俺はルドルフをワスプに送り届けてまた鹵獲艦隊に戻ってきていた。
軍医の「何とか治す」という言葉を信じて待つしかない。
その後俺は血で汚れた軍服を着替え、再び鹵獲した艦隊へと戻ってきたというわけだ。
「さて、この船を案内してくれるかい?」
俺はすぐそこにいた乗組員に話しかける。
彼は特に嫌がる素振りも見せず、「こちらです」といって先に歩き始めた。
俺も彼の後ろについて船の各所を見て回る。
「ふーん、船内はなかなかいい作りだね」
俺は船内を歩きながら単純にそう思った。
船内は小さな区画ごとに分けられており、浸水が起きた場合でも浸水を食い止めることができる。
そして船内はとても清潔に保たれており、割と生活しやすそうな感じだった。
「次は格納庫です」
案内役はドアを開け、中へと入っていく。
中は地球の空母と同じく巨大な空間になっており、ここに大量の翼竜を搭載するんだなぁと思ったが、実際は全機撃墜されているので中はすっからかんだった。
整備の兵と思われる人々が中でくつろいでいる。
「あちらが昇降機です。あれを使って搭載されている騎を甲板上に運びます」
「その昇降機は一体どうやって動かすんだ?」
俺がそう聞くと、案内役は格納庫の下に降りて行った。
俺も案内役に付いていくと、彼が連れてきた先には大きな縄がおいてあった。
まさか人力でこれを引いて……?
「これを大勢で一斉に引いて昇降機の上げ下げを行います」
やっぱり人力だったか。
そんな脳筋なことをよく人力でよくやるよ……
そして格納庫を離れ、俺は次に艦橋に案内してもらった。
「ここが艦橋です。何か質問はございますか?」
俺は艦橋内を歩き回る。
だが艦橋とはいっても戦艦のパゴダマストのような高いものではなく前ド級戦艦のような平たい艦橋(?)なので特に見どころもないな……
そう思いながら歩いていたが、俺はあるものを見つけた。
「むむ、これは一体……」
俺は木造船に似合わない近代的な設備を見つけた。
それは明らかにレーダーのような装置のディスプレイであった。
これはいったい何であろうか。
「あぁ、これは魔探、魔導探信儀ですよ。この装置を使えば50km先の敵騎を捕えることが可能です。とはいってもこれはヴェルデンブラントより供与された兵装なので詳しいことは知りませんが……」
ヴェルデンブラントから供与された?
となるとヴェルデンブラント自体がこのような兵器を製造できるだけのかなり高い工業力を持っていることになる。
イズンがこの世界が中世ヨーロッパベースだと言っていたのはいったい何だったのか。
「こちらが魔力波の送信、受信アンテナです」
俺は案内役につれられて艦橋の外に出る。
そして指をさされた、目の前にあったマストの先にアンテナがついているのが見えた。
おそらく形状的に八木・宇田アンテナと同じ、もしくは似たような仕組みだろう。
たしかに魔力は銀線を使えば電気のように流せるのでそれを応用してレーダーを作ろうと現代人なら思うかもしれないが、この世界でその考えにたどり着くのはちと早すぎないだろうか。
それにヴェルデンブラントから供与されたというのもやはり引っかかる。
イズンの言葉は本当に嘘なのだろうか、それとも何か予想もしないような事が起こっているのであろうか……
「これがどうやって作られたとかは……流石に知らないよな」
「はい、残念ながら。申し訳ございません」
まぁいいや、回航した後に工廠で分解して調べてもらおう。
そうそう、次は機関部を見てみたいと思っていたんだ。
何がこの船に速力を与えているのかが気になるからな。
「次は機関部に連れて行ってもらえるかい?」
「勿論です、こちらに来てください」
俺は階段を降りて船底にある機関部に降り立つ。
そこから見ると何がこの船の動力となっているのかが分かった。
そこにあったのはウォータージェット機関だった。
「この船には動力としてウォータージェットを2軸2基搭載しています。魔石からの魔力の供給を受けて稼働するので出力を変更することで、高速度での変針を可能にもしたりします」
俺は近くによって機関部を眺める。
作りはまだそこまで複雑ではなかったが、十分に実用可能な機関となっていそうだ。
とはっても俺は専門家ではないから、そこら辺も工廠に頼もう。
「この機関もヴェルデンブラントからの供与かい?」
「いいえ、あの国は内陸国ですので海軍関係の技術は持っていません。この機関は我が国が独自に開発したものとなっています」
俺はその後もいくつか質問をした後、再び後部飛行甲板へと戻ってきていた。
そういえばそろそろ我が国の艦隊と合流する時間だな。
この鹵獲艦隊は大和たちに先導されてイレーネ湾に回航される。
そこで様々な試験をする予定だ。
「あ、あれは一体何ですか……まさか、船?」
横に立っていた案内役が遠くを指差して震える。
彼の指の指す先には、ちょうど合流してきた大和たち艦隊が見えていた。
艦隊は接近してき、鹵獲艦隊の正面についた。
さて、一通り見て回ったしそろそろワスプに戻ろうか。
俺は案内役にお礼をいい、そして後部甲板に戻った。
俺は駐機しているオスプレイに乗り込み、鹵獲艦隊を離れた。
◇
艦隊は帰投、イレーネ湾に投錨した。
だが鹵獲艦隊は数が多く、そのうちのほとんどの艦艇は湾外に係留されることとなった。
艦隊の乗組員は捕虜とされ、衣食住を提供する代わりに島の中にある基地や避難民の生活する島中央部の掃除などの雑用をしてもらうことにした。
そしてその鹵獲艦隊のうちの1隻が今ドッグに入渠していた。
入渠したのは鹵獲艦の中でも最大の艦艇、艦隊旗艦だった艦だ。
だがその間自体に名前はないらしく、現在は便宜的に『A型艦』と呼称している。
早速ドッグ内では魔導探信儀やウォータージェットのような機材の取り外しが行われていた。
これらの機材は魔道具、そして相手国の工業力の研究に用いられる。
工廠の連中は分解していいたと聞いたときには飛んで喜んでいたな。
その隣のドッグでは第一号輸送艦の整備と改装が行われている。
最近海上公試が終わり、様々なデーターを持ち帰ってくれた。
例えば蒸気タービンの核である魔石の交換頻度に関するものなどだ。
最初どのぐらい魔石が持つのかさっぱり分からなかったが、新品の物を積めば1ヶ月は航海できるらしい。
重油を燃やすよりもお手頃で素晴らしい資源だと思う。
ただ、現時点では島に湧く敵を殲滅することで数を確保しているが、最近はその湧く数が減っているという報告も受けているのでその辺が気ががりではあるが。
そして今、第一号輸送艦には武装が搭載されようとしていた。
工廠の連中が試作で作ったとかいう砲を載っけるつもりらしい。
どのぐらいの大きさなのかと聞いたら20.3cmの単装砲と答えられたので、もはや輸送艦ではなく一種のモニター艦だなと思った。
さて、艦を鹵獲したりしているのもいいがそろそろ本格的にルクスタント王国を助けるべく動き始めないとな。
既に作戦は立案、承認されているので後は実行に移すのみだ。
戦争が始まってから常に行動しているので少し疲れが溜まってきたな……
だが少しでも早く王国を助けるべく行動を起こさないと。
そう思いながら俺は鎮守府へと歩いていった。