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第112話 敵見ゆ

 基地に帰還する最中のチャーリーからいくつか報告を受けた俺は、再び部隊を進撃させようとしていた。

敵部隊への攻撃は成功したとのことだが、いかんせん数が多いのであまり効果はなかったようだ。

そして今度は試作機ではなく、基地航空隊所属の機体が制空権を確保しに向かう。


 敵が集まっている王都付近にも飛行場があることが分かっているが、今回飛行場はわざと攻撃目標から外している。

要撃にあがってきた敵の翼竜部隊を攻撃することを主任務とし、対地攻撃は後回しにする。

そしてもし弾薬が余ったなら機銃掃射などをするように先ほど通達した。


 要請を受けてヴェルデンブラントの空港からP-38L、AU-1が飛び立つ。

爆撃機隊は残念ながら基地でお休みだ。

爆撃機体の乗組員は飛びゆく友軍機に帽子を振った。


 因みに試製迅雷はあの飛行以降整備と多少の改修のために本島に戻される予定だ。

トマスも「なかなか良い結果だ」とは言っていたが、まだ問題点はいくつもあるらしい。

トマスが示した問題点にはこんなものがある。


 まずは搭載するエンジンは冷却のために魔石から発生させた水だ。

冷却し終えた水は水蒸気となり機体外に排出されるが、その時に飛行機雲をひいてしまう。

そのおかげで敵にすぐに発見されやすくなってしまう。


 次にこれもまたエンジン関係の問題だ。

このエンジンは普通のレシプロエンジンとは異なり、蒸気でタービンを回すもののため全長が普通のものと比べて長くなってしまっている。

重量も重いので機体の中央部にエンジンは取り付けられた。


 だがあまりにも長いエンジンは被弾した際の致命傷となる部分が大きいという問題がある。

いくら小型化出来たからとは言っても蒸気タービンの航空機への活用には壁が多い。

できれば石油のようなものが召喚ではなく、この世界で取れればいいのになぁ。


 このような問題点があるので、解決に向けて努力すると言ってトマスはAH-64Dに乗り込んだ。

去りゆくAH-64Dを俺は見送った。

と思うと、頭上にまたエンジン音が響いた。


「おぉ、今度はP-38LにAU-1だな。頑張ってくれよ!」


 俺は帽子を手に取り、ぶんぶん振った。





「陛下、王都周辺の部隊からの通達です。魔探という兵器が敵の部隊を補足したとのことです」


 北部、西部方面軍との合流を控え、訓練に勤しんでいたアルブレヒトにドルンベルクがそう伝える。

だがアルブレヒトは魔探という兵器がどのような兵器か知らなかった。

ドルンベルクはそんな彼に魔探について説明を加える。


「魔探というのは、陛下が軟禁されてからしばらくたった後に配備された一連の兵器群のことです。魔力波とその反射を利用して空を飛ぶ敵を探すことが可能のようです。あ、御覧ください。ちょうど今敵の接近を知らされた新兵器の”ドラゴン”が飛んでいきますよ」


 そう言ってドルンベルクは空を指さした。

そこには要撃のために飛び立っていくドラゴンの群れがあった。

その数はかつてゼーブリック海軍に配備されていた数の比ではなく、もはや空を覆わんとする勢いであった。


「あれも新兵器なのか。にしてもこれらの兵器は我が国が自国で生産したのか?」


「そのあたりは少々分かりかねます。というのも、これらの兵器はロネ様が持ってきて急に採用された代物ですから。どこで作っているのかも、どれが開発したのかも一切分かっておりません」


 そうか、と言ってアルブレヒトは顎髭を触る。


「我が国は確かに優れた軍事力を保有しているが、魔道具に関してはそこまで発達していなかったはず。玉に魔道具の発達している国家といえばミトフェーラ魔王国だが……ロネめ、一体どこからそんな兵器を」


 だが考えても一向に答えは出てこなかった。

その後アルブレヒトは再び訓練を始め、そこにさらにアイゼンバッハも合流した。

「敵が来ているのに」と思いながらも「この人らしい」とドルンベルクはアルブレヒトを見つめた。





『もうすぐで敵と接敵するはずだ。各機注意を怠らないように』


 P-38LとAU-1の部隊は順調に飛行し、敵の空域に侵入した。

各機は索敵体制に入り、敵の部隊を探し求める。

すると部隊の一機が下方に敵の機影らしきものを発見した。


『敵、見ゆ。全機戦闘態勢に移行』


 彼らは高度の優位性を利用して一気にダイブする。

一機ずつくるりと回りながら下降する姿は圧巻だ。

敵もこちらに気付いたらしく、応戦しようと首を動かす。


 だが射程はP-38L等のほうが圧倒的に上。

立て続けに機銃を放った各機はそのまま下へと抜けていく。

離脱し終えた機のパイロットは敵の様子を見ようと機を傾けた。


「むむっ、まだ余裕で飛んでいるではないか。まさか機銃では聞かないとでも言うのか?」


 他の機もドラゴンが落ちていないことに気が付き驚きの声を漏らす。

だがそのうちの何人かはドラゴンたちの異変に気づき始めた。

よく見ていると、敵の部隊の隊列が乱れているのである。


「何だあれは、散開している? いや、それにしては動きがおかしい。じゃあ……あっ、そうか!」


 パイロットたちはなぜ突如ドラゴンの様子がおかしくなったのか理解した。

確かに機銃弾はドラゴンの鱗を貫通することは出来なかった。

だが乗っていた竜騎士が撃ち抜かれて死亡しているのだ。


 そうして乗り手を失ったドラゴンたちは段々と自分勝手な行動を取り始める。

ある騎は森へと変えるようにあさっての方向に飛び出し、ある騎はご飯のため自分で基地に帰還しようとし、ある騎は他の騎と喧嘩を始めた。

こうして敵の統率は一気に崩れた。


「おいおい、なんだか知らないがかなりのチャンスだぞこれは。よし、今のうちに敵の拠点に一直線だ!」


 戦闘機隊は機首を再び王都の方へと戻す。

だがドラゴン以外にも戦闘機隊に立ちはばかる壁があった。

それは対空砲であった。


 ゼーブリックにまわすはずの在庫をすべて王都に配備したため、その門数は中々のものとなっている。

そして魔探の観測結果を下に、対空砲は一斉に火を吹いた。

空中で炸裂した砲弾が、空に無数の黒い雲を作り上げる。


 だが対空砲火にも動揺せず、戦闘機隊はまっすぐに飛行している。

この程度の弾幕、WW2の時に比べればへでもないものだ。

陣形を組みながら王都に侵入した彼らは、敵を探して散開する。


 AU-1は作戦を一部変更し、敵の飛行場へと向かった。

なぜならば、機銃では倒すことの出来ないドラゴンを離陸させないためと、ドラゴンに与えるための食料庫を破壊するためだ。

こうすることで敵の航空戦力は大きく低下するであろう。


 一方でP-38Lは敵兵を求めて上空を飛行した。

そしてそのうちの一機が王都の王城に人影があることに気がつく。

敵の重要人物であると判断した彼は急降下し、その人影に狙いを定めた。


「ここだ」


 パイロットは発射発射装置を押し、機銃を発射した。

だが彼はまだ知らない。

彼が機銃を発射した相手が敵の王、アルブレヒトであるということを。


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