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第88話 敵艦鹵獲『CP作戦』

「よぉーし、行ってこい! 敵の島を火の海にしてやれ!」


 声援を受けながらゼーブリック海軍の翼竜母艦から次々と翼竜が飛び立っていく。

V字型に設計された飛行甲板は、一度の発艦につき2騎の翼竜の射出を行うことができるので効率がいい。

空には既に飛び立った翼竜は、堂々と列をなして飛行していた。


 そんななか、艦隊の中央に位置するゼーブリック艦隊の旗艦からひときわ大きな翼竜が飛び立っていく。

その翼竜、いやドラゴンこそこの艦隊の最大戦力であった。

旗艦と随伴の2艦からそれぞれ5騎、合計10騎が離陸した。


「このまま何事もなく攻撃が成功すればよいのだが……」


 そんな浮かれた空気の中で1人考える男がいた。

ルドルフ=ハーゲマン、前任のフリッツ=メーラーの跡を継ぎ、今はゼーブリック艦隊の総司令官となっていた。

彼は本国から聞かされたイレーネ帝国の参戦、そして別行動をしていた艦隊が一瞬のうちに消えたという報告を聞いて底知れない不安を感じていた。


「提督、素晴らしい眺めですな。これならどんな敵であろうと必ずや撃滅してくれるでしょう」


 ルドルフの隣に立派なひげをたくわえた男が立つ。

彼はゲルト=シェンク、新たにこの艦隊に加わった副司令であった。

そんな慢心している彼にルドルフは尋ねる。


「ゲルト、何も起こらなければいいのだがな」


 そう聞くルドルフにゲルトは笑って答える。


「ははっ、これだけの大部隊ですよ、それも精鋭ぞろいの。この部隊がやられるというのであればもはや我が国に勝ち目はありませんよ。きっと大勝利を収めてくれるはずです」


「そうだな……そうなればよいのだが」


 ゲルトは負けることなどこれっぽっちも想像していなかった。

彼の辞書には慢心という言葉がない。

そんな彼から視線を外し、ルドルフはまだ日ののぼらない空を眺めるのであった。



『よし、進路そのまま。突入せよ』


 空を編隊を組んで飛行する翼竜部隊。

水平線から出てきている朝焼けの光を浴びながら堂々と飛行していた。

だが部隊内にも、もはや負けはないと慢心する風潮が漂っている。


『味方艦隊が全滅していたようだがそれはあくