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第137話 ベオバハトシリーズ

 俺はトマスに連れられて工廠の一室へと向かった。

そこの机の上には渡した本が置かれ、あたりにはメモ用紙が散乱していた。

1枚を手に取ってみると、びっしりと文字が書かれていた。


「色々と汚くてすみませんね。まぁとりあえずおかけください」


 そう言いながらトマスはメモ用紙をどかし、俺の座る分の場所を確保する。

俺は周りのメモ用紙を踏まないように注意を払いながら座った。

彼は俺の前に座り、早速本を持ち出して机の上に置いた。


「では早速結論ですが……ほとんど成果を得ることが出来ませんでした」


「そうか、まぁそうだろうとは思ったが」


 俺も目を通してから見ていろので無理だと感じていたが、やはり無理であったか。

どうも我々の世界の技術では太刀打ちができそうにないレベルの技術のようだ。

クラークの法則の3つめの『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』とはまさにこのことなのかもな。


 よもや古代文明の技術を搭載した兵器を開発できないかと思っていたが幻に終わったな……

ビームを撃つ戦艦とか密かに期待していたのに。

まぁ出来ないものは仕方がないからな。


「ですが1つだけ分かったことがあります。それは司令が不落宮の最深部で回収してきたロボットのことです」


 そう言えばそんな物もあったな。

たしか結局修復不可で倉庫の肥やしになっていたはずだ。

トマスは該当のページを開き、俺に見せてきた。


「『Beobacht series』、どうやらこの機体の設計図のようです。設計図によるとこの機体は施設の警備のための無人兵器であり、Beobacht seriesの中でも下位に属する機体のようです」


 ベオバハトシリーズ……

それがあのロボットのシリーズ名か。

該当のページには施設警備のためのモデル以外に、通常戦闘をこなす人造兵士も載っていた。


「記述を見る限り人造兵士の方は開発段階であったようですが結局完成していたのか否かは不明です。そしてこの機体を再現することは部品があれば理論上は可能でしょう。まだ我々の理解の範疇の代物です」


「部品があれば? 何か足りない部品でもあるのか?」


「えぇ、残念ながら脳にあたる人工知能の入ったメモリが焼き切れてしまっているようで、動作をさせることは困難ですね」


 人工知能で動くロボットに入れるべき人工知能がないのであれば仕方がないな。

もしかしたら遺跡を漁っていたら替えのメモリでもでて来るのだろうか。

まぁそこらへんはまた今度だな。


「……司令、それともう1つお話が」


「なんだい、何でも言っておくれ」


「はい、司令は先の戦争で鹵獲した、ヴェルデンブラントの使っていた対空砲を覚えていますか?」


 そりゃあもちろん覚えているとも。

あれの砲弾のせいで一度死にかけたからな。

……そういえばあの兵器の出所が不明だったな。


「勿論、あれがどうかしたか?」


「えぇ、あの対空砲を分解して調査した結果に基づいて書き起こした図面がこれ、そしてこちらの文献に載っている似たような砲の図面がこちらです」


 トマスは机の上に2枚の図面を置いた。

その2つの図面は、砲身の長さから各部の形状、留め具の数まで同じであった。

これはB-29をコピーしたTu-4のように、遺跡の発掘物をそのままリバースエンジニアリングした代物と考えるのが自然であろうな。


「お気づきだと思いますが、この2つの図面は完璧に一致しています。このことからも……」


「発掘品をリバースエンジ二アリングした可能性が高いということだな」


「その通りです。ですがコピーの対象となるオリジナルの砲はどこから出てきたのでしょう?」


 どこから砲が出土された?

確か軍務卿はこの手のものはミトフェーラで発掘されることが多いと言っていたな。

それを鑑みるのであればミトフェーラ、か。


「ミトフェーラ魔王国」


「おや、ご存知でしたか。実際にこの本にも今のミトフェーラ魔王国に当たる位置に生産工場があったことが示されています。というより生産工場はそのあたりに集中していたようですね。結果的に兵器やそれに関する本が多く出土しても何ら不思議ではないでしょう」


 ミトフェーラ魔王国はかつて兵器の生産工場が置かれていた場所だったのか。

その技術を応用してあの国は魔道具大国に上り詰めたと。

でもちょっと待てよ……?


「だがそうするとミトフェーラは発掘された砲を解析しリバースエンジニアリングしたお陰でいくらかの古代技術を持っていることになるが、これらの本を読むには英語の知識が必要だろう? どうやって情報を解析したと言うのだ」


「そこらへんはお答えしかねますが……強いて云うならば文字を読むことができるように何者からか何らかの援助があったのかもしれませんね。それもこの世界ではなく別の世界の英語について」


 過去にこの世界に英語話者がいたことはこれらの文献を見れば一目瞭然だが、彼らの言語のルーツはどこなのであろうか。

過去に俺と同じように転生者がいた? それともまた別の理由で普及し、話しているのだろうか。

この世界には謎がいっぱいだ。


「結論として、ヴェルデンブラントの砲はミトフェーラ産であり、研究の過程でミトフェーラ魔王国は一定程度の技術と知識を持っているかもしれないので要注意、ってこどですね」


 この短期間でずいぶんと多くのことを調べてくれたようだな。

トマスには感謝しかないよ。

そんな彼を見込んで1つだけ追加の注文をするとするか。


「トマス、君を信頼してもう1つお願いがあるんだが」


「どんな願いでも構いませんよ。私にできることであれば何でもお手伝いしますからね」


「……じゃあさ、『終末兵器』を作り出してくれないか?」


「……へ? 終末兵器?」


 突然の言葉にトマスは驚き焦っていた。


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