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第128話 恋と戦いの大演習

 観艦式を終えた艦艇群は合同演習を行うために海峡を通過している。

この海峡は非常に幅が狭く、対岸が肉眼で見えるほどだ。

そのためもあってか岸辺には大勢の人が詰めかけ、艦隊の通過を見守っている。


 そんな中を艦隊は輪形陣から単縦陣へと陣形を転換させながら航行する。

俺は比叡の艦橋から双眼鏡を使って岸辺の人々を見る。

彼らはみな旗などを振って俺達を見送ってくれている。


「櫂野大佐、彼らになにかサプライズをしてやりたいと思う……というわけで後続の戦艦群に通達、主砲を空砲で1発ずつ発射せよ」


「分かりました……が司令、それよりももっと素晴らしいことが後ろで起こっていますよ?」


「素晴らしいこと? 一体何だ?」


 俺は防空指揮所に登って後ろを眺める。

すると櫂野大佐が言っていた素晴らしいこととは何かがすぐに分かった。

それは……


「陸奥、伊勢、山城……単縦陣でこの並びはまさか……」


「分かりましたか? あの有名な記録映像と同じ並びですよ」


 帝国海軍の数あるフィルムの中でも最も有名であろうあのシーン。

まさかこの並びを自らの目で見ることができるとは思ってもいなかった。

こうなれば陸奥に主砲を撃ってもらうしかないな。


「というわけで司令、早速陸奥に……ってどこにいかれるのですか!?」


「俺は陸奥の前を航行する武蔵に移動する。櫂野大佐は移動のためのヘリを呼んでおいてくれ」


「あっ……ふふ、仕方がないですね」


 俺は櫂野大佐が呼んだMH-60Rに搭乗して武蔵の後部甲板へと移動する。

MH-60Rを降りてそのまま俺はラッタルを下り、艦尾へと移動する。

走ってきたため少し息を荒げながら、俺はビデオカメラを召喚して構えた。


 俺がカメラに映像を収め始めると同時に陸奥の主砲身がゆっくりと上がる。

俺は焦っていたのもあり、取った映像のカメラワークが記録映像のそれと全くおなじになった。

陸奥は仰角を取り終わり、そして空砲を発射する。


 ドォォン……ドォォン……


 腹の底から揺さぶるような重厚な音が響き渡る。

俺からは見えないが岸辺の人々はその音と砲身から排出された煙に歓喜していた。

俺も興奮を必死に抑え、声を出さないようにしながら映像を撮影した。


 映像の撮影を終えた後、行きに乗ってきたMH-60Rに乗って比叡へと帰還する。

俺が比叡に帰還した頃には既に海峡を通過しており、アルマーニ海に出ていた。

艦隊は陣形を第四警戒航行序列へと変化させた。


 これにて演習の準備が整い、順次演習が始まった。

まずは手始めに空母、翼竜母艦からそれぞれの艦載機が発進する。

空はたちまち艦載機、艦載竜たちで埋め尽くされた。


 それぞれの機体はハの字型に隊形を構築し、艦隊の上空を通過する。

そんな彼らを眺めながら次は海の王者が火を吹く。

大和に武蔵、長門に陸奥にアイオワ……帝国海軍に属するすべての戦艦群から艦砲が一斉射された。


 ズドォォォォン……ズドドォォン……


 今度は空砲ではなく実弾が発射された。

海面に着弾した砲弾は、中に含まれた着色料が溶け出して様々な色の水柱を上げる。

双眼鏡で覗くとそれはもうすごく巨大な水柱であった。


 戦艦の砲撃があったかと思うと今度は比叡の横を高速で船が駆け抜けていく。

それは阿賀野に引き連れられた水雷戦隊であった。

水雷戦隊は30ノット以上の高速で航行し、その後順次左回頭する。


 回頭し終えると今度は秘蔵の酸素魚雷を発射する。

酸素魚雷はあまり雷跡を曳かずに遥か彼方へと進んでいった。

その後は装甲戦闘艦の砲撃演習や戦闘艦の戦闘演習、輸送艦による洋上補給などの演習をし、今回の特別大演習は幕を閉じた。





 観艦式が始まる少し前。

Z泊地に停泊していた供奉艦の榛名に、俺から特別に招待された客人が乗艦していた。

呼んだのはルクスタント女王のグレース、王都学園の担任のメリル、マルセイ商会商会長のフローラ、ヴァイスバッハで俺を襲ってきたジャン、そのジャンを鍛えているバルテルスの親戚のヨハン、そして竜討つ剣の4人だ。


