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第130話 光と闇

「そうだよなー」


「はははは」


 イズンに飛ばされた後、俺達は他愛もない会話をして楽しんだ。

夜も更けてきたので俺達は一旦解散、明日に備えて寝ることにした。

各々が好きな部屋へと歩いていき、適当に眠る。


 だが俺は寝室へは向かわず、神殿の方へと向かっていた。

先程なんだかイズンがすねていたから、そのご機嫌取りを行うためだ。

俺は【世界地図】を見ながら再び神殿へと歩いていく。


「よし、開いてくれますように」


 俺は扉に手をかけてそっとそう願う。

すると扉はいとも簡単に開いた。

俺はそろりそろりと神殿内に足を踏み入れる。


「いらっしゃいルフレイ、歓迎するわよ」


「!」


 前を見てみるとイズンがそこには立っていた。

この人(神)は気まぐれに出てくるなぁと思いながら俺は彼女の方へと歩いていく。

彼女は俺を椅子に座るよう促したので、ありがたく座らせてもらうことにした。


「さて、まずは何から言おうかしらね。戦争勝利おめでとう? 宮殿完成おめでとう? どれもしっくりと来ないわね……」


 そう言いながらイズンは少し考える。

だが俺は別にどうでもよかったため、なぜ彼女が俺を呼び出したのかを聞いた。

するとようやく思い出したかのような表情で彼女は俺に話し始めた。


「そうそう、実はあなたに相談があってね……本来はあなたではなく私が自分で対処しないといけないことなのだけれど……」


「別になんでも構わないよ。話してみてくれ」


「ありがとう。実は現在冥界神と連絡が取れていなくてね……」


 冥界神? 一体何なのだそれは。

俺は創造神のイズンがいることは知っているが、冥界神なるものは聞いたことがない。

名前の通りやばい奴だったりするのだろうか。


「あぁ、冥界神を知らないのね。ならば補足させてもらうわ。冥界神は私の弟に当たる存在で、名をロキというわ」


「冥界神はイズンの弟なのか」


「そうよ。もしかしてあなた、聖書を読んだことがない?」


「あぁ、一切ない」


 俺がそう応えると、イズンは「はぁ」とため息を付いた。

だがそうはいってもなんだかんだで聖書の内容を教えてくれた。

その内容はこうだ。


・イズン教聖書(抜粋)


・第一節

 かつて世界が暗闇に包まれていた頃、一つの力の渦が生まれた。

その渦は長い時間そこにあったが、突如として破裂した。

その破裂とともに世界には時、光、物質など、ありとあらゆる概念が生み出された。


・第二節

 その渦からは一組の男女が生まれた。

その男の名をロキ、女の名をイズンといった。

イズンとロキは生まれた後数億年にもわたって戦い続けたが、ついにイズンが勝ち、ロキは暗闇へと堕ちていった。


・第四節

 イズンはその姿を小さな、でも美しい木の姿へと変え、長い眠りにつく。

その間、地上では大きな変化が起こっていた。

多くのものが生まれ、死に、笑い、泣いていた。


・第五節

 亡くなった魂は闇へと堕ち、そこでロキと出会った。

ロキは最初その者たちを仲間として扱っていた。

だがロキはその者たちの話を聞くにつれ次第に世界に戻ることを夢見始める。


・第六節

 ロキはその者たちに新たな肉体を与え、地上へと返した。

その者たちは魔物と呼ばれる姿へと変貌し地上の人々は忌み恐れた。

魔物たちは討伐され、再び闇へと堕ちていった。


 ……とのことだ。

つまるところ、ロキとイズンは同じなにか強大な力のうねりの中から生まれた兄弟だということだ。

その後は聖書には書かれていないが、2人は和解しイズンは表の神、創造神に、ロキが裏の神、冥界神になり二人で世界の秩序を保っていたのだとか。


「で、今はそのロキと連絡が取れないと?」


「そうなのよ。ロキはすべての魔物の親、彼が何かしでかすと世界の均衡が一気に崩れることになりかねないわ。それにあなたも気付いているんじゃないの? この島から魔物が少なくなっているということに」


 たしかにそう言われた気がする。

だが魔物が少なくなっているのであれば良いのではないだろうか。

そう思っていると、イズンがその考えに反対する。


「甘いわルフレイ、本来はあなたの島へと湧くべき魔物が今は別のところへと湧いている。この島の軍隊は強力だから別に何匹湧こうと大した問題じゃないけれど、他の国にとっては大問題よ。これの原因はロキだと私は思っているわ」


 たしかにそれは問題だな。

だがなぜロキはそんなことをわざわざしているのだろうか。

また再びイズンと戦うために戦力を整えているとか……?


「まぁつまり少しきな臭い感じになってきているってわけよ。そこで提案なのだけれど……」


 そう言うと彼女は背中から生えている羽をすうっと消した。

そして指を一回ぱちんと鳴らし、彼女の周りを煙が覆う。

煙が晴れる頃には彼女はオリビアと同じメイド服を来ていた。


「どう、似合っているでしょ。というわけで暫く地上を観察したいから私をメイドとして、人間として雇って、御主人様?」


「えぇ……それって神様として大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫! ちゃんと人間であるように偽装するわよ」


 そういう問題ではないと思うのだが。

だが彼女は目を輝かせてこちらを見ている。

そんな目をされると断りにくいじゃないか……仕方ないな。


「……はぁ、仕方がないね。分かった、こちらもその冥界神とやらは気になるから同行してもらおうか」


「わーい! やったー!」


 イズンは許可を出すと子どものようにはしゃいでいる。

そんなにこの世界に人間としていたかったのだろうか……

まぁそれほどロキとらやの動向が気になるのかもしれないが。


「では私は格好の通りあなたのメイドになるわ。創造神をメイドとして使えるなんて光栄だと思いなさい」


「はは、そうだね」


 どうやら俺の異世界生活がもっと騒がしくなりそうだ。





「ロキ様、ユグナーにございます」


 ミトフェーラ魔王城の使われていない一室の中。

魔王の弟であるユグナーは頭を垂れて座っていた。

その先には一つの椅子と、そこに座る黒い影のようなものがあった。


「やぁやぁユグナー、君はいつも暗いね。たまには明るく振る舞ってはどうだい?」


「は……こうでしょうか」


 そういってユグナーは口角をぎこちなく上げる。

そんな必死なユグナーの顔をみてロキはケタケタと笑った。

笑われたユグナーの顔は真顔に戻る。


「あ、ごめん、拗ねんなってもー。まぁいいか、それよりも俺のあげたアレ、どんな感じだい?」


「はい、周りの将軍たちに使ってみておりますが、かなりの効果が出ているように思います。今は普段通りに振る舞えと命令しておりますが、そのときには魔王以外は全員味方であります」


「そうかそうか、それは良かった。にしても君は国を乗っ取れる、私はその見返りとして膨大なMPをもらい、肉体を回復させる。なんて素晴らしい取引なんだろうな」


 そう言って2人は高らかに笑った。


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