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第115話 超遠距離狙撃

「陛下、最後の部隊が到着いたしました」


「分かった。下がりたまえ」


「はっ」


 ヴェルデンブラント王城の正面広場。

西と北からやってきた各方面軍が一同に介していた。

アイゼンバッハとドルンベルクはそれぞれの司令官に復帰し、それらの軍を統率している。


 広場には各軍の部隊それぞれの旗がはためき、兵士たちは隊列をなして立っている。

そしてアルブレヒトは城のバルコニーから姿を表し、彼らに手を降った。

兵士たちもアルブレヒトが登場したことに歓声を上げる。


「陛下だ! アルブレヒト陛下万歳!」


「「万歳! 万歳!」」


 彼らの歓声は王都の空に響き渡る。

アイゼンバッハは彼らに歓声を止めるよう手で制した。

その意味を汲んだ兵士たちは一斉に黙りこくる。


「私は諸君ら勇敢なヴェルデンブラント国民と再び共に戦えることに感激を覚えている。いま王国は不利な状況に傾きつつあるが我々が出ればその状況を打破することができるであろう。そのためには諸君らの尽力が必要である。立ち上がれ、戦え、ヴェルデンブラントに勝利と栄光を!」


 ワァァァァ――!!!!


 広場には拍手と喝采が鳴り響く。

しばらくアルブレヒトは兵士に手を降った後、突然ベランダから飛び降りた。

ダァンと音を立てながら彼の靴は地面につき、そのまま彼はぬっと立ち上がった。


「さぁ諸君、出撃だ!」


 アルブレヒトは控えていたアイゼンバッハから愛用しているハルバードを受け取り掲げた。

そして彼は彼の愛馬にまたがり、ムチを打つ。

彼に続いてヴェルデンブラント軍は広場から出発した。





「司令、RQ-4から偵察情報がもたらされました。敵の部隊は王都を出発、南の方角へと進軍してきており、このままの進路だと3日後に接敵するとのことです」


 道中のストライカー装甲車の中。

俺はRQ-4から敵部隊の動向について報告を受けていた。


「了解。部隊の人数とかはわかるか?」


「はい、およそ20万人であると見積もられています」


 20万人か……

前に平原でゼーブリック軍を迎え撃ったときの約2倍の兵力か。

戦車であれば十分対応可能であると思うが油断は禁物だな。


「RQ-4に通達、今後も敵部隊の動向を観察、なにか動きがあればすぐに報告するように」


「分かりました。それと航空部隊の支援は要請いたしますか?」


 航空支援は……いらないかな。

俺は彼に航空支援は不要だとも伝えた。

その内容を彼は本島の偵察部隊へと送信した。





 その後進撃すること3日間。

RQ-4の通信を受けながら確実に接敵できるよう部隊を移動させ、もう少し進めば敵が見えるという所まで来ていた。

空は朝焼けで赤く染まっていた。


「いよいよですね司令。絶対に外さないように頼みますよ?」


「分かった。任せてくれ」


 俺は手にヘカートⅡをしっかりと握った。

ヘカートⅡはずっしりと重たく、そして冷たい。

この重さはこれから殺める人間の命の重さそのものだ。


「……敵のお出ましのようですよ」


 太陽の光に照らされた平原の向こうから、20万の敵部隊がやってくる。

遠くにいるはずなのに、中央の馬に乗っている3人がやけに大きく見えた。

直感的にあの3人が敵の主力であると肌で感じた。


「……では行ってきます、司令」


「あぁ、任せたよ」


 ベルントはエイブラムスに乗り込み、ハッチを閉めた。

そして俺の護衛のゲパルトと数量のブラッドレーを除き全車が出撃した。

俺はそんな戦車たちを見送った後、ヘカートⅡを抱えて俺は地面に這いつくばる。


 俺はバイポッドを地面に立て、伏せうちの姿勢を取った。

スコープのカバーも取り、俺はそれを覗き込んだ。

ストックと肩の間に布を挟み込み、振動が伝わらないように工夫する。


「司令、測距は私にお任せを」


 エーベルトがレーザー測距計をスタライカーから引っ張り出して覗き込む。

だが敵とベルントたちが戦闘状態に移行するまでには時間があるが、俺はもうスコープを覗き始めた。

スコープを覗くと敵の顔がよく見える。


「まずはどれを狙いますか?」


「じゃあまずは俺から見て左側の、手に大きな盾を装備しているやつだ」


「了解。敵静止しました。目標までの距離1980、風はなし、気温は9℃、湿度は10%です」


 俺はエーベルトの伝える情報を下に照準を合わせる。

俺はヘカートⅡの槓捍を引き起こし、手前にひき、また戻した。

そして俺はいつでも打てるよう引き金へと手をかけた。


「司令、しっかりと集中して、でもリラックスして。当てることだけに集中してください」


 俺は息を吸い込み、そして深く息を吐いた。

俺は再度目標への照準を調節する。

そして俺は引き金をひいた。



 ―その頃のヴェルデンブラント軍―


「陛下、前方に土煙が見えます。おそらく敵であるかと」


「言わんでも分かっておるわい。さて、一体どんな敵が出てくるか……」


 そう言うとアルブレヒトはヴェルデンブラント軍全軍に停止を命じ、彼自身は数歩先に馬を進めた。

アイゼンバッハとドルンベルクもそれに続いて少し前に出る。

彼らはじっと前だけを見つめ、土煙が止まるのを待った。


「ほほぅ、あれはあれは……またけったいなものが出てきたな」


 土煙が晴れ現れたのはエイブラムスだ。

戦車を見たことのないヴェルデンブラントの兵士たちは動揺してざわざわした。

だがアルブレヒトら3人はむしろワクワクしていた。


「あんなものと戦うことができるとは……今まで生きてきた甲斐があるというものです。私のスキルとどちらが強いか対決ですな」


「そうだな、どんな相手かわからないがきっと蹴散らしてくれよう」


 アルブレヒトは片手でしっかりとハルバードを握り、もう片手で手綱をしっかりと握った。

アイゼンバッハも大盾を持ち突入に備える。

だがドルンベルクは何かを感じたのか、少し戦場から離れた丘を見ていた。


「どうしたドルンベルク、何かあったか?」


「いえ、少し違和感を感じただけです」


 アルブレヒトとアイゼンバッハもドルンベルクが見ている方角を見たが特に何も感じることはなかった。

しかしドルンベルクはスキルで遠くの敵を感知できるため少し注意を払う。

だがドルンベルクの顔から一気に血の気が引き、そして同時に絶叫した。


「アイゼンバッハ! 今すぐスキルを展開しろ!」


 アイゼンバッハはその声に驚くが瞬時にスキルを展開する。

スキル展開と同時に彼の皮膚は鋼鉄よりも硬く変質した。

だが次の瞬間……


 コォ――ォォン!


 鈍い音が響き、アイゼンバッハの頭に銃弾が寸分狂わず命中する。

彼の皮膚を貫通することはなかったが、その衝撃で彼の脳は激しく揺さぶられた。

脳震盪が起こり、彼は白目をむいて後ろへと倒れる。


「おい、アイゼンバッハ! しっかりしろ!」


 アルブレヒトは馬から降りてアイゼンバッハを抱える。

だが完全に気絶しており返答はなかった。

ドルンベルクは反撃のために弓に矢をつがえ始める。


「おい、アイゼンバッハを後方へと避難させろ!」


 アルブレヒトは部下に命じ、アイゼンバッハを安全な場所へと避難させる。

そして彼は再び馬にまたがりハルバードを力強く握った。

彼の目は前方に展開する戦車を無視し、奥の丘を睨んでいる。


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