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第126話 観艦式の準備

「見事な艦隊ですね。本当にすべて譲渡していただいても良いのですか?」


 フォアフェルシュタットの桟橋の上。

ゼーブリック王国から鹵獲した艦船の譲渡のために俺はここにやってきていた。

隣には視察のために軍務卿が立っている。


 湾内には移送されてきた艦たちが所狭しと並んでいた。

皆帆をたたみ錨を下ろして停泊している。

俺と軍務卿は先程からずっとこの景色を眺めていた。


「別に構わないさ、むしろこの度の戦争で失った海軍艦船の穴埋めに使ってほしいと思ってね」


「それは感謝です。もはや貴方様にはこれまでもですがこれからもずっと頭が上がりませんね」


「良いよ別にそういうの。それよりも大事に使ってくれよ」


 この船の乗組員も船の移動に合わせてフォアフェルシュタットへと異動になっている。

だがどうしてもルクスタント王国ではなくイレーネ帝国の人間でありたかったとのことなので、所属はルクスタント王国だが国籍はイレーネ帝国とふしぎなことになっている。


 そんな彼らはいま停泊している船たちの上で整備を行ってくれていた。

彼らいわく「船をいつでもきれいな状態に保っておきたい」とのことだ。

俺はそんな彼らに感心した。


「ところでルフレイ様、話は少し変わって観艦式の件についてなのですが……」


「おぉ、あれ以降なにか進展はあったのか?」


 俺がそう尋ねると、軍務卿は首を縦に振った。

そして手に持っていた紙を俺にすっと渡す。

俺はその紙を広げて、中に書かれていることを確認する。


「どれどれ……参加の意思を表明している国と参加艦艇一覧、ね」


 俺はその一覧に目を通す。

まず目にはいってきたのはミトフェーラ魔王国という国名であった。

ミトフェーラと言えばエーリヒの国だ、技術力も高いらしいしどんな艦艇がやってくるのか楽しみだな。


 ミトフェ―ラ魔王国の派遣する艦艇は……

装甲戦闘艦5隻に帆船式戦闘艦5隻。

帆船式はわかるが装甲戦闘艦とは何であろうか、帆船式に装甲を加えたもの? まぁ当日の楽しみにとっておこう。


 次に参加する国は……イーデ獣王国か。

未だにこの国の人間とはほとんど関わりがないが、一体どのような国家なのであろうか。

今度訪問してみたいな。


 イーデ獣帝国から派遣されてくる艦艇は……

帆船式戦闘艦5隻に帆船式大型輸送艦3隻、こちらはすべて帆船式のようだな。

それにしてもどの国家も1,2隻ぐらいしか派遣しないかと思ったら、案外派遣してくれるものなのだな。


 お次はフリーデン連立王朝、エルフの集まる国家だな。

この国からは帆船式大型指揮艦が2隻派遣されてくるそうだ。

これでほとんどの国家が出揃ったかな、と思いきや。


「え、ハイリッヒ聖王国? たしか聖王国と言えば北方にあるイズン教の総本山的な場所であったと思うが、そんな国家が戦闘艦を保有しているのか?」


「いえ、聖王国は戦争のための船は1隻も所持していませんよ。今回の派遣は教皇が神によって戴冠されたルフレイ様の主導される式典ということで参加したいと仰ってこられましたので」


 なるほど、そういう理屈があったのか。

参加艦艇は帆船の1隻のみだが十分嬉しい。

この式典が平和的なものになればいいなぁ。


「これで参加国と参加艦艇は以上となります。次にやらねばならないことですが、まずは屋内に移動しましょうか」


 俺達はずっと外で話していたので、とりあえず屋内へと移動することにした。

移動先はフローラの経営するマルセイ商会の建物であった。

あいにくフローラはいなかったが、部屋を貸してもらうことは出来た。


「で、次にやらなければならないことですが……あ、あったあった、これですね」


 軍務卿はカバンの中から分厚い紙の束を取り出す。

その表紙には『観艦式 観覧席について』と書かれていた。

たしかに観艦式を行うのであれば見物客はいた方が良いな。


「観艦式に観客を入れたいのですが、観艦式は海の上で行うという性質上陸から見物するのは非常に困難です。そのためにいくつか案を考えたので、採用か不採用かを決めていただきたいと思います」


 左様か、と思い俺は書類に目を通す。

まずは第1案、艦艇は動かずに陸地に停泊し、それを陸から見物する。

この案は船を動かすことが出来ないので却下だな。


 次に各々手漕ぎボートなりを持ってきてもらって海にで、観覧する。

この案も却下だ、手漕ぎボートは小さすぎるし、もしも衝突したらと思うと悲惨だ。

それに誰もがボートを持っているわけではないだろう。


 次の案、この案が一番実現性が高そうだ。

それは何らかの超巨大船を建造、もしくはチャーターし、その上に観客を乗せる。

この方針は海上自衛隊のそれと同じだな。


 巨大船であれば俺が召喚すれば事足りる。

俺はこの案を採用することに決めた。

俺は書類にサインを書き、軍務卿に返却する。


「なるほど、巨大船の案にされるのですね。ではこの巨大船はどこからチャーターしますか、それとも新規建造?」


「ふふ、安心しなさい軍務卿、今からその大型艦艇を見せて上げましょう」


 俺は軍務卿をつれて建物からで、再びフォアフェルシュタットの港に戻る。

どうやら鹵獲艦たちの整備は終わったようで、湾内には余裕が生まれていた。

俺はそこに向かってスキルを発動させる。


「スキル【統帥】発動、赤城、加賀、大鳳、信濃を召喚!」


 水面が輝き、4隻の軍艦が姿を表す。

俺のスキル発動風景を見たことのなかった軍務卿は驚き固まっていた。

俺はそんな彼をおいておいて艦を見る。


 これらの艦艇は帝国海軍の中でも大型の空母だ。

これらであれば大人数の乗艦、観覧でも問題はないであろう。

それに、式典が終われば旧式艦隊に編入すれば良いんだしな。


「おーい軍務卿、これで大型船問題は解決したぞー」


「……はっ! そ、そうですね、ありがとうございます」


「どういたしまして。あ、それで1つ頼まれたいんだけれど……」


 俺はそう言いながら軍服の裏に増設したポケットから封筒にはいった紙を複数取り出す。

俺はその束を軍務卿に渡した。

軍務卿は何だか分からずにそれを受け取る。


「あの……これは一体?」


「それは観艦式の招待券だよ。俺がお世話になったひとなどに宛てた物だ。これらのひとに招待券を届けて欲しいんだ。お願いできる?」


「勿論ですとも、お任せください」


「ありがとう、じゃあ頼んだよ」


 俺はそう言うとついさっき召喚した赤城に乗り込み、フォアフェルシュタットを後にした。


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