砕いた。

その時住民は寝ているから驚いただろうな。

この出来事は後に『窓ガラス事件』として語り継がれてゆく。


「これが魔石式爆弾の威力……これだけの威力がある爆弾であれば神でも殺せるのではないか」


 この時俺は純粋に兵器の力強さに感嘆していた。

そして俺はこの後実験の結果を聞いて驚くことになる。

出力が想定値より大幅に大きかったということを、ね。


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