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第120話 砂漠の狐

「やあいらっしゃい。よく来たね」


 俺はヴェルデンブラント王都に付属している飛行場で、百式司偵を出迎えていた。

百式司偵からは陸軍大臣のエルヴィン元帥が降りてくる。

俺は彼の方に歩み寄り握手を交わした。


「お久しぶりです司令」


「立ち話も何だ。まあとりあえず室内にはいって話そう」


 俺はエルヴィン大将を伴って城の中に入る。

俺達は城に付属している応接間に入り、椅子に腰掛けた。

俺が座ると同時にメイドがやってき、ペコリとお辞儀をした。


「お二人共、お飲み物は紅茶でよろしいでしょうか?」


「あ、私は構いませんよ」


 メイドが紅茶でいいかと聞いてきたが、エルヴィン大将は遠慮した。

のどが渇いているのだろうか? それともまた別の意味が?

そう考えていると、俺はある仮説にたどり着いた。


「……どうしたんだエルヴィン大将、何か顔についているかい?」


「……いえ、別に何も」


 だがエルヴィン大将は俺の方を明らかにじっと見てくる。

やはりなにか裏があるな、俺はそう思った。

そこで俺は仮説を試してみることにした。


「まさかとは思うが……ビールが飲みたいのか?」


「!! い、いえ、そんなことは……えぇ、そんなことは、なななないですよ?」


 いやめちゃくちゃに動揺しているじゃないか。

やはり狙いはビールであったか、ドイツ人の血は抗えないな。

せっかく来てくれたんだし今回ぐらいは……


「分かったよ。ビールは出してやるからさ」


「!! そ、そうですか? まぁもらえるのであればもらいます」


 俺は何か追加でおつまみを注文しないとな、と思った。

試しにソーセージがないか聞いてみるとあるとのことだったので持ってきてもらうことにした。

あとはビール用のグラスも注文し、メイドは部屋から出ていった。


「……で、ここに来たのにはなにか理由があるのだろう?」


「そうでしたね。ではまずはこれをご覧ください」


 エルヴィン大将はポケットを弄り、1枚の写真を取り出す。

その写真はどこかの城か砦での航空写真のようであった。

俺は写真を受け取りじっくりと眺める。


「それは敵の逃れた軍勢が今立てこもっている城塞です。RQ-4が偶然逃げる軍を見つけたので追跡した所、その城塞が判明しました」


「そうか、報告ご苦労」


 俺はその写真を机の上に置く。

するとエルヴィン大将は身を乗り出してきた。

急なことに面食らうが、その後彼はこういった。


「問題はこの城塞のある場所です! この城塞の周りは一面砂漠で進撃が非常に困難なのです」


 エルヴィン大将はさらに身を乗り出してくる。

それ以上身を乗り出すと倒れるんじゃないかと思うほどだ。

すると案の定……


「わわっ!」


「ちょ、やばいって!」


 エルヴィン大将は身を乗り出しすぎるがあまりこちらに倒れ込んできた。

そして彼は俺の座る椅子の肘掛けに手をついてなんとか衝突を回避する。

でもこんな姿他の人に見られたら……


 がちゃっ


「失礼しまーす……ってぇえ!! お、お楽しみの所すみません……ごゆっくり……」


「違うって! ほら、エルヴィン大将もどいたどいた!」


 最悪の事態が起こってしまった。

だがメイドもこれが事故だと認識してくれたらしく俺の尊厳が失われることはなかった。

彼女は机の上に俺の紅茶とお茶菓子、そしてソーセージとグラスを置いた。


 エルヴィン大将は早速ビール瓶の栓を開け、ビールをグラスに注ぐ。

ビールを注ぎ終えた彼はひと思いにビールを喉に流し込む。

ゴクッ、ゴクッとビールが喉を通るいい音が響いた。


「あ゙ぁ゙〜っ、やっぱり冷えたビールはいいですね~!」


 エルヴィン大将はグラスなみなみに注いだビールを一気飲みした。

そして彼の口元ではビールの泡が真っ白な髭になっている。

ソーセージも食べ、彼は幸せそうな顔をしていた。


「どうもありがとう。これはお礼だ。ぜひみんなで飲んでくれ」


 俺は横に控えていたメイドに追加で召喚したビール瓶を数本渡す。

彼女は最初遠慮していたが、結局折れてビール瓶を受け取った。

彼女はそれをお盆の上に載せて部屋から出ていった。


「……では話の続きをしようか」


「話の続き、ビールの話でしたっけ?」


「違う! 敵の砦の話だよ。周りが砂漠でナンタラカンタラって言っていたでしょう?」


 そんな話もありましたねぇとエルヴィン大将はソーセージをポリっとしながら話す。

彼は噛んでいたソーセージを飲み込みこちらを向く。

そして彼は俺に本題を話し始めた。


「司令、そこでお願いなのですが……私に指揮をさせていただけないでしょうか」


「指揮をさせてほしい? 別に構わないがどうして急に?」


 俺はエルヴィン大将の意図があまり良く分からずとりあえず紅茶をすする。

そして一緒に食べたお茶請けのクッキーはほんのり甘く美味しかった。

彼は俺に話を続ける。


「そもそも司令……私が誰だか気付いていますか?」


「へ、誰かって? エルヴィン大将はエルヴィン大将でしょ?」


「そうですが違いますよ……エルヴィンと言えば何を想像しますか?」


 エルヴィン、エルヴィンねぇ。

エルヴィンと名の付く有名な軍人は居たかなぁ。

……まさかとは思うが


「エルヴィン=ロンメル……?」


「正解です司令。逆に今まで気が付かなかったのですか?」


「いや、確かに召喚時に『有能な将軍』として想起したけれど、まさか本人が召喚されるとはつゆほども思っていなかったから」


「うーん、本人かと言われればそうじゃない気がしますがね。あくまでもロンメルの知識を持ちロンメルの体をした何者か、ですね」


 それを本人というのではないだろうか。

ということは他の大将たちもそうなのであろうか。

考えるに海軍大臣ウィリアムはウィリアム=ハルゼー、空軍大臣ハンスはハンス=ウルリッヒ=ルーデルということになるのか…ヤバい人間に囲まれているな。


「どうして名前をあえて伏せていたんだ? 最初からロンメルと名乗っても良かっただろうに」


「それは……この名前を聞いて司令はどう感じるだろうと思って伏せていたのです。ですが今ならば大丈夫かと思いまして」


 まぁドイツの軍人ということもあるし色々あるのかもな。

だが俺はそんなことは特段気にしない。

むしろ彼のことをよりよく知ることが出来て嬉しいぐらいだ。


「私はアフリカでの戦闘経験があります。きっとお役に立てるかと」


「分かった、エルヴィン大将、あらためロンメル大将に砂漠の砦攻略を任せよう。本作戦の名は――『デザトフォックス作戦』だ」


 ロネよ、もう逃さんぞ。


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