【公開状態】
公開済
【作成日時】
2024-08-23 01:29:36(+09:00)
【公開日時】
2024-08-23 07:30:45(+09:00)
【更新日時】
2024-08-23 07:30:45(+09:00)
【文字数】
2,563文字
【本文(108行)】
コツンコツンコツン……
薄暗い廊下に響く靴の音。
アルブレヒトはハイデンを引っ張りながら地下通路を歩いていた。
そして曲がり角に差し掛かった時、その先からは光が少しもれていた。
アルブレヒトはその角を曲がった。
するとそこには、ずらりと牢屋の鉄格子が並んでいた。
そしてそれらの部屋に配置されている松明が唯一廊下を照らしている。
だがその牢屋にはどこにも人はいなかった。
その無人の牢屋を先に先にとアルブレヒトは歩いていく。
そして通路の突き当りにある大きな鉄製の扉を彼はぐっと開けた。
「おぉ、やはりここであったか」
その鉄製の扉の先には、前までの鉄格子とは比にならないほどの太い鉄格子で作られた牢屋が3つ並んでいた。
そのうちの2つにアイゼンバッハ、ドルンベルクは収監されていた。
彼らは人が入ってきた気配を察知し、アルブレヒトの方を振り向く。
「お、おぉ陛下。お久しぶりにございます」
「このような姿をお見せすることになるとは……お恥ずかしい」
2人はアルブレヒトに気が付くと立ち上がって一礼した。
だがその足と手には鉄製の拘束具がつけられているので、これ以上身動きができなかった。
2人はそれぞれの部屋にある椅子に座った。
「2人とも久しぶりだな。とりあえず牢屋から出してやろう」
そういうと、アルブレヒトは服をおもむろに脱ぎだした。
そして彼はムキムキに鍛えられた剛腕でアイゼンバッハの牢屋の鉄格子をつかみ、両側に引っ張り始めた。
鉄格子がぐにゃりと曲がっていくのに合わせて、アルブレヒトの腕の筋肉は膨張を始め、彼の背中には紋様がぼわっと浮かび上がった。
「フンッ!」
アルブレヒトは牢屋の鉄格子をグニャグニャにまげてこじ開けた。
そして生まれた隙間から彼は中に入っていき、アイゼンバッハの手と足の拘束具も同様に破壊した。
手足が自由になったアイゼンバッハは立ち上がりアルブレヒトに頭を下げる。
そしてアルブレヒトはアイゼンバッハと同様にドルンベルクの牢屋もこじ開け、彼を救出した。
3人は床に座って話を始める。
「陛下、ロネ様から体調を崩されたと聞いておりましたが、お元気そうで何よりです。まぁ私は嘘であろうと思っておりましたがね」
「私もです。まさか陛下が体調を崩すなど、そんなの想像もできませんよ」
「あいつそんなことを言っていたのか。まぁ興味のない政治よりも趣味の筋トレに集中できるからと放っておいた余も悪かったが……」
そのアルブレヒトの発言に2人はくすりと笑った。
何を笑う、とアルブレヒトが聞くと、2人は「陛下らしいです」とだけ言った。
アルブレヒトも「そうか」と言って笑った。
「そんなことは置いておいて、余が部屋にこもっている間、何があったのか聞かせてもらおうか」
「はい、あれはいつも通りの4人にロネ様を交えて話していた時……4人……はっ! シュトラッサーとエンフェルスはどうしていますか!?」
そうドルンベルクはアルブレヒトに聞いたが、彼は黙ってしまった。
アイゼンバッハとドルンベルクはそんなアルブレヒトにさらに質問を投げかける。
質問攻めにアルブレヒトは折れ、ついに口を開いた。
「2人は……戦争において死んだとの見方がなされているようだ」
「「死んだ!? そもそも戦争って何ですか!?」」
2人は口をそろえてそう言う。
2人ともずっと牢にとらえられていたので戦争のことはサッパリ知らなかったのだ。
アルブレヒトは彼らに事情をゆっくり丁寧に説明した。
「私たちが牢にとらえられている間にそんなことが……事情は理解しました。今はとりあえず敵の殲滅に注力した方がよさそうですね」
「あぁ、そういうことだ。どうかお前たちも力を貸してくれ」
アルブレヒトの言葉に2人は力強くうなずいた。
「もちろんです陛下。それにしても久しぶりに【武神】の陛下が見られそうですね」
「ははっ、そうだな。余も【鉄城】のアイゼンバッハ、【極射】のドルンベルクを見るのが楽しみだ。ただ【知将】シュトラッサーと【光槍】のエンフェルスをもう見られないのが悔やまれるが……」
【武神】【鉄城】【極射】【知将】【光槍】、これらはアルブレヒトと4人の軍司令官の持つ固有スキルだ。
ヴェルデンブラント第二王国の誇る4人の各方面司令官は、その固有スキルを遺憾なく発揮できるように戦術を組んで軍を運用することに長けていた。
以下にそれぞれの性能を記す。
【武神】:保有者 アルブレヒト
・使用すると背中に紋様が浮かび上がり、筋力や五感、治癒力などの能力が大幅に上昇する。ただ代償として莫大な筋力を通常時より維持しなければ能力発同時に体が四散する。
【鉄城】:保有者 アイゼンバッハ
・使用すると体の皮膚を構成する物質が変化し、名の通り鉄のごとき固さを発揮する。ただ体の内部構造は変化しないため貫通されれば防御力は無視される。
【極射】:保有者 エンフェルス
・使用すると強力な視力と集中力を得る、遠距離の狙撃に特化した能力。代償として短時間の使用でないと眼球に高負荷がかかり破裂する。
【知将】:元保有者 シュトラッサー
・使用せずとも常時展開されている。能力の保有者の脳は限界を超えた性能を発揮し、保有者に瞬発的な判断能力、奇想天外な作戦などの立案をアシストする。代償として保有者はその高出力に耐えるだけの知性を保有している必要があり、その場合でも変則的な頭痛に悩まされる。
【光槍】:元保有者 エンフェルス
・自身の周りに光の槍を無数に生成し、相手に向かって攻撃をする。代償として槍の生成に多量のMPを必要とするので、MP切れを起こしやすくなる。
これら5人の固有スキルは、それぞれの家系が先祖より代々受け継いできたものだ。
固有スキルはその世界に同じものは存在しえないので、その固有スキルをもっている先代が死んだ後にその子供たちが一斉に博愛の儀を受け、目的の固有スキルを得た者が新たな当主となる。
この伝統をヴェルデンブラント王国は初代国王の代からずっと守り続け、常に5つの家系が支えあってきた。
だがその5人のうち2人がかけてしまった今、王国の戦力は大幅に割かれたといってもいいだろう。
それに全員がまだ若かったので、シュトラッサーとエンフェルスには世継ぎがいない。
つまり王国はもう今までの態勢を維持できなくなっている。
この重大な欠損は、後で王国軍の統率の不均一さに響いてくる。