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第91話 強襲上陸『Z作戦』

「司令、良いお知らせがありますぞ」


 俺は作戦室に入った途端エルヴィン陸軍大将にそう告げられた。

何が良いお知らせなのか言ってくれなかったのでさっぱり分からなかったが、地図を見ればひと目で分かった。

ルクスタント王国の勢力が少し国土を取り戻していたのだ。


「どうやら我々の攻撃の後に一斉に反抗に出たようです。敵も準備ができていなかったのか前線ではルクスタント軍が押しているようですな」


 地図を見る限り、ヴェルデンブラント軍に王都まで5kmとかの地点まで迫られていたのが今や25km先まで押し返している。

たしかに嬉しい知らせではあるが、ヴェルデンブラント、ゼーブリックの両国が反撃の体制を立て直してきたらそれもまた押され始めるだろう。

やはり早くルクスタント王国に支援をしなければ。


「司令、そんなに焦ってはいけませんよ?」


 俺の顔色を読み取ったのかハンス空軍大将がそういった。

やはり俺は内申焦ってしまっているのだろうか。

最近頭の中にグレースの顔がちらついている気がする。

そんな事を考えずに今は他のことに集中しなければならない。


「司令、艦隊各艦への補給は完了、出撃の準備は整っております」


 ウィリアム大将がそう告げる。

俺は彼の言葉に力強く頷いた。

補給も十分、気合も十分。よし、出撃だ!……と思ったのだが


「司令、まぁお待ち下さい。日本では出撃前に水を盃に入れてを飲むのでしょう? 我々もそれにあやかりましょうよ」


 ハンス空軍大臣がおもむろに俺にそう言ってきた。

少し意味が違う気がするなぁと思いながら、まぁ息抜きにはなるかと思い俺は水とお猪口を取り出した。

4人分取り出したお猪口それぞれに少しずつ水を注ぎ、各人にくばる。


「では、帝国の輝かしい勝利に」


「「「「乾杯」」」」


 俺は一気にお猪口の中の水を飲み込んだ。

これで覚悟は固まった、戦闘に集中しよう。

俺はお猪口を机の上に置き、そして足を扉に向ける。


「ではいってくる」


 俺は三人に見送られながら作戦室を後にした。





 連合艦隊旗艦、大和艦内。

俺は増設された無線機のマイクを握っていた。

これから出撃する全艦艇に対して訓示を行う。


『帝国海軍部隊はこれより全力を上げて出撃、敵本拠地を壊滅させた後強奪する。私は各員がその義務を尽くすことを期待する。全艦錨上げ!』


 訓示が終わり、出撃ラッパが鳴らされる。

大和のメインマストには、U・T・I・終信符号の信号旗が掲げられた。

そして俺の後ろから近づいてくる男がいた。

大和の艦長である山下大佐だ。


「司令、なかなかに良い演説でしたぞ。それにしてもネルソン提督のお言葉ですか。トラファルガーの海戦……大丈夫、司令は守り抜いてみせます」


 その後、俺は山下大佐を伴って防空指揮所へと上がっていった。

やはりここからの眺めは良い、海の全てが見渡せる。

俺は双眼鏡に目を当てて何も飛んでいない空を見つめた。

その代わりに空には低く厚い雲がかかっている。


 艦隊はイレーネ湾を出るとそのまま北西に針路を取る。

今回連合艦隊はフォアフェルシュタットに強襲上陸をかける部隊とゼーブリック泊地、作戦名からとった『Z泊地』を攻撃する部隊とに分かれる予定だ。


 前者が第一部隊、旗艦はワスプ。

フォアフェルシュタットに上陸、同地を確保したうえでZ泊地へと向かう部隊だ。

後者は第二部隊、旗艦は大和。

こちらはZ泊地そのものを叩く部隊だ。


 艦隊は第四警戒航行序列を組んで航行、フォアフェルシュタットより南東200kmの海域に到達した。

ここで艦隊は二手に分かれる。

俺は上陸部隊の成功を祈りながら第一艦隊を見送った。





 第一部隊には、第二艦隊に就いた若干の艦艇以外はほとんどの艦が所属している。

彼らは順調にフォアフェルシュタットに接近、二度目の上陸の機会を待っていた。

今回は索敵によって敵が居ないことは確認されているが、万が一もあるので護衛は手厚めにつけてある。


 フォアフェルシュタットに近づいた海兵隊員たちは上陸の準備を始める。

ウェルドック内に入り、中に搭載されているエアクッション艇に乗り込む。

ワスプのエアクッション艇には500名の海兵隊員が、サン・アントニオ級の2隻にはそれぞれの車両甲板いっぱいにM2A3ブラッドレー歩兵戦闘車が詰め込まれている。


 フォアフェルシュタット周辺海域に到着、各自揚陸作業を開始する。

揚陸艦は後部ハッチを開いてそれぞれの搭載するエアクッション艇で揚陸を始めた。

もはや無人の街となったフォアフェルシュタットに敵はおらず、揚陸は難なく終わった。


 揚陸を終えた第一艦隊は北上、第二艦隊に追いつかんと航行する。

そして揚陸された海兵隊員たちはそれぞれのブラッドレーに乗り込んでZ泊地を目指し北上する。

少しずつZ泊地に攻撃の手が伸びていた。


『よし、全車前進』


 上陸したブラッドレーはフォアフェルシュタットを出発、隊列を組んで街道を走っていた。

周辺を警戒しつつも一切敵は姿を見せない。

だ敵ががいつどこから襲ってくるかは分からなかった。


 そんな彼らの目の前に街道沿いの村が現れる。

ブラッドレーから降りた海兵隊員はその村を捜索したが、どこにも人はいなかった。

彼らは捜索を諦めて車内に戻ってきた。


『おい、前を見てみろ!』


 そんな海兵隊員が戻ってきたブラッドレーたちの車内に無線がはいる。

海兵隊員たちはあわててハッチを開けて外を覗いた。

彼らの目には街道のはるか先からやってくる敵兵の姿が写った。


『敵を確認した、全車攻撃準備をせよ』


『『『了解』』』


 全車両一旦後退、村から出て街道の側面にまわる。

このゼーブリック兵は、増援として本国から送られてきていた部隊だった。

そしてその部隊をブラッドレーたちは待ち伏せし、街道をゼーブリックの歩兵が通り過ぎようとしたときだった。


『撃てぇ!』


 ブラッドレーの25mm機関砲の砲弾が容赦なく襲いかかる。

ゼーブリックの兵士たちは長旅をして疲れており、避ける気力もないままバタバタと倒れていった。

しばらく撃っているうちに、街道上には倒れたゼーブリック兵の死体の山ができた。


『敵の殲滅を確認、全車前進を再開せよ』


 死体の山を踏み越えてブラッドレーは前進する。

その車体には倒した敵兵の赤い血が付着していた(”ブラッド”レーだけに……)。

Z泊地まで残り150km、もうすぐでルクスタントとゼーブリックの旧国境を越える地点まで来ていた。

ブラッドレーの車列は国境部を何の迷いもなく前進する。


 そのころ、第二艦隊はZ泊地より80km南の地点を航行していた。

Z泊地から15kmぐらいの地点には大きめの島があり、その間の海峡を北上しながら敵泊地を砲撃することが今回の目標だ。

今の調子で行けばブラッドレーが到着する少し前に到着できるであろう。


 艦隊は輪形陣を組んでいたが現在は単縦陣に変更、突入の準備はバッチリであった。

各戦艦の主砲たちも発射の時を今か今かと待ち望んでいる。

Z泊地への総攻撃の時はもうすぐそこまで迫っていた。


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