食事ホールから外れて俺とグレースは応接室に入った。
俺とグレースはそれぞれ椅子に腰掛ける。
グレースの口から軍事という言葉が出てきたことにも驚いたが、とりあえずは話を聞いてみることにした。
「ごめんなさいねいきなり……」
「別にいいよ、で、軍事面での相談とのことだけど」
「そうなの。ルフレイも見たと思うけれどあのミトフェーラの艦、どう思った?」
ミトフェーラの艦、あの装甲戦闘艦のことか?
動力を搭載しているんだなーってこと以外は特に何も思わなかったけれどもなぁ……
しいて言うならばおそらくあれように蒸気タービンをいじったであろうエーリヒがすごいなーってことぐらいかな。
「うーん、特に何も?」
「なんでよ!? あなたの国は確かに艦がそろっているから対抗できるかもしれないけれど、こっちは譲渡された帆船だけでどうにかしないといけないのよ。この意味、分かるかしら?」
そう言われればそうだな。
確かにいくら最新の戦闘艦とは言え鋼鉄の装甲艦と戦うとなると苦戦どころか一方的にやられてしまうだろう。
蒸気タービン、あげない方が良かったかな。
「ようやく分かってくれたかしら。今後ミトフェーラが敵国になるかどうかは分からないし、そうなってほしいとは思わないけれども……もしものことを考えるとこちらが負ける可能性が高いのよ」
「……何をしてほしいの?」
「つまり、軍艦を売ってほしいの」
軍艦の売却か、それは俺だけでは判断しがたいな。
軍艦には多くの技術が使用されているし、もしも他国の手にでも渡ったら大変だ。
そうならないためには軍艦を売らないのが適切だとは思う。
だがルクスタント王国の領地が肥大化してしまった今、他国からの反発は必至だろう。
となると勢力を抑えるために戦争を仕掛けてくるかもしれない。
まだ売るとは言えないが、考慮には入れておいた方がいいな。
「今は返答ができない。だが明日一緒に造船所に行かないか?」
「分かったわ、楽しみにしておくわね。あ、そういえばもう一つ言うことを忘れていたわ。これは軍艦を売る売らない関係ない話で、この前の戦争への協力のお礼としてなのだけれど、なんでも一つ願いをかなえてあげるわ」
何でもか……ならば何がいいかな。
物はいらないし……そうだ、情報が欲しいかな。
特に古代に関する文献や聖書などがあれば良いのだが……
「そうだな、やはり欲しいのは情報、かな」
「情報? 何の情報が欲しいの?」
「古代の情報、特に古代文明の情報だ」
そういうとグレースは黙りこくった。
流石に古代の情報は持っていないか、持っていても解読ができないか。
そう思っているとグレースは俺にこう聞いてきた。
「古代の情報……たしか王城の機密文書庫に数多の本があると思うけれど、たぶん読めないと思うわよ」
「何、あるのか!? ならばぜひ読ませてほしい」
「えぇ、もちろんいいわよ」
そうなれば運転免許も何もかもすっ飛ばして見に行きたいな。
そう思った俺はいてもたってもいられなくなり椅子から立ち上がった。
急に立ち上がった俺を見たグレースは何事かと思い俺に話しかける。
「ルフレイ、そんなに急いで見に行きたいの?」
「もちろん、ちょっと今から王城に行くよ」
「あ、待って、私と軍艦を見に行くって話はー?」
「また今度ねー!」
呆然とするグレースを置いて俺は部屋を飛び出した。
◇
ドババババ……
俺を載せたオスプレイがルクスタント王国王城の庭に降り立つ。
するとその音に驚いた軍務卿が飛び起きて庭にやって来た。
彼は寝巻のまま俺に話しかける。
「ルフレイ様、いったいこんな夜中にどうしたんですか?」
軍務卿は眠そうに目をこすりながら俺を見る。
俺はそんな彼に機密文書庫の本を見せてほしいと言った。
グレースから許可を得ていることを聞いた彼は俺を文書庫へと案内してくれた。
「機密文書庫に保管されている文書類は先々代の国王が趣味で各国の遺跡から集めたものです。その時には読めないし何の利用価値はないと言われていたのでかなり安く購入できましたが、購入しまくった結果今は殆ど出回らないのでそれらの本は非常に高値がついています」
なるほど、かなり変わった王様だったのだな。
でもお陰で文書が見れるから感謝しないとな。
ところでなぜそんなに集めたのだろうか?
「その先々代の国王はその本の解読に挑戦したのか?」
「そう聞いております。何でもとある古代文書に書かれてある挿絵を見た王が『古代の超兵器だ!』と言って兵器を再現しようとしたことがきっかけだそうです。まぁ結局読めずじまいで今は保管されているということですね」
そうこうしていると、『機密文書庫』と書かれた巨大な扉の前についた。
軍務卿はその扉に施されている仕掛けをガチャガチャといじる。
すると「ガチャ」と鍵の外れる音がした。
「開きましたよ、どうぞお入りください」
俺は軍務卿に促されて室内へと入る。
するとそこには膨大な数の本を所蔵した図書館があった。
軍務卿は手元のスイッチをパチリと付けると、電球のように明かりがついた。
「不思議でしょう、これは遺跡にあったものを流用して作った照明なのですよ。とは言ってもルフレイ様にとっては大したものではないと思いますが」
まぁ電気で働く照明をいつも見ているからなぁ。
そう思いながら俺は目の前にある戸棚へと歩み寄った。
戸棚の横のプレートには『分類不明』と書かれている。
「ここに置かれている本は挿絵などがなく分類ができていないものばかりです」
ふーんと思いながら俺は本を適当に一冊手に取った。
その表紙には『So Sweet Love』と書かれている。
いや、思いっきり恋愛小説じゃないか。
「ねぇ軍務卿、これ恋愛小説だけど」
「え、恋愛小説? というか古代文字読めるんですか!?」
そう言いながらペラペラとページを捲る俺をみて軍務卿は驚愕する。
それよりも俺はこの本に使われている文字、言語に驚いていた。
この前の遺跡の時と同じ英語、そして活版印刷だ。
英語の文章があるということは、何らかの英語文明が存在していたと考えられる。
だがなぜこの世界に地球の言語が存在する?
この世界はもしかして地球の世界とつながっているのか?
「……まぁ良い、とりあえず次の棚に向かおうか」
「わ、分かりました……では次は軍事コーナーに向かいましょう」
そう言って軍務卿は俺を連れて室内を歩く。