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第123話 戦後処理

 タタンタタン、タタンタタン、タタンタタン、タララララ♪


 ルクスタント王国王都に響く行進曲。

イレーネ帝国軍楽隊の演奏する、ドイツの『ケーニヒスグレッツ行進曲』だ。

戦車や歩兵戦闘車などはその音楽に合わせてゆっくりと行進している。


 今は一体何をしているのかって?

答えはずばり、戦勝パレードだ。

昨夜ヴェルデンブラント奥地の砂漠からここまで帰還してきていた。


『続いてはイレーネ帝国軍、戦車部隊です』


 王都内にアナウンスの声が響く。

今使用しているスピーカーは王都学園に設置されていたものを流用している。

スピーカーで流れたように、戦車部隊は観閲するグレースの立つ台の前を通り過ぎる。


 俺は今回観閲する側ではなく、観閲される側として戦車に乗っている。

俺はグレースの前に来ると、彼女に頭を向け敬礼する。

彼女もそれに応えて敬礼を返してくれた。


「うわー、なにこれー! 鉄の亀―?」


「坊や、これは戦車というんだって。大きくて強いんだよ」


「すごーい! 僕も乗ってみたーい!」


「大人になったらね」


 沿道では子供や大人が大行列をなして行進を見つめる。

特に子どもたちは純粋に戦車などに目を輝かせていて、見ていてほっこりした。

いつか基地祭みたいな感じで一般公開もするべきだろうか。


 その後も歩兵や自走ロケット砲なども観閲を受け、全工程が終了した。

見物人たちも散り散りに帰っていき、パレードは幕を閉じる。

俺は部隊の連中にゼーブリック泊地に帰還するように命令した。


 戦車部隊たちが去っていった後、この場には俺と護衛の近衛兵50人だけが残って居た。

俺たち全員は今度はグレースのいる城へと向かった。

門を顔パスで通り過ぎ、城内に入ろうとすると前から人が現れた。


「おぉルフレイ様! ご無事なようで何よりです」


「一体会うのはいつぶりだろうか。この通り元気だよ。とりあえずグレースを読んでもらえるかい?」


「グレース様ですね、少々お待ちください」


 前から現れたのは軍務卿であった。

少し彼と会話を交わした後、グレースを呼びに行ってもらう。

俺は暫くの間下で待機していた。


「ルフレイ、久しぶりね! あなたが無事で何よりだわ」


 グレースは階段を急いで駆け下りながらこっちにやってくる。

そして彼女はその勢いのまま俺の胸元にダイブしてきた。

それを俺はグッと支える。


「あなたが参戦してくれると聞いた時どれほど嬉しかったことか。ルフレイ、あなたはこの国の救世主よ!」


 救世主、それは少し言いすぎな気がするな……

それはそうと、そのことに関してひとつ言いたいことがあるんだった。

なぜあの時俺にさっさと参戦要求をしなかったのかということだ。


「グレース、一つ聞きたいんだが、なぜあの時あんなにも参戦要求をするのが遅かったんだ? もっと早かったら今よりも犠牲者も少なく出来たかもしれないのに」


 俺がそう言うとグレースはシュンとしてうつむいた。

彼女にもなにか考えはあったのだろうが、結果的にそれが被害の拡大につながった。

今後はそういう事があってはならない。


「まぁ女王になりたてだがらっていうのもあると思うがな。そこでバツとして軍務卿から王としてのいろはをとことん教えてもらいなさい」


「え〜〜」


「え〜〜、じゃない、ちゃんとやってね。軍務卿、お願いします」


 俺がそう言うと、軍務卿は親指をぐっと立てて返答した。

よかった、と俺が思っていると、グレースがぎゅっと抱きついてきた。

なんだろう、下を見ると彼女の目には涙が溜まっている。


「……どうしたの」


「放っておいて……今はこうしていたい気分だから」


 そう行って胸にうずくまるグレースは、今にも壊れてしまいそうなほどもろく見えた。

だがそんな彼女がどこか可愛らしい、俺はそう思った。

そして俺は彼女を抱き返し、しばらくその状態で居た。





「寝ちゃいましたね……」


「うん、そうだね。おきたら勉強頼むよ」


「勿論です。ビシバシ行きますよ―!」


 俺と軍務卿は寝てしまったグレースを抱えて彼女の寝室に送り届けた。

その後俺たちは談話室に移動し、椅子にゆったりと腰掛ける。

城のメイドが紅茶を入れてくれたので、俺はそれを軽く口に含んだ。


「そう言えば軍務卿、我がイレーネ帝国は今ゼーブリックとヴェルデンブラントの両国を占領状態にあるが正直言って別に海外領土はいらない。だからその後の処遇を決めておかないか?」


「構いませんよ。一言言わせてもらうと、我が国も特に領土を増やしたいとは思いません。領土を広げると他国からの非難が激しいですしね」


 そういえばこの前の大陸国家会議でもゼーブリック、ヴェルデンブラントの拡大に他国が猛反発していたな。

それと同じことが今俺達に起ころうとしているのか。

なにかいい案は……あるじゃないか。


「じゃあこういうのはどうだろうか。2国は独立させるが裏では我々とつながっている傀儡国家にするというのは。そうすれば独立国に見せかけて裏ではこちらがいい感じに舵取りをすることができる」


「なるほど、傀儡国家ですか。それは中々いい案かもしれないですね」


 軍務卿もこの案に賛成してくれた。

……あ、そう言えばひとつだけほしい領土があるんだった。

それはZ泊地だ。


「……軍務卿、さっき領地はいらないと言ったんだが、やはり元々ゼーブリック海軍の泊地があった場所だけは欲しいんだが良いかね?」


「別に構いませんよ。うちにはもう海軍戦力も残っていませんしね」


 そうか、ルクスタントの海軍戦力はゼーブリック艦隊によって壊滅させられたんだったな。

流石に海軍戦力を一つも持っていないのは問題なのでそこは早急に整備してもらわないとな。

と思ったがよくよく考えたらうちに帆船、鹵獲した分が余っているじゃないか。


「軍務卿、鹵獲したゼーブリックの軍艦が余っているんだがいるかい?」


「え、頂いても良いんですか? 頂けるのであれば頂きますけど……」


「じゃあ決定、鹵獲した軍艦はすべてそっちにすべて譲渡するよ」


 これでルクスタントの海軍戦力がゼロであることはなくなったな。

50隻位いれば船団のひとつぐらいは作れるだろう。

船団ができれば合同演習などもやってみたいな。


 ……いや、合同演習、やれば良いんじゃないか?

国威発揚と国際交流を兼ねた合同演習、いや観艦式を。

それもこの大陸中の国家を巻き込む規模で。


 早速俺はそのことを軍務卿に相談した。

彼もその案にノリノリで、ぜひやろうと言ってくれた。

開催日は2ヶ月後、大陸中の国家に参加を促すことも決まった。


 戦争も終わりしばらくは平和な時間が流れそうだ。

俺は来る観艦式に思いを馳せていた。


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