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第129話 高級車と宮殿と神殿

 演習を終えた艦艇群は解散、各々の母港へと帰投していった。

だが俺を載せた比叡と客人を載せた榛名だけは新型艦隊とともにイレーネ湾に帰投した。

イレーネ湾に投錨すると俺はラッタルを降りて地を踏んだ。


「おー、ここがイレーネ島……初めてきたけれどもかなり繁栄しているのね。もしかしなくてもうちより……」


「いえグレースさん、私も一度商談のために立ち寄ったことがありますが、この前避難してきた時にその時よりも繁栄していて驚きましたよ」


 グレースやフローラなど、榛名から降りてきた人はもれなくはしゃいでいる。

竜討つ剣のメンバーたちも驚愕しながら船から降りてくる。

俺はそんな彼らに手を振った。

彼らもそれに気付いたらしくこちらへとやってきた。


「ようこそイレーネ島へ、歓迎するよ」


「初めてきたけれども、さすがねルフレイ。私、イレーネ帝国がこれほどまでに繁栄しているとは思わなかったわ」


「私もよルフレイ、教え子の国がここまで繁栄しているとはねぇ……」


 そう言いながら彼女らはキョロキョロと周りを見つめる。

そんな俺達のもとに6台の黒塗りのオープンカーがやってきた。

いつの間にこんなものを作っていたのだ……


「司令、お迎えにあがりました」


 そう言って車の中から降りてきたのはトマスだ。

いつの間にこんなものを作っていたのだと聞くと、この前の工廠見学のときには既にあったと答えられた。

まじか、あの時は爆弾に気を取られてすっかり忘れていたよ。


 話を聞くに、この車はメルセデス・ベンツ770という古い車がベースになっているらしい。

だがベースは外見だけで、エンジンや足回り、シートなどに至るまで最新式、超快適なものを装備しているとのことだ。


「宮殿までお送りいたします。ささ、お乗りになってください」


 俺の乗る770にはイレーネ帝国の前方には旗、側面には帝国の国章が据え付けられている。

グレースの乗る770には国章はついておらず、代わりにルクスタント王国の旗が取り付けられていた。

他の人達が乗る770にはそのような装飾は施されていない。


 俺達はそれぞれの車に乗り、ゆっくりと宮殿を目指した。

車は宮殿へと続くメイン通りをゆっくりと走行する。

その道路沿いには高級アパートが建っており、今そこに住んでいるフォアフェルシュタットからの避難民が窓から手を出して迎えてくれた。


 ……あれ、彼らは一体何時になったらフォアフェルシュタットに帰るのだ?

俺達がヴェルデンブラントに侵攻している間に安全が確保されたフォアフェルシュタットに帰りたいと申し出てきた人間は帰っていたが、彼らはまだ帰りたくないと帰還を拒んでいた。

まぁ初めての国民になっても良いんだがな。


 そんなアパート街を通過し、今度は凱旋門に差し掛かる。

凱旋門の下もゆっくりと走行した770は島の中心部へと差し掛かっていく。

そこには陸海空軍省、外務、内務省、議員のいない国会議事堂など中心的な建物が密集している。


 そんな通りの最後、突き当り部分は一気に円形に広がり、円の中心部には大きな噴水があった。

その周りは規則正しく配置された常緑樹で彩られている。

その先には階段であがったところに巨大な宮殿がそびえていた。


 車は円形の道をグルッと回り、1台ずつ階段の前に停車して乗客を下ろした。

降りた俺は、まずは階段の横に設置されている大理石に黄金の細工が施された巨大な二対の女神像を見る。

非常に精巧に作られたそれはまるで俺が神の使いであることを誇示しようとしているかのようにも感じられる(そんなつもりはないけどね)。


 俺はその階段を1段1段踏みしめて登ってゆく。

その後ろからもグレースたちが登ってきていた。

俺が階段の最頂部に達した時、目の前には広大な宮殿の建物が広がっていた。


「よく来たな司令……いや、よくいらっしゃいました陛下。歓迎いたします」


 宮殿の門の前に門番として立っていたロバートとその相方が宮殿の重たい扉を開く。

俺は近衛部隊に両端を囲まれながら宮殿内へとはいっていく。

俺は自慢しようと思って後ろを振り向こうとした時、ちょうど爽やかな風が庭を吹き抜けた。


「あ」


 後ろを振り向くと、そこには風に髪をなびかせたグレースとフローラ、そしてオリビアがいた。

俺は我を忘れて彼女らに見入ってしまったが、突然恥ずかしくなって顔を背けた。

なんだろう、不思議な感覚だ……頭がぽわぽわする……。


 俺は宮殿の方を向き直り、歩み始めた。

3人とその他の人も次々に階段を登ってやってくる。

俺は扉を開け、宮殿内へとはいっていった。


 中に入るとまずは大きなホールが俺達を出迎える。

天井には大きなシャンデリアがかかっており煌々とホールを照らしていた。

そしてここにも2対の女神像がある、が……こんなにいるか?


 そんなことを思いつつも俺は次に進もうとした。

だが……道がわからん。

俺もこの宮殿内に入るのは初めてなんだ。


「ルフレイ様、ここからは私が案内させていただきます。シュペー様から地図を渡されておりますので」


「そうか、じゃあ頼むよ」


 オリビアが俺の隣にやってきて、地図を持ちながらそう言う。

よくよく考えたら俺が【世界地図】を使えばよかったのだが、ここはまぁ任せてみよう。

俺達はとりあえず休憩のために応接間を目指すことにした。



 ――20分後



「あぁ〜……道がわかりませ〜ん……」


 歩き始めて20分、ついに応接間につくことはなかった。

理由は単純だ、宮殿内が広すぎ、そしてどこまで言っても景色が変わらない。

俺達は歩き過ぎでヘロヘロになっていた。


「この扉を開けたらそこに応接間がー」


 そう言いながら開けたドアの先には応接間はなかった。

そこは吹き抜けの中庭になっており、中庭の中心にはイズンの神殿がひっそりとあった。

グレースたちも神殿へとやってくる。


「こりゃあまた立派な神殿だなぁ……たまげたたまげた」


 そう言って神殿の方へと歩いていくのは竜討つ剣のリーダー、マックスだ。

彼は遠慮も何もなしにずけずけと神殿の方へと歩いていく。

まぁ冒険者らしいっちゃ冒険者らしいな。


「? おかしいな、開かないぞ?」


 マックスは勢いよく押すが、扉はびくとも動かない。

他のメンバーも加わって開けようと試みるが、ついに扉が開くことはなかった。

この神殿はイズンのテリトリーだ、イズンがなにかしている可能性も……


『おーいイズン、ドアを開けてくれよー』


 やはり返答はないか……

そう思っていると


『イ・ヤ・ヨ。あなた今女の子を連れてきてイイ気分になっているでしょう。嫉妬しちゃうわ。というわけでまた今度一人できなさい。あと扉は引き扉よ。扉が壊れるからやめてちょうだいね』


 そう聞こえたかと思うと直後体が光り、気がつくと応接間に飛ばされていた。

何が起こったのかよく分からなかったがとりあえず俺達は椅子に腰掛ける。

よくわからないが今度イズンに謝りにいかないとな……


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