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第131話 ラッキー助兵衛

「おはよー」


「おはようございます」


 朝、宮殿の食事のホール。

起きてきたグレースがやってきてテーブルにつく。

机の上には多くの料理が置かれていた。


 ちなみのこの料理は夜な夜なオリビアが作っていてくれたらしい。

どうやら俺がいなかったので腕の中がさみしく、寝られなかったかららしい。

そろそろ1人で寝てほしいんだがな……


 そこで俺は部屋に帰った後一緒にベッドに入って寝てあげた。

だが彼女はまだベッドで寝ている。

ではどうやって抜け出してきたかだって?

俺が上着を犠牲にして上裸で抜けてきたのさ。


 そんなオリビアの代わりに今はイズンがみんなの身の回りの世話をしてくれている。

グレースは新しいメイドだと信じて疑っていないようだ。

ならば問題はない、と俺は思った。


「あら、新しいメイドさん? 避難民から雇ったのかしら?」


 思い出したかのようにグレースがメイド姿のイズンを見てそう言う。

その言葉にイズンはニコッと笑っただけで特に言及することはなかった。

そんな中廊下をバタバタと走る音が聞こえてくる。


「ハァ、ハァ……ご主人様!……はいらっしゃいますね。しかも上もちゃんと着ている……」


 オリビアが俺の脱ぎ捨てた上着を持って全速力で走ってくる。

だが俺はとっくに新しいのに着替えてきたので、彼女の走り損になってしまった。

それにしても疲れているだろうかたもうちょっと寝ていてもいいのに……


「ならば別に問題はないのですが……おや、そちらのメイド姿の方はどなたでしょう? 新しいメイドが入ったとは聞いていませんしそもそも私一人で十分だと思いますが……」


 そういってオリビアはイズンを怪訝な目で見る。

おい、ちゃんとばれないんじゃなのかよ。

そう思ってイズンの方を見ると、彼女の額からつーっと汗が流れる。


「私は新しいメイドのイレーナです。以後お見知りおきを」


 そういうとイズンは指をパチンと鳴らす。

すると一瞬空気が変わった気がするとともに、この場にいる俺以外の人間の記憶が書き換えられる。

彼らの記憶からよくわからないメイドの記憶は消え、新たにメイドのイレーナが書き加えられた。


「あぁ、そうでしたね……イレーナ、料理をお出しするのを手伝ってください」


「ふふっ、お任せください」


 そういうとイズン、名を変えてイレーナは俺に手を振った後オリビアとともに消えていった。

そういえば俺の部屋に地図が落ちていたが、彼女は頑張ってこの宮殿の作りを覚えたのだろうか。

まぁオリビアらしいと言えばオリビアらしいな。


「で、ルフレイ、メリル先生と竜討つ剣、後あの子供とその保護者はどこに行ったのかしら?」


 そういえばそうだな、まだ彼らがご飯を食べにやってきていない。

まだ寝ているのであろうか、俺はグレースに一言断って彼らの部屋を見に行くことにした。

俺はまずはメリルの部屋の前に立って部屋の扉をノックする。


「……うーん」


 なんだ、部屋の中からうめき声が聞こえてくるぞ。

もしかしたら何かあったのかもしれないな。

あまり女性の部屋を開けるのはいけないと思うが、でも倒れていたりしたら……


「おーい、入りますよー……」


 俺は扉をそーっと開けてメリルの部屋に入る。

するとそこにあったのは――

完全にベッドから転げ落ちて寝ている、しかも下着だけのメリルだった。


「あ……俺やらかしたな……」


 そう思い俺はそぉーっと扉を閉めようとした。

だがその時に扉の蝶番がキィーっと音を立てる。

小さな音であったが、メリルは目を覚ましてしまった。


「あら……おはよう……」


 お、どうやら寝ぼけているようだ。

ならばちょうど都合がいい、さっさと部屋を出ることにしよう。

だが彼女は俺が部屋を出るよりも早く自分の姿を眺め、そして俺の顔を眺めた。


「イヤアアアアアアアア~~~~!!!!」





 結局メリルの叫び声で全員が目を覚まし、今は朝ご飯を食べている。

最初はメリルにえらく怒られたが、直ぐに自分が悪かったと謝ってくれた。

俺もみてしまったことは悪かったので彼女に謝罪し、和解が成立した。


 だがメリルよりも恐ろしかったのはオリビアとグレース、そしてイズンだった。

彼女らは叫び声を聞くと同時にすっ飛んできて、部屋の中をみたと同時に俺の胸ぐらをつかんだ。

そして俺に変態だのスケベだの何だの色々と言ってきた。


 だが彼女らはそういううちにあることに気がついた。

あ、そう言えばメリルはもうすぐで30才だったなと。

それに気がついた彼女らは「三十路は流石にないか〜」といって素直に解放してくれた。


 三十路三十路と言われまくっていたメリルに若干の不憫さを覚えつつも俺は怒りが収まったことにホッとする。

その後は何事もなかったかのように談笑し、今は食事ということだ。

それにしてもジャンがよく食べるよく食べる、いや〜若いって良いなぁ。


「そういえばルフレイ、この前乗ったあの、何だっけ……あ、そうそう、車。あの車を自分で運転してみたいのだけれど」


 いきなりグレースがそう言ってきた。

なんだ、彼女は770に魅せられてしまったのだろうか。

確かに馬車よりも早く、快適な車に感動するのは当たり前かもしれない。


「別にそれは構わないが、それよりも先に少し練習したほうが良いかもな」


「練習ね、練習をすれば乗らせてくれるの?」


 そうだなぁ、日本ならば運転免許を取ればいいが、この世界にそんなものはないしな。

……と思ったがよく考えれば良いものがあるじゃないか。

それこそギルドカード、これを使えば疑似免許証を作ることだってできるはずだ。


「あぁ、構わない。でも俺も運転はあんまりだからなぁ……。そうだ、ちょいとトマスに聞いてみるか」


 そう思った俺はポケットから工廠の開発した魔導通信機、通称スマホを取り出す。

このスマホはすごいぞ、もはや液晶とカメラまでついているからな。

俺にはどんな原理かさっぱりわからないがとりあえず通信を試みる。


「しもしも?」


「おい、えらい古いネタだな。まぁ良いや、いまグレースが運転してみたいって言うからいっそのこと免許のようなものを作ろうかと思ったんだが、その監督をやってくれないかなと思って」


「別に構いませんよ。ちょうど試作で作った車を処分するかどうか考えていたのでその分を研修用の車に回しましょう」


 それは良かった。

俺もついでに免許を取っておこうかな。

オープンカーで海辺を走ったらさぞかし気持ちの良いことだろうなぁ。


「では用意があるので本日の午後ぐらいに飛行場へと集まってもらえますか?」


「午後に飛行場だな? 分かった。12時ぐらいに向かうことにするよ」


「了解です、ではー」


 そう言ってトマスは通信を切った。


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