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第121話 パンツァーリート

「総員、敬礼!」


 ヴェルデンブラント城前の広場。

前にアルブレヒトが軍を集めた場所に今はイレーネ帝国軍の部隊が集まっていた。

俺はその部隊の前に立ち、敬礼を受けている。


 これらの部隊は俺の管轄下を離れて今はロンメル大将の指揮下に入っていた。

この部隊を俺は『イレーネ・ヴェルデンブラント軍団』と呼称している。

これはWW2のロンメルの指揮下にあった『ドイツ・アフリカ軍』に由来している。


 俺はこの部隊にはついていくが戦闘には直接参加するわけではない。

ただただ高みの見物をするのみだ。

だが本物の将軍の戦闘指揮を見ることができるのは楽しみだ。


「では司令はあちらのエイブラムスにお乗りください。もしものことがあっても大丈夫なように護衛はつけておきます」


 俺はロンメル大将につれられてエイブラムスに乗り込む。

俺のエイブラムスの護衛にはブラッドレーが2両ついてくる。

他の部隊はみなロンメル大将と共に行動をするそうだ。


 俺は敬礼を受けたあと一歩後ろに下がり、代わりにロンメル大将が前に出てくる。

彼にも同じく部隊員は敬礼をし、彼はそれに応える。

その後に彼は司令官として話を始めた。


「諸君、本日より臨時で私が戦闘の指揮を取ることになった。だが安心してほしい、私、エルヴィン、いやこのエルヴィン=ロンメルが諸君らを勝利に導こう」


 その発言に広場内がザワッとなる。

なにせ彼は悪名高きナチス=ドイツの軍人だからだ。

いかに高名な将軍であろうと ナチスの人間であったということには変わりない。


「ふざけるな! 貴様らナチスの人間が今更何をするつもりだ!」


 部隊員の中の誰かがそう叫ぶ。

その声を皮切りに多くの人間がブーイングを行った。

だがロンメルはそれを静かに、でも悲しそうに眺めていた。


「あーあーお前ら、一旦落ち着け」


 俺はとりあえず騒ぎまくっている彼らを沈静化させる。

彼らも俺が落ち着けと言ったからには素直に落ち着いた。

俺はどうにかして仲直りしてほしいと思った。


「たしかに彼は昔にナチスの人間であったことに変わりはない。それは紛れもない事実だ。だが今は違うのではないか? 同じ釜の飯を食う仲だ、私に召喚された友だ。どうか考えを変えてくれないか、頼む」


 絶対にしてはいけないと思う、思うのだけれど――

俺は彼らに深々と頭を下げた。

俺のその行動にロンメルも部隊員も驚き止めようとする。


「君たちが仲良くやってくれるのならばんの文句も問題もない。俺の頭なんていくらでも下げよう」


「司令、どうかおやめください! 私の為なんぞに頭を下げないでください」


「いいや、仲良くしてくれるまで俺は頭を下げ続けるね」


 そうしていると、部隊員のほうがとうとう折れた。

彼らの中から代表してベルントがやってき、頭を下げている俺の前にしゃがみ込む。

そして彼は言った。


「よく分かりました。過去のことはすべて水に流し、今は、そして今後はロンメル大将、いやロンメル将軍と協力し、同じ仲間として戦っていきます」


 そう言ったあとベルントはロンメル大将の方へと歩いていき、彼と硬い握手を交わした。

その様子を見て俺は安心して頭を上げる。

部隊の結束は固まった、今こそ出撃の時だ。





「ゲホッゲホッ、何ともひどい砂煙だなぁ」


 俺は手を口に当てながら咳き込む。

その様子を隣の戦車に乗っているロンメル大将は笑いながら見ていた。

こっちは死にかけているんだ、何を笑っているんだよ。


「あぁ、懐かしいですね。私が昔アフリカで戦っていた時もこのような感じでした。あの時は総統のためにと……」


 そこでロンメル大将は言葉を止める。

確かロンメル大将の最後は、ヒトラー暗殺計画に参加したことが発覚して服毒自殺か裁判かを迫られた結果服毒自殺したはずだ。

その時のことを思い出しているのだろう。


「………… 嵐も雪も、太陽燦々たる、灼熱の日も〜」


 ロンメル大将が細々と歌い出す。

この歌は聞いたことがある、パンツァーリートだ。

俺はロンメル大将の横顔をのぞいた。


「凍てつく夜も、顔が埃に塗れんとも」


 ロンメル大将の横顔は笑っていた。

楽しいのであろう、その顔を見ると俺も思わず笑ってしまいそうになる。

そう思っていると、口が勝手に動いていた。


「「陽気なり我等が心!」」


 俺もつられてパンツァーリートを歌っていた。

ロンメル大将はそんな俺の方を見て嬉しそうに笑う。

すると今度は、ハッチから身を乗り出していた他の戦車長たちも一斉に歌い出した。


「「「「然り、我等が心!」」」」


 俺たちはお互いの顔を見つめ合い、そしてお互いの顔に笑った。

その顔がどうしようもなく楽しそうであったからだ。

最後に俺たちは声を揃えて大声で歌った。


「「「「驀進するは我等が戦車、暴風の只中を! 

顔が埃に塗れんとも、陽気なり我等が心、然り、我等が心! 驀進するは我等が戦車、暴風の只中を!」」」」


 あぁ、この一体感、この結束感。

この感情こそが国民を結びつけ、死に物狂いで戦わせる原動力なのだな。

俺は歌いながらそう思った。





 カラコロ……


 トロイエブルク城、城内。

ロネは例の黄色い飴をカラカラと舐めていた。

王都の人間に渡す分を彼が持っているのでその数に余裕はあった。


 コンコン


「失礼いたします」


 扉が開き、近衛隊の隊長が入ってくる。

彼はロネの前に歩み寄った。

そんな彼をロネはゆっくりと見上げる。


「ロネ様、1つ質問があって参りました」


「何でも言ってみな、答えることのできることだったら答えてあげよう」


 ロネはそう言いながら立ち上がる。

彼はそのままカーテンの閉まっている窓の方へと歩いて行った。

そんな彼に近衛隊隊長は話しかける。


「正直我々だけでは防衛戦力が足りるとは言い切れません。何か対策はあるのでしょうか」


 その言葉を聞いたロネはクスッと笑った。

そして彼はシャッとカーテンを開ける。

外はもう夜で、月光が部屋に差し込んだ。


「対策はあるさ……ほら、下を見てみろ」


 そう言われた近衛隊隊長は下を覗いた。

そしてそこにあったのはーー


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