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第110話 新型戦闘機、飛来

「では行こうか」


 アルブレヒトたちは立ち上がり、地下牢を出て行こうとする。

だが進もうとしたアルブレヒトの足に何かが当たった。

下を見て見ると、それは泡を吹いて倒れたままのハイデンであった。


「おい、起きろ」


 アイゼンバッハが倒れたハイデンに気が付き、ハイデンを引っ張って起こす。

だがハイデンはぐったりしたままだった。

何か様子がおかしいと思ったアイゼンバッハはハイデンの心音を確かめる。


「心臓が動いていない……こいつ死んでいるぞ!」


 アイゼンバッハはハイデンが死んでいることにびっくりしてそう言う。

本当かどうか確かめるためにドルンベルクもハイデンの心音を確かめたが、やはり心音は止まっていた。

アイゼンバッハはハイデンの死体を地面に落とし、アルブレヒトに聞く。


「陛下、ハイデンがなぜ死んでいるのかわかりますか?」


「ううむ……そういえば余が飴を取り上げたら勝手に泡を吹いて倒れよったな」


 そう言ってアルブレヒトは彼の服のポケットから飴を取り出した。

アイゼンバッハは「失礼いたします」と言って飴をアルブレヒトから受け取る。

その飴をドルンベルクと一緒にみたアイゼンバッハは、その飴に見覚えがあるのか声をあげた。


「この飴には見覚えがあります。確か……そうそう、ロネ様が新たに大量に採用した文官の連中がそろいにそろって舐めておりました。なぜあんな弱小貴族をロネ様は採用するのかと不思議に思っておりましたが、見る見るうちに成果をあげて驚いたものです」


「それに伴って従来の貴族たちは居場所をなくしていきましたが……特にロネ様は我々軍人に当たりが強く、軍上層部が文官に乗っ取られてしまいました」


 ふむむ……といってアルブレヒトは飴をペロッと舐めてみる。

刹那、彼の脳みそに電流が流れたかのような衝撃が駆け巡った。

彼はくらくらとした後、飴を手から落とした。


「これは、これはこれは……なんという刺激的なもの。確かにこいつらが依存する理由もよく分かるわい」


 そういってアルブレヒトは飴を踏みつけ、粉々に砕いた。

そのまま彼は何も言わずに牢屋を出た。

ドルンベルクとアイゼンバッハもそれに続いて牢屋を後にした。





「ハハハッ、鎧を身につけるのも久しぶりだ。何だが気分がいい」


 アルブレヒトとドルンベルク、アイゼンバッハはそれぞれの鎧を身に着け、愛馬にまたがっていた。

彼らはそれぞれの得意武器を持ち、その姿は堂々としていた。

ドルンベルクは懐から魔法通信珠を取り出し、北部方面司令官に発信した。


「宛、北部方面司令官。こちらはドルンベルク、全軍は王都に集合せよ。陛下がお待ちだ」


『こ、こちら北部方面司令軍。陛下が復権されたのですか!? 大至急そちらに向かいます!』


「頼んだ。西部方面司令軍にも通達してくれ」


『了解いたしました!』


 短い伝令を終えると、ドルンベルクは通信珠を切った。

通信珠から聞こえてきた声は心なしか喜んでいるようにも思えた。

その声を横で聞いていたアルブレヒトもまた、ふふっと笑うのであった。


「皆とまた一緒に戦えるのか。お前たち、腕は落ちていないだろうな」


「当たり前ですよ。陛下こそ大丈夫なのですか?」


 アルブレヒトは「当たり前だ」といって、手に持っている大剣を掲げた。

彼の剣は王国で最も大きな剣としても有名で、歴代のヴェルデンブラント王がそれを使ってきた。

だが一般人が到底扱える重さではなく、彼らの受け継いできているスキルあってこその代物であった。


「相変わらずですな陛下。我々も負けていられません」


 アイゼンバッハとドルンベルクも彼らの武器を持ち出す。

アイゼンバッハが手にしているのはハルバード、巨大な斧の柄が伸びたような大きな武器である。

彼は持ち前のスキルを活かして単騎で突入し、敵の陣営を崩すことを得意としている。


 ドルンベルクは現代のアーチェリー用のような動滑車のついた弓を持っている。

だが性能は現代のそれよりもよく、スキルと相まって数キロ先の敵兵を射抜くことが可能だ。

今までに彼はその武器で数多の敵を葬り去ってきた。


「お前らもやる気に溢れているようだな、この戦、我々の逆転と行こうじゃあないか」


「勿論ですとも、陛下」





 敵の部隊を殲滅した俺たちは、敵の首都に向かって侵攻を始めていた。

だが今は進軍の足を止めている。

なぜかと言うと、今朝の通信で本土の方から届けたいものがあると連絡が入っていたからだ。


 AH-64Dが何やら持って来ると言っていたが、何を持ってくるのかはまだ聞かされていない。

そう思っていると、段々とプロペラの音が響いてくるのが聞こえてきた。

来たか、と思って上空を見てみると、そこにはヘリでも基地航空隊のものでもない、見たことのない橙色の機体が数機飛行していた。


「おい、あんな飛行機を召喚した思い出はないぞ!? 何なんだあの飛行機は?」


 俺は思わず上を向いてそういった。

部隊の兵たちも認識したようで、既にゲパルトは攻撃準備をしていた。

だが件の機体は翼を左右にバンクしており、味方機かもしれないとして攻撃の許可は出していない。


 それらの機体が頭上を通り過ぎると、今度は予定通りのAH-64Dがやってきた。

アパッチは徐々に高度を落とし、俺たちの目の前に着陸した。

そして扉が開き、中から出てきたのは……


「トマスじゃないか、こんなところまでよく来たなぁ」


 なんとアパッチから出てきたのは、技術研究所のトマスであった。

彼は手を振りながらこっちにやってきた。


「お久しぶりです司令、驚かれましたか?」


「あぁ、ということはあの機体は……」


「えぇ、我々の最新の発明品です!」


 やはりそうなのか、と思って空を見上げる。

例の機体たちは引き返してき、再び俺たちの上空を通過した。

その機体の色から、おそらくはまだ試作なのだろうな。


「あれは試製迅雷、研究所で試作した2600馬力を発揮するマ号一型魔石式蒸気タービンエンジンを搭載しており、そのエンジンが生み出す最高速は実に時速772km/hになります。武装も12.7mm機銃が計6門と火力にも申し分ありません」


 トマスは誇らしげに機体の解説をする。

2600馬力のエンジンは心地のいい音を立てて上空を飛び回っている。

良くもあれほどの機体を作り上げたものだ。


「試製迅雷以外にも様々な兵器も開発しております。特に泊地の第1、2号ドックでは、先んじて建造が行われた第一号輸送艦のもたらしたデータを下に設計した大型巡洋艦を建造中です。それと……」


 トマスは彼のポケットをまさぐる。

そして何かを見つけた彼はそれを取り出し、俺に手渡した。

俺の手に乗ったそれは、まるで小型のスピーカーのようなものであった。


「それは魔導通信を傍受するための機会です。通信機を発明する過程で判明した魔導通信の性質を利用して制作されており、それを使えば任意の魔導通信を傍受することが可能です」


 俺は傍受機のダイヤルをひねり、傍受を試してみる。

するとザザッと音が鳴った。

傍受するために俺は更にダイヤルをひねって通信を調節していく。


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