「じゃあありがとう。短い間だったが世話になったよ」
香草焼き事件(?)があった次の日、俺たちは出発のために宿を後にしようとしていた。
すべに部隊員は町の外に集合、出撃前の点検をしている。
俺は見送りに来てくれた女主人にお礼を言い、宿を後にしようとした。
「また機会があればぜひお越しくださいね」
「そうだな、次は今度こそ香草焼きを食べたいものだ」
「ふふ、腕を上げておかねばなりませんね」
そうして短い会話を交わした後、俺は宿を後にして集合地点へと向かった。
ベルントとロバートと俺の3人で街の道をぶらぶらと歩き、街の外に通ずる門へと向かった。
門の周りには警備の兵士が立っており、俺たちの姿を見ると敬礼して門を開けてくれた。
「司令官に敬礼!」
門の先には、自軍の兵士が整列をして俺を出迎えていた。
俺も彼らに敬礼を返し、横に立っていたベルントとロバートは彼らの方へと歩いていった。
そして俺は近衛兵の一人に連れられてストライカー装甲車の方へと向かった。
なぜエイブラムスではなくストライカーなのか、これは昨日の食事の後の会議が関係している。
〜昨日の夜〜
「で、機関砲の弾も効かないという敵にはどう対処すれば良いのだろうか」
料理の皿が片付け終わった後の部屋。
机の上には俺の【世界地図】スキルで敵王都周辺の地図が立体的に表示されていた。
王都の周りに特に山や川などの障害物はなく、ただただ平野が広がっている。
「どうしようっていってもなぁ、敵のスキルの強さが未知数である以上どうすれば良いのか判断がしづらい」
ロバートは俺にそういった。
実際問題俺達は敵のスキルについて殆ど知らないのでどんな武器が有効なのかさっぱり分からない。
少なくとも小銃では太刀打ちできないことはわかるが。
「敵のスキル……おそらく自身の肉体を強化させて劇的に防御力を上げる、というものではないでしょうか」
ベルントが続けてそういった。
俺も概ね彼と同じ考えで、その敵のスキルは身体強化系だと思う。
だが情報によれば機銃を浴びせられたのは2人、更に反撃してきた相手が1人とのことなので他2人のスキルも気になる。
「たしかスキルの行使にはMPが必要なはずだ、そうだろう司令?」
「あぁ、そうだな」
ロバートがいきなりそんなことを聞いてきた。
スキルの行使にはMPが必要だし、MPは有限だ。
MPをなくすことができればスキルを止めることはできるかもしれないが……
「司令、自分がスキルを行使させると意識していないとスキルは止まるのか?」
「いやぁ、そこまではよく知らないなぁ……」
「じゃあ実験してみよう。司令はこの地図を出したまま寝てくれ。寝た瞬間にこの地図が消えればスキルは意識とリンクしているってことだ」
ロバートが「どうやっ!」という顔でこちらを見てくる。
その顔には少し思うことがあったがやってみる価値は十分あるだろう。
……いやまてよ、よく考えたら今喋っているロバートもベルントもみんなスキルで呼び出した存在じゃん。
「いやいや、お前たちよく考えたら全員スキルで召喚された存在じゃん」
「あ」
ロバートは気付いたようで、なんだかシュンとしている。
俺もいいアイデアだと思っただけに彼が少しかわいそうに思った。
するとベルントがロバートのフォローにまわった。
「ですが司令、我々は”実体”としてこの世に司令の管轄下ではなく”独立して存在”しています。でもこの地図は司令が”見えさせて”いるのであって”独立して存在”しているわけではないのではないですか」
「ええと、つまりどういうこと?」
ベルントがなにか説明してくれているが俺にはよく分からなかった。
横を見るとロバートも同じく首をひねっている。
そんな俺たちにベルントは噛み砕いて説明をし直す。
「すみませんわかりにくて。つまり我々は司令から独立して存在している生命体(?)で、この地図は存在せず司令がそこに出すと意識しているから存在しているものなのではないかということです。もしもそうなのであれば筋力強化なども人の意識なしでは存在できません」
「ううん、なんとなく分かったような分からなかったような」
「まぁとりあえず試してみれば良いのさ」
「それもそうだな」
早速実験をすることにした俺は、机の上に地図を表示したまま寝るために部屋を出る。
自分の泊まる部屋に戻ると俺は布団に体を投げ込んだ。
毛布を上からかけた俺はしばらくするとすぅっと眠りにつく。
「スヤァ……」
ダダダダ……ガチャッ!
「司令! 地図が消えたぞぉ!」
「ギャァ! せっかく寝たのに大声で起こすなぁ!」
せっかく眠りについたと思ったらロバートに叩き起こされた。
明日に毛っ子を伝えてくれるんじゃないのかよ!
まぁ良い、とにかく地図が消えたということはベルントの仮説が正しいかもしれないということだ。
俺はベッドから起き上がりロバートといっしょにさっきの部屋に戻った。
この結果から仮に銃弾が貫通しなくても敵を倒すことができる可能性が出てきたかもしれない。
俺はベルントに向かって話しかけた。
「この結果から、意識が飛んだ場合にはスキルが解除される可能性があることが分かったね」
「えぇ、ということは敵を何かしらの方法で気絶さぜることができれば勝機はあるかもしれませんね」
とはいっても別に気絶させる方法があるわけではない。
そう思っているとロバートが口を開いた。
「じゃあ何かしらの強い衝撃を頭に与えれば良いんじゃないか? 相手が硬いならべ対物ライフルとかでヘッドショットをしてみるとか。そうすれば脳震盪が起きて気絶するだろう」
「「それだ!」」
俺とベルントは声を揃えてそういった。
そうと決まれば話は早い。
誰かが遠くから狙撃をすれば良いのだからな。
「じゃあ司令が狙撃をしてくれよ」
「え、俺?」
ロバートが俺に狙撃をやれと言ってきた。
なぜ軍人ではなく俺なのであろうか?
他にも適役はいるだろうに……
「俺が司令に射撃を教えてやったんだからな。成果を見せてもらわんと。それとも出来ないってのか、ん?」
「……やってやらぁ!」
……ということで俺がなぜか狙撃をすることになった。
では使う銃を召喚しておかないとな。
俺が使ったことのある銃で威力の高いものは――
「スキル【統帥】発動、ヘカートⅡを召喚!」
俺の手元には、ずっしりと重みのある対物ライフルのヘカートⅡが握られていた。
かつてこの銃で古代文明のロボットを倒したことがあり、扱い方は分かっている。
俺はヘカートⅡの銃身をなでた。
「では司令はストライカーに乗って遠距離から狙撃、その間我々は戦車で敵を引き付けておきますので」
「了解した。なんとか外さないように頑張るよ」
そうして俺は再び寝室へと戻った。