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第119話 古参の実力

「はぁ、なんとか死体を燃やし終わりましたよ……まったく、なんでいきなりバタバタ死ぬんでしょうねぇ」


 ロバートが肩をグルグルしながらやってくる。

彼らにお願いしていた死体の片付けが終わったようだ。

ロバートはなぜ大勢死んだのか聞いてくるが、その答えはむしろこっちが聞きたいぐらいだ。


「……で、残ったのは彼らですか」


 ロバートは部屋の端っこを見て言う。

玉座の間の端っこには大量死を逃れた数名の老人が、身を小さくして立っていた。

俺は彼らに話しかけようと近づく。


 俺が近づいていくと、彼らは一瞬ビクッとした。

だが少し震えながらも俺の方へと歩み寄ってくる。

彼らは俺の前に来るとペコっとお辞儀をした。


「突然前で多くの人間が死んだんだ、少しショックだと思うがそれは俺も同じだ。……で、君たちはなぜか死ぬことはなかったが、もしかして飴と何らかの関係があるのか?」


「は、そのことについては飴を食べておりませんのでなんとも……あ、自己紹介をしておりませんでした。私の名前はオスカー、ヴェルデンブラント王国で文官をやっております」


 集団の中の一番年を取った人間が俺に挨拶をした。

俺はオスカーに返答代わりに右手を出し彼と握手する。

そして立ちながら話をするのも何なので、俺は彼ら生き残りに椅子に座ることを勧めた。


 全員が座ったところで、俺はオスカーたちの方を向く。

オスカーはさっき飴を食べていないと言った、ということは飴を食べていなければ死なないのかもしれない。

生き残っている他の人間にも聞いてみよう。


「では、改めて質問だが、オスカーはさっき飴を食べていないと言った。他のものも飴を食べていないのか?」


「私は食べておりません」

「儂もです」

「私も」


 やはり全員が飴を接種していない。

ということはやはりあの飴がどうしても怪しすぎるな。

せめて実物があれば検証のしようもあるのに……


「あ……あの……」


 生き残りの中のひとりがおずおずと手を挙げる。

俺は彼がなにか言いたいのだと思い「どうぞ、何でも言って」といった。

彼は椅子から立ち上がり、ポケットから何かを取り出す。


「これ、その飴ですが……必要なのであればどうぞ。ロネ様からもらいましたが気味が悪くて取っておいたもので……」


「本当に!? 是非欲しい!」


「勿論です、どうぞ……」


 彼は飴を俺に手渡す。

俺はその飴を受け取り、包み紙を開いた。

中からは黄色い丸い飴が出てくる。


「これが例の飴か、どれどれ……」


 俺は試しに匂いを嗅いでみる。

だが特に匂いがすることはなかった。

そして俺は気になったので舐めようとしたが、何が起こるのかわからないのでやめておいた。


「だがサンプルがあればこれが何なのか、どのような効果を持っているのか検証ができる……。おーい、ロバート!」


「おう、何だ司令?」


「この飴を至急本島に送って、この飴が何なのか検証するよう言ってくれ。あ、くれぐれも食べないようにな」


「分かってるよ。ほい、任された」


 俺はロバートに飴を預ける。

あとは工廠の連中の検証結果を待つこととしよう。

さて、飴のことは一旦おいておいて次のことだな。


「飴に関してはこれで終わりとしよう。で、次はだな……そうそう、この国の王様って誰なんだ? この国を占領している以上話ぐらいはしておきたいんだが」


「王様ですか、アルブレヒト王は出撃されており、帰ってこられていない様子から察するに貴方がたが倒されたんじゃあないですか? 王様は大きなハルバードを持って戦うお方です」


 大きなハルバード……あぁ、あの部隊中央の3人のさらに真ん中のやつか。

ベルントから相当奮戦した男だとは聞いていたが、まさかあの男が王だとは。

王が勇敢なのに、なぜ家臣たちはグレマンサーのようなやつばかりなのか。


「確かに王俺たちが殺した、彼の冥福を祈ろう。では今の王国の最も偉い人間は誰だ?」


「そうですね、この国では王家の人間が偉い立場にありますが、国王のアルブレヒト様は亡くなられ、その妻の王妃様も病で既にお亡くなりに。となるとその2人のお子様ということになりますが、第二王子のマクシミリアン様は王家を追い出されているので、今のところは第一王子のロネ様となります」


「マクシミリアンが追い出されたというのは気になるが、それよりも今の王国の最高位の人間はロネという男なのだな。ではそのロネとやらに会わせてもらおうか」


「ええと、その……」


 オスカーの言葉が急に途切れ途切れになる。

まさかロネも居ないとかは言わないよな?

居なければこの国に降伏するよう勧告することも、降伏の旨を受け取ることも出来ない。


「ロネ様は……今逃亡されております」


「は? 逃亡?」


「えぇ、近衛隊を引き連れて逃亡しています。おかげで城の警備はがら空きですよ」


 どうりでこの城の警備は薄いと思ったんだ。

まさか王族ともあろうものが城も国も国民も捨てて逃げるとはな。

一体どんな神経をしているのだろうか。


「じゃあ今はこの国には主が居ないのか……仕方ない、オスカーが臨時の王になってくれ」


「え、王ですか!? なぜ私が、というか無理ですよ!」


「大丈夫大丈夫、別に政治をしろとかいうわけではないから。ただこの国と戦争を終わらせるうえで形式的に上の人間から降伏の旨を示され、それを受諾しないといけない。この国の国民をこれ以上戦争に巻き込みたくないならばどうか引き受けてくれ」


 オスカーはしばらく黙って考える。

数分後、彼は意を決したのかすっと顔を上げた。

その顔には老人ながら鋭い力が感じられた。


「分かりました。このオスカー、臨時の王となり敗戦の汚名を一身に受け止めましょう」


「よく言ってくれた。では」


「分かりました。ヴェルデンブラント王国臨時国王オスカーは、本時刻を持ってイレーネ帝国に降伏する旨を通達いたします」


「分かった。ヴェルデンブラント王国の降伏を受け入れよう」


 こうしてヴェルデンブラント王国との戦争は一区切りがついた。

だがロネ軍を率いて逃げているのであれば攻撃を加えないといけなそうだな。

飴の元凶とも言えるロネを生きたまま拘束できればいいが。


 となると俺は再び出撃しないといけない。

その間の統治はどうしてもオスカーに頼ることになりそうだな。

さっき政治をしろというわけでなないと言ってしまったのに。


「すまんがオスカー、俺はロネを捕獲するために再び王都を離れると思う。政治をしろというわけではないと言ったが、その期間だけ王として政治をしてくれないか?」


「私が、ですか? 私に政治は少し難しすぎる気がしますが……」


 オスカーは少し不安そうな顔をしてそういう。

だがその話を聞いていた他の人間は呆れたようにこういった。


「何を言っているのですかオスカーさん、あなたほど政治の手腕に長けた人物はいないとアルブレヒト様からも熱く信頼されていたではないですか」

「我々も助けますので絶対に大丈夫です。飴を食べなくてもなんとか文官としてい続けた我々の実力、見せてやりましょう」

「そのとおりですオスカー殿。何ならやめていった元同僚たちもこの際に呼び戻そうではありませんか。久しぶりにみんなで仕事がしたくなってきましたぞ」


「ありがとう。ルフレイ殿、留守の間は任せてくれ」


「あぁ、頼んだぞ」


 その後、俺達は他愛もない会話を楽しんだ。


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