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第135話 インドラの矢

「お持ちいたました。私の私物ですがどうぞ」


 軍務卿が私物の聖書を持って部屋に戻ってくる。

俺はぺらぺらとページを捲り、目的の記述を見つけた。

そこには大陸間戦争に関する記述があった。


第三章 大陸間戦争


・第一節

 ■■■■の最後の子孫が死んだ後、連合帝国内では後継者争いが起こった。

それと同時に植民地も次々と反乱を起こし、帝国内は内乱に陥った。

世界は再び戦火に包まれた。


・第二節

 植民地の軍は連合帝国の植民地軍を用い本土へと迫る。

だが本土の正規軍はそれに対し対抗する。

多くの血が流れ、多くの街が焼き払われた。


・第三節

 戦争が始まって幾年が経っただろうか。

植民地も本土も疲弊し、でも戦争は続けられていた。

そんな中■■■■■を起動しようと連合帝国は画策する。


・第四節

 ■■■■■は人の作り出した知恵の実を与えられた。

■■■■■は自我を持ち、立ち上がる。

だが■■■■■が人の言うことを聞くことはなかった。


 以下欠損


・第二十二節

 世界は荒れ果て、人の住める場所はなくなった。

その中で人は生きることが出来ず、次々と倒れていった。

ついに人類は滅亡した。


 見開き1ページにも満たない文章量であるが、そう書かれていた。

その後には何ページにもわたって欠損とだけ書かれたページがある。

意図的に消されているのであろうか、それとももともとこうなのであろうか。


「この聖書はハインリヒ聖王国の出版しているもので、この原本となる本は聖王国が所有しております。その空白のページは実際に空白になっている部分だそうですよ」


 となると、そこに何が載っているのか、もしくは何も載っていないのかを確認するには聖王国まで行かねばならないのか。

ともあれ大陸間戦争に例の巨人らしきものの記述があることは確認できたな。

この聖書は部分的に正しい過去の出来事をまとめてあるものなのだろう。


「大陸間戦争ですが、文として残っているものではなく口述で伝えられているものでは『滅亡戦争』であると言われています。噂によると戦争が終わったのはどちらが降伏したとかではなく、神による裁きがおりたためだと言われていますね」


「神による裁き?」


「そうです、というのもこのような伝承がありまして……」


 そう言って彼は伝承を語り始めた。


「『戦極まりしとき空より神の炎が舞い降り、地を焼き払わん、その後世界は沈むであろう』です。私たち、というよりかは神学者達の中には大陸間戦争の後の空白の部分には神の裁きがあったと主張するものが一定数いるのが現状です」


 神の炎、神の裁き、か。

確かに古代文明が今に残っていない理由として、神による裁きがあったからだとしたらある程度説明がつく。

だがこの世界に存在する神はイズンとロキの2人、ロキにそのような力はないだろうから、やったとしたらイズン……? いや、まさかな。


 まぁ実際に文面に残っているわけではないから後から勝手に付け足されたものかもな。

イズンがそんなことをするとは思えないし。

でももしそうだとしたら……絶対に怒らせないようにしないとな。


「聖書も言い伝えも創作物かもしれませんのであまりあてにはしないほうが良いですよ。あ、それとこれ、よければどうぞ」


 そういって軍務卿は俺の前に1枚の古びた地図をパサッと置いた。

その古代の地図は昔地図帳などで見たメルカトル図法で描かれていた。

そして地形の高さに合わせて等高線が引かれている。


「これも昔の地図なのか、だが今の地図とは大陸の形がだいぶん違うような……」


 そう思い俺はスキル【世界地図】を使用する。

そうして出した同じ縮尺のメルカトル図法の地図を古い地図の上に重ねた。

そうして浮かんできたのは……


「この大陸の形、そして等高線の位置、間違いない……。軍務卿、もう一度伝承を言ってくれないか?」


「分かりました。『戦極まりしとき空より神の炎が舞い降り、地を焼き払わん、その後世界は沈むであろう』です。これで大丈夫でしょうか?」


「あぁ、ありがとう。そして伝承通りこの世界は……」


「世界は?」


「”沈んで”いる」


 間違いない、2つの地図を合わせたからこそ分かった。

今の大陸の海岸線は、古代の地図の等高線とぴったりリンクしている。

状況から察するに、少なくとも500Mは海の底に沈んでいるようだ。


 そうなると伝承は信憑性を増してくる。

実際に戦争の後半には神の怒りが炸裂したのかもしれないな。

それは誰のものかは……うぅん、分からん。


「すまない、少し頭が痛くなってきた。一旦今日はこれにて終わりにしようか。夜なのに付き合わせてしまってすまないね」


「いえ、全然構いませんよ。それとそれらの書物、必要であれば持ち帰っていただいて大丈夫ですよ」


 え、この本持って帰っていいの?

持って帰っても良いのであればいくらかもらっていくが。

でも一冊一冊にすごい値段がつくとか言っていなかったっけ?


「必要な分だけ持って帰ってもいいの?」


「はい、どうせ我々には読めませんし。それにこんな時間に来られるほど必要とされているようでしたので、本も必要にされて幸せだと思いますよ」


「ありがとう、では今読んでいた数冊を借りていくね」


「どうぞどうぞ、お気をつけて」


 そうして俺は読んでいた数冊の本を持って機密文書庫をでた。

軍務卿は俺を庭で待っているオスプレイのもとまで一緒について来てくれた。

そして去り際、こんなことを言われた。


「ルフレイ様が本を読めるのもやはり『神の使徒』だからなのでしょうか。あ、そういえば『神の使徒』で思い出したことがあります。聖書の最終章に神の使徒についての記述があったと思いますので是非参考にされてみては?」


「アドバイスありがとう、世話になったよ」


「どういたしまして」


 そういった俺はオスプレイに乗り込み、イレーネ島を目指す。

空にはきれいな満月が浮かんでいた。


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