目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第132話 ギブアンドテイク

「呼ばれたとおり来たわけだが……これはどういうことかな?」


 当日の午後、俺達は自動車の教習を受けるために飛行場へと来ていた。

俺はトマスから試作で作った車を使って練習すると聞いていたのだが。

だが実際そこに置かれているのは……


「はい、スーパーカーですね」


 おい、何をしれっとそんな事を言っているんだ。

そう、ここにあるのは日本でもみたことのあるウラ何とかや何とかドールのようなスーパーカーだ。

足し合わせるとウランドール……放射性物質の人形なんて嫌だな。


「これを運転初心者に運転しろと?」


「まさか、これは私が趣味で作ったものですよ。ちゃんと別の車を用意してあります」


 そう言ってトマスは手招きをした。

すると倉庫の影の方から続々と車が出てくる。

この車は知っているぞ、これはフォルクスワーゲン・ビートルだな。


「用意したのはこちらの車です。これならば何の心配もなく運転できることでしょう」


 確かに運転するならば最初はオープンカーではなくこちらの方が良いな。

……というわけで早速実習に移ることにしようか。

実習には俺、グレース、フローラ、メリル、そしてヨハンだ。


 え、竜討つ剣の4人はどうしたかって?

実はあの通信の後トマスから聞かされたことだが、バイクもあるとのことなので4人はバイクの練習をするために別行動をしている。

まだどんなバイクかみていないので後で見せてもらわないとな。


「ではまずはここの鉄の板をゆっくりと踏んでもらって、あ、この板はアクセルといいます」


「なるほどね。お、動き出したわ」


 ―――


 そんなこんなで練習をしていたらあっという間に一日が過ぎていた。

この調子で練習すれば全員が問題なく運転できるようになるだろう。

そう思いながら全員で夕食を食べていた。


「そういえばルフレイさん、あの車を売るつもりはありませんか?」


「売る? 商品としてか?」


 食事中に突然フローラがそう提案してくる。

それにしても車の販売か、特段考えてはいなかったな。

もしも車を売るというのならば、競争相手がいない分独壇場を築くことができるが……


「うーん、別に売っても良いんだが道路の整備ができていないだろう? 売っても走るための道が整備されていなければ意味がないぞ」


「その点は大丈夫じゃない? 馬車用の道があるし」


 グレースが俺達の会話に入り込んでくる。

確かに彼女の言う通り馬車用の道はあろう、だが車は馬車とは全くの別物だ。

車は馬車よりも速いしその分事故を起こしたときが危険で、法や環境の整備がないままやみくもに売り出すのは良くないな。


「車と馬車はあまりにも違いすぎる。もしも事故でも起こしたら大惨事だし、車を運転するための環境整備をしなければいけない。売るならばその後だな」


「そうですかー、残念です……」


 フローラはそう言ってしょぼんとした顔をする。

彼女は商売人だ、車に何らかの可能性を見出していたのだろう。

環境が整った暁にはマルセイ商会に車を卸すことにしようかな。


「じゃあさ、私達は免許をとっても車に乗れないってこと?」


「いや、ごくごく少数ならば問題はないと思っている。この場にいるみんなには車もしくはバイクを1台ずつあげようと思っているしね」


「まじで!? やったー!」


 バイクがもらえると聞いた竜討つ剣の4人は大はしゃぎだ。

どうやら彼らは教習の課程でバイクの良さに気がついてしまったらしい。

それにバイクも大型のものだそうで、横のサイドカーに様々な荷物が置けて便利とのことだ。


「もらえる……それはタダということでしょうか?」


「え、うん。勿論タダだよ」


 俺がそう言うとフローラはなんだか悩んだような顔をする。

彼女は本当にただで貰って良いのかどうかと葛藤していた。

そして彼女はある結論に達する。


「ただでもらうことができるのは非常に嬉しいのですが、私も商売人です。車のような素晴らしい物をタダでもらうわけにはいかないので、せめて何らかのお返しをさせてください」


 お返し、お返しかぁ。

別に俺には必要ないと思ったが、もらえるというのであればもらっておこう。

だが何が良いかなぁ……ものは別にいらないし……


「あ、そうだ。ではこんなものでどうだろうか。俺はフローラに車を譲渡する。その代わりマルセイ商会は今後のイレーネ帝国の永遠の貿易先であってほしいのだ」


「そんなことで構わないのですか、そういうことでしたら言われなくても勿論ですよ」


「ありがとう、助かるよ」


 これでフローラへの譲渡はスムーズに行くだろう。

そんな話をしていると、今度はグレースもなにかお返しがしたいと言ってきた。

グレースは女王だからなぁ、なにか国家単位でしてほしいこととか……


「!」


「? どうしたのルフレイ、なにか思いついたの?」


 俺はひらめいた、素晴らしいアイデアを。

車でも通信機でも船でも、この世界で作られたものは何でも魔石を使用する。

つまり魔石の安定的な入手を目指し、今こそあの施設を使うときではなかろうか。


「じゃあグレースからはダンジョンの独占使用権が欲しいかな。具体的には最下層とその上のいくらかの階の独占使用権が欲しい」


「独占使用権? たしかあのダンジョンは報告によるとかなり地下深くまであったらしいし別にいくらかは構わないわよ。でも何に使うの?」


「俺はあのダンジョンに巣食っていたよくわからないロボットを倒した時によくわからないスキルを手に入れたんだが、そのスキルを使えば好きに魔物が呼び出せるらしいからそれを倒して魔石を大量に入手しようと思ってね」


 なるほどね、とグレースは納得した。

だが魔石を大量に産出してもルクスタント王国には何の旨味もない。

だから産出した魔石料に応じていくらか金を払おうかと話したが、その必要はないと断られてしまった。


「じゃあこれで車の件は終わりね。で次に話したいことなんだけれども……この話は少し軍事的なことだから2人で話し合わないかしら」


 グレースが俺にそう言ってきた。

何のことだかよくわからないが軍事的なことならば民間人に聞かれないほうが良いな。

そう思った俺はグレースとともに一旦席を外した。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?