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第122話 全作戦終了、されど……

「ロネ様……あれは一体……」


 近衛隊隊長クリストフは窓の外を眺める。

そこには少数の、黒い鎧で全身を覆った軍団が居た。

だが装備を見る限りヴェルデンブラントの軍勢ではない。


「あれは助っ人の軍団だよ。私が呼び寄せておいたのだ」


「いつの間に……ってあの旗印はまさか……!」


 軍団内に翻るひとつの旗。

その文様はヴェルデンブラントではなく別の国を表していた。

その国とは――


「そうだ。あれはミトフェ―ラ魔王国独立部隊、魔王の兄のユグナー=フォン=ミトフェーラ殿の率いる特殊部隊だ」


「ミトフェ―ラ王国、まさかあの技術大国がこちら側で参戦すると?」


「いや、表向きにはそうではない。ユグナー殿は戦争に参戦するよう魔王である妹に掛け合ったそうだが、弟のエーリヒ殿の猛反対と、基本中立の原則を理由に断られたそうだ」


 つまりはお忍びでの参戦ということになる。

そのために姿を隠すためにあんな鎧を着ているのだ。

事実彼らにそんな武装は全く持って不要であり普段は着用していない。


「ではユグナー殿が下で待っている。早く迎えに行こうか」


 ロネはくるっと踵を返し扉の方へと歩いていく。

クリストフもそれに従って部屋を出た。

そして誰も居なくなった部屋には、扉の閉まる音だけが響く。





「これはこれはユグナー殿、こんな所まで来ていただいてありがとうございます」


 ロネは馬にまたがっているユグナーの前に行き挨拶する。

だがユグナーはそれに応えることはなく、城の方をじっとまっすぐ見つめていた。

その様子に少し焦ったロネはへりくだった姿勢でユグナーを見つめる。


「……! あ、すまん。少し考え事をしていてな」


「左様でございますか。あ、その砲は新しく技術供与していただけるものですかな?」


 ロネはユグナーらの後ろに控えている砲を発見して歩み寄る。

ユグナーも馬を巧みに操ってロネの方へと移動する。

ロネはその砲の砲身を眺め、撫でていた。


「それはこの前までのものとは違い榴弾砲と呼ばれる種類の兵器だ。どれ、試し打ちでもしてみるか」


 ユグナーは部下に指示し榴弾砲の装填を始める。

装填が完了すると、彼は部下に発射するように命令を下した。

部下はそれに応じて紐を引っ張り、榴弾砲を発射した。


 ドォォォォン…………ドガァァァァン!


 轟音が鳴り響き、前方にあるトロイエブルク城の城壁が崩れ落ちる。

なんと彼らの放った砲弾は味方の基地に打ち込まれた。

だがそんな事を気にするような人間ではなく、次は第二射の準備にはいっている。


「ちょ、ちょっとまってくださいよ、あの城がなくなれば敵に対抗する手段どころか補給すら危うくなりますよ」


 ロネはそう言ってユグナーに砲撃の停止を求める。

だがユグナーはそんなことお構い無しでどんどん砲弾を撃ち込んでいく。

10分もたつ頃にはもう城は原型をとどめておらず、あちこちで火災が発生していた。


「あぁ、最後の砦が、私のトロイエブルク城が……」


 ロネは絶望して体が崩れ落ちる、

だがユグナーはそれを横からニタニタとしながら笑っていた。

そして彼は口を開く。


「元々お前の国が勝てるとは思っていなかった。だから予想的中だな。我々はそちら側で参戦することはないだろう。それにお前は”俺の飴”でずいぶんといい思いをしてきたじゃないか。もう良いだろう」


 ユグナーはそう言って背中に刺してある銃のようなものを取り出す。

その銃口をロネの方へと向けた。

そして引き金を引き、弾丸がロネの心臓めがけて飛んでいく。


「ぐはっ、なぜですかユグナー殿」


「すまんなロネよ、私の野望達成のために死んでもらおう」


 そしてロネが砂の上に倒れた所、残りの兵にユグナーは命令し、残った近衛隊の隊員を次々と襲わせる。

突然の手のひら返しに兵たちは対応することも出来ず次々に銃のような平気で撃ち殺されていった。

こうして内部分裂によりヴェルデンブラント近衛隊は手を下すことなく壊滅した。





「司令、もうすぐで目的の城が見えてくるはずです。見えたら部隊から離れてくださいね」


「分かっているよ……だがなんだか煙が見えないか?」


「? 煙ですか? そう言われてみれば……」


 俺とロンメル大将は戦車のハッチを開けて身を出し前を見る。

そこにはかすかだが黒煙が見て取れた。

戦車たちは速度を上げてそれがなになのかを確認に行く。


 戦車を少し砂漠の丘に移動させて城を見下ろす。

すると城はボコボコに破壊され、ごうごうと燃え盛っていた。

つい3時間前の偵察では異常なしとのことだったのに……


「燃えて……いますね……そんな、ばかな……」


 ロンメル大将も信じられないという顔をしてその様子を見つめている。

まさか敵が燃えているなど考えもしていなかったのだ。

内部分裂か、それとも何かのボヤが拡大したのか……


「とりあえず降りてみましょう。話はそこからです」


「そうだな……」


 戦車部隊は砂漠の丘を駆け下りて燃え盛る城に接近する。

下に降りてきてようやく分かるが地面には足跡などが残されている。

それはここ最近に人の出入りがあったことを示している。


「司令、見てくださいよこれ……」


 戦車から降りた俺たちに、同じく戦車を降りたベルントが話しかけてくる。

彼に呼ばれたのでついて行ったら、そこには想像を絶するものが転がっていた。

それは額よりも上が切り取られ、脳が取り除かれた死体であった。


「うわぁ、なんて悪趣味な……っていうかここ」


 俺はそばに落ちていた、これとセットになるであろう胴体を見つめる。

するとそこには血文字でロネ=ヴェルデンブラントと書かれていた。

このことから察するにこの死体は俺たちが追っていたロネのものだろう。


「司令、それにこの傷見てくださいよ。これは銃創ではないですか?」


「本当だ、たしかに銃創だな……」


 ロネの死体、その胸のあたりに銃創のような小さな穴がポッカリと空いていた。

これはやはり銃なのだろうか、でもそんな高度な武器を扱う国家がどこに?

そう思っていると今度はロンメル大将に呼ばれた。


「見て下さい、これは馬の蹄の後と人間の足跡です。消えていないことを見るに最近のものでここと向こう側を大人数で移動していたようです」


 もはや理由のわからないことだらけだ。

勝手に死んだロネ、あの体にあった銃創や地面に残る足跡は何なのか。

俺はわからないことだらけであったが、仕方がなくとりあえず全作戦完了ということにしてヴェルデンブラント王都に帰還することにした。




――――後書き――――


最後まで読んでいただきありがとうございました!

これにて第三章完結です。

明日からは第四章開幕! 未知のミトフェーラ魔王国の謎に迫れる……?

こうご期待!


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