「おー、これがあのコウテイの船かー、でっかくてかっこいいなぁー!」


 ジャンがそう言って榛名の最上甲板を走り回る。

そんな無邪気な彼をヨハンは苦笑いしながら追いかけていた。

幸い榛名の乗組員もニコニコしながらそれを見ているので2人が何かをされる心配はない。


 そんな彼らを艦橋の上から見つめるのはメリルだ。

彼女は教師という仕事柄もあり子供が大好きだ。

そんな彼女の後ろに誰かが立つ。


「おやグレースさん、いやグレース陛下かしら? あなたも呼ばれたの?」


「そうですねメリル先生。お会いできてうれしいです」


「私もよ。にしても不思議よね、教え子の一人は自分の国の元首になるし、編入生は他国の皇帝になって戦争に勝利し今はこうして大層な式典を開いている。人間生きていると何が起こるか分からないわね」


 メリルはそう言って艦橋の手すりに肘をつく。

グレースも手すりに手を置いて最上甲板を眺める。

すると下でフローラが遊びまわっているジャンにおやつをあげているのを見かけた。


「確かあれは王都にもある大商会のフローラ=マルセイ……よし、ちょっとお菓子を頂いてきますか」


 グレースはそう言って艦橋の階段を駆け下りる。

メリルも仕方がないと言わんばかりの顔で下へと降りて行った。

下ではグレースとフローラ、メリル、ジャンにヨハンが用意されていた椅子とテーブルで楽しくお茶会を始める。


 だがお茶会に飽きたジャンが抜け出し、それにヨハンがついていったことでお茶会は女子3人で進められることになった。

話していくうちに内容はいつの間にかルフレイについての話になっていた。

だがそこでメリルが流れとは言えどとんでもない爆弾発言をする。


「実は私、ルフレイのことが好きなのよねー」


「分かりますーその気持ちー」


「そうよねー私もですー」


「「……ってはぁ!? ちょっとどういうことですかメリルさん(先生)!?」」


 最初は何の疑いもなくそう返したグレースとフローラであったが、よくよく考えると恐ろしい発言であったことに気がついた。

彼女らはものすごい形相でメリルをまくしたてる。

そんな彼女らにメリルは必死で弁明した。


「あ、そういう好きじゃなくて、その、いち生徒としてということよ?」


「本当ですか〜?」


 グレースはメリルの言葉に怪しみの目を向ける。

だがこれ以上詰めても何もないのでこれ以上深堀りすることはなかった。

しかしメリルは放って置かれるが、今度はフローラとグレースの間で言い争いが起こる。


「私は同級生でしかも一緒に住んでいたんだからね! 私のほうが彼を愛しているわ」


「残念でした! 私はあなたよりも彼に先に助けられてその時に惚れているんですー!」


 なんと醜い争いであろうか。

だが彼女らは必死になって言い争いを続ける。

そんなところに世話役のオリビアが紅茶を持ってやってくる。


「どうぞ、紅茶です」


「あ、オリビアあんたねぇ〜、いっつもルフレイと一緒に暮らしているからって調子に乗るんじゃないわよ!」


「え、急にどうしたのですか?」


 はぐらかすオリビアを尻目にグレースは紅茶を一気にすする。

だが淹れたてであったので紅茶は非常に熱く、思わず舌を火傷しそうになる。

少し冷やした後、再び話を続ける。


「そう言えばあなた、まだルフレイと一緒のベッドで寝ているの?」


「? 勿論ですがなにか問題でも?」


 そういってオリビアは首を傾げる。

だがその口元には勝利の笑みが浮かんでいた。

それを見つけたグレースはムキーッと怒る。


「そんなことよりももうすぐで出港です。早く片付けをしてくださいね」


「あー……分かったわよ、すぐに片付けるわ」


 そう言いながらフローラとグレースは片付けを始める。

片付けが終わり全員が艦内に入ると、いよいよ艦は観艦式に向けて動き始めた。


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