「よぉーし、命中だ」
「おめでとうございます。では次の目標へと移りましょう」
俺はスコープを覗いたまま少し喜んだ。
また槓杆を起こして手前に引き、空薬莢を排出する。
槓杆を元の位置に戻すと次の文の弾薬が装填された。
「司令、今度はあの真ん中の大きな斧のようなものを持った男を――」
「まて、それよりも弓を持った男が先だ」
俺はスコープ越しに弓持ちの男が矢をつがえているのを確認した。
こちらが見えているのであろうか、見えていてかつこちらに届くのであれば中々にまずい状況だ。
こちらのほうが優先するべき目標であろう。
「了解しました。距離や気温、湿度は先程ど変わらず、微弱な風が北東に吹いています」
俺はその情報をもとに照準を再修正、敵の脳天に狙いを定めた。
よく見ると横に向かってなにか言っているようであり、もしかすると隠れるように促しているのかもしれないな。
俺は再び引き金に指をかけた。
パァァン……
シュパッ!
俺と目標は同時に銃弾を、矢を放った。
そしてそれぞれは同じ軌道を描き目標に向かって飛んでいく。
矢と銃弾が空中で命中し、両方の軌道が狂った。
「くそっ、外れた。2発目だ」
俺は急いで槓杆を引き、第2射の準備に入る。
空薬莢が落ち、新たな銃弾が装填された。
俺は再びスコープを覗き照準を合わせる。
「司令、あまり急ぐと弾道が……」
エーベルトがそういう頃にはもう引き金を引いていた。
正直に言ってその時は少々焦っていた。
だが銃弾が止まることはなく、目標に向かってまっすぐ飛んでいった。
2発目の弾丸がドルンベルクへと飛んでいく。
だがドルンベルクはその時まだ第2射の準備ができていなかった。
そんな彼に銃弾が命中した。
だが急いでいたせいもあってか狙っていた頭に命中はしなかった。
銃弾は左肩に命中し、左手と左半身の一部を吹き飛ばす。
その勢いでドルンベルクは馬からずり落ち、左側へと落下した。
「おいドルンベルク、お前が死んでは困る! しっかりしてくれ」
アルブレヒトはそう言ってドルンベルクを抱え上げた。
だがドルンベルクは口から大量の血を吐き、瀕死であった。
そんな彼が最後に弱々しく声を発する。
「へい……か…おともでき……て……しあ…わせで……した…どう…か……へいか…と…くにに……えいこう……あ……れ…………」
その言葉を最後にドルンベルクはアルブレヒトの胸で息絶えた。
アルブレヒトは彼をぎゅっと抱きした。
そして彼の目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「ドルンベルク……余は復権してからお前でもう3人の友を失った……。余は一生お前たちのような忠臣を得ることはできないであろう」
そう言ってアルブレヒトは立ち上がり、後方の兵士にドルンベルクの遺体を渡した。
そして彼自身はハルバードを握り愛馬にまたがる。
その顔には憤怒の形相が浮かんでいた。
「おのれイレーネ帝国め……余が自ら葬り去ってやろう」
アルブレヒトはそう言うと、ハルバードを頭の上でグルンと回した。
そして彼は少し姿勢を低くして手綱を握る。
そして彼はもはや絶叫に近い声で叫んだ。
「全軍、突撃ぃ――!」
アルブレヒトは掛け声とともにスキルを発動させ、まっすぐエイブラムスの群れに突っ込んでいく。
エイブラムス部隊は驚いたのか、一斉に砲弾を発射した。
そのうちの一発はアルブレヒトに向かって飛んでいく。
「ぬるいわ!」
アルブレヒトはそう言うとハルバードを横に振り抜いた。
ハルバードは飛んでくる砲弾に命中し、砲弾は横に吹き飛ばされる。
そして吹き飛ばされた砲弾が別の砲弾に命中し、大爆発を引き起こした。
「どっちが強いか力比べといこうではないか、鉄の魔物ぉ!」
ベルントの乗り込むエイブラムスはアルブレヒトに向かって突撃していたが、アルブレヒトもも負けじと戦車に向かって突撃していく。
そしてエイブラムスの主砲の先端にアルブレヒトのハルバードが触れた。
これが怒りの力なのであろうか、アルブレヒトの力は一時的に増幅されエイブラムスと力が拮抗していた。
だがやはりエイブラムスは戦車、人間の力では太刀打ちが出来ない。
アルブレヒトの愛馬はエイブレムスに押され、後ろによろめいた。
その機会を逃すまいとエイブラムスは主砲を発射する。
「――ッツ!!」
腹にもろに戦車砲を受けたアルブレヒトはそのまま後ろへと吹き飛ばされた。
スキルのおかげで死ぬことはなかったが、腹の鎧は砕け、肉が見えていた。
彼は後方の兵士たちをクッションとしてなんとか止まることが出来た。
だがベルントは容赦することなく、今度は自走砲を放つように指示を出す。
自走砲は歩兵たちの頭上より飛来し、大爆発を起こした。
その衝撃で多くの兵が命を落とし、あたりには血が飛び散った。
「なんのだあの威力は……馬鹿げている……」
アルブレヒトはそう言ってよろよろと立ち上がった。
そして彼はなにか思いついたように後ろへと歩いていく。
彼が向かったのは気絶しているアイゼンバッハのもとであった。
「すまんなアイゼンバッハ、お前の盾、借りていくぞ」
アルブレヒトはそう言って左手にアイゼンバッハの大盾を装備した。
そして右手にはハルバードを持ち、再びエイブラムスの方を向いた。
エイブラムスらはアイゼンバッハに向かって突撃している。
「余は……ヴェルデンブラント王国国王、アルブレヒト=ヴェルデンブラントだ! 散るならば華々しく散ってみせよう!」
アルブレヒトはハルバードを肩に抱え、大盾を前に突き出して構える。
そしてその状態のまま突進し始める。
彼は何のためらいもなく戦車に向かって突貫し、攻撃を加えんとする。
エイブラムスたちは主砲ではなく同軸機銃で応戦したがすべて大盾に弾かれた。
そして彼はハルバードを横に振り、戦車の砲身に横から打ち付ける。
だがエイブラムスの砲身はびくとも動かなかった。
「はぁ……はぁ……ば、ばけもの……め……」
エイブラムスの主砲から砲弾が発射された。
砲弾はアルブレヒトの腹部をえぐり、彼の体は再び後方へ弾き飛ばされた。
今度は兵のクッションはなく、代わりに屍の上へと打ち付けられる。
アルブレヒトは味方の屍に手を付けて上半身だけを起こす。
だがもう起き上がる力はなく、彼は上半身を屍の上に倒して空を仰いだ。
そして彼は弱々しく笑い、つぶやく。
「そうか、死ぬのか……。よい、もうよい……余は、ドルンベルクは、アイゼンバッハは、兵たちはよく戦った……。嗚呼お前たち、今そちらに向かうぞ」
アルブレヒトはそう言ってゆっくりと目をつむる。
その目が再び開かれることはなかった。
アルブレヒトが死んだことによりこの戦いは幕を閉じた。