俺は魔導通信の音声を正確に傍受するためにダイヤルを調整していた。
徐々に音声がはっきりしてき、なにか喋っていることまではわかってきた。
そしてさらにダイヤルを回すと、とうとう声が聞こえてきた。
「よし、これであったんじゃないか?」
俺もトマスも、傍受機から流れる声に耳を傾ける。
その会話の内容は……
ザザザッ……
『愛しているよ、ハニー』
『ヤーン♡ 私もよ、ダーリン』
『『////』』
「……」
まさかの傍受した通信は男と女の色恋通信であった。
一体俺は何を聞かされているのやら……
俺は思い切ってダイヤルをひねった。
ザザッ……
おや、もう一つ受信したようだ。
さてと、今度はこちらにダイヤルを合わせてみるか。
頼むからまともな内容であってくれよ……
『宛、北部方面司令官。こちらはドルンベルク、全軍は王都に集合せよ。陛下がお待ちだ』
『こ、こちら北部方面司令軍。陛下が復権されたのですか!? 大至急そちらに向かいます!』
『頼んだ。西部方面司令軍にも通達してくれ』
『了解いたしました!』
「……これは」
俺は傍受機から流れてくる音声に思わず耳を疑った。
傍受機から流れてきたその会話からは敵部隊の情報が筒抜けであった。
まさかこんなあたりを引くことができるとはな。
「ほほう、これは思わぬ収穫ですな。敵が合流する前に叩いてしまいましょう」
そうトマス言うと、今度は別の機械を取り出した。
それはトランシーバーのような見た目で、発信のためのアンテナが付いていた。
「まぁ使ってみてください」という顔でトマスが見てきたので、俺は機械のスタートボタンを押した。
『こちらは試製迅雷のテストパイロット、チャーリー。返答願います』
機械からはそういう声が流れてきた。
俺はその求めに応じて声を返す。
「こちらルフレイ、試作機の調子はどうだ?」
『バッチリですよ。戦闘機として申し分のない速度性能、旋回性能そして武装です』
テストパイロットからの評価も良好のようだ。
それよりもこの通信機、どうやら電波ではなく魔導通信珠のように魔石で動いているっぽいが傍受されることはないのだろうか。
そう思っていると、トマスがニヤニヤとこちらを見てきた。
「司令、今通信は傍受されるのではないかと考えたでしょう? その点は問題ありませんっ! この通信機は発生する魔力波を調節しているので傍受される可能性はありません。いわば暗号通信化しているのですね」
ほえー、そんな事もできるのか。
なんだか技術研究所の人間が有能すぎる気がするな。
まぁ彼らが頑張ってくれている証拠だが。
「せっかくですからあの試製迅雷に敵部隊への攻撃をかけてもらってはいかがでしょうか。幸いにも今は武装を満載した状態での飛行ですので対地攻撃も可能です」
「なるほどな。でもあの塗装ではちと目立つんじゃないか?」
「まぁそこら辺はいい感じに避けてもらいましょう」
精神論で弾は避けられないと思うが。
まぁいい、ちょうど良いテストにもなるとのことだしやってみる価値はあるか。
俺は通信機に口を当ててパイロットのチャーリーに指示を送る。
「ヘイ、チャーリー。これから敵の部隊を殲滅してきてくれないか?」
『勿論さ司令、ただしコンパスが狂わなかったらな』
「コンパスが狂ったらフォース湾にでも不時着すると良い」
『冗談じゃない、あんなフ◯ッキンフォースは懲り懲りだ』
そう言ってチャーリーは通信を切った。
俺たちの上空をもう一度通過した後、試製迅雷の部隊は目標へと飛んでいった。
1機も堕とされなければ良いのだが……
「夕焼ーけ小焼けーの、赤とんぼー」
「司令、急に歌ってどうしたのですか?」
「いや、あのカラーに塗装された機体のことを赤とんぼと言うだろう? だから少し思い出してな」
この世界の季節は今夏だ。
今頃日本の季節は何なのだろうか……
俺は少し故郷の景色に思いを馳せた。
◇
「方位は確認できているな、よし、索敵を開始しろ」
試製迅雷は雲の隙間から敵の部隊の索敵を始める。
部隊は王都周辺に展開しているであろう対空砲を避け、合流されるとされている敵の部隊を補足しようとしている。
だがあいにく今日は上空に厚い雲が張っており、索敵は困難を極めた。
「雲の隙間から眺めていますが……いかんせん全くと言っていいほど敵部隊が見えませんな」
「全くだ。もう少し高度を下げたほうが良いだろうか」
「ですがそれではもしも対空砲がいた場合に被弾しかねません。これは試作機なのですから注意するに越したことはないでしょう」
それもそうか、と言ってチャーリーは再び雲の隙間から索敵をつづける。
すると雲の切れ間から何やら人が動いているのが見えた。
敵かもしれない、と思った彼は部下たちを引き連れて急降下を始めた。
急激に高度を下げた試製迅雷は厚い雲を抜け、目の前の視界が一気に広がった。
だが見えたのは残念ながら敵部隊ではなく一般人と建物のようであった。
チャーリーは発砲しないよう部下に伝え、上空を通過した。
「なんだ、敵じゃなかったな。もう一度高度を上げることとするか……」
そう言ってチャーリーが再び機首を上げようとした時、部下の機体から連絡が入った。
連絡によると地上にいたのは女子供ばかりだったのだというのだ。
もう一度確認のためにチャーリーは機首を反転させ、再び建物の上をチャーリーは通過する。
「確かに女子供ばかりに見えるな。それに服装も非常に粗末なものだ。もしかしたら強制収容的なものかも……」
チャーリーの頭にはそんなことがよぎった。
だが敵部隊ではなかったので、後で報告することとして彼は機首をあげた。
再び試製迅雷の部隊は索敵体制に戻る。
その後、再び雲の上から索敵をしていると、今度こそ敵部隊のような影を発見した。
試製迅雷は再び高度を落とし、攻撃準備に入りつつ確認をする。
結果、降下した相手は目標の敵部隊であることが分かったチャーリー等はロケット弾の発射スイッチに手を伸ばした。
「よーく狙いをつけて……よし、ここだ!」
狙いを付けると、チャーリーは発射スイッチを倒した。
スイッチが倒れるのと同時に試製迅雷の主翼下部に取り付けられているレールからロケット弾が飛び出す。
ロケット弾は敵の部隊を襲い、次々に信管が作動して爆発した。
だが所詮は単発の戦闘機、それほど多くのロケット弾を搭載できるわけではない。
僚機と合わせて4機で40発のみの発射となっており、相手にそこまで大きな被害を与えたわけではなかった。
ロケット発射に次いで試製迅雷部隊は12.7mm機銃も発射し、敵部隊に機銃掃射を加えた。
攻撃の成果については6門の機銃から繰り出される機銃掃射のほうが成果は大きかった。
攻撃を加えた後部隊は上昇し、高空へと退避する。
まだ攻撃を加えることは可能であったが、試作機を喪失したくないチャーリーは帰還するという選択肢を取った。
「よし、全機帰投する」
空には試製迅雷のエンジンが発する独特な音が響き渡った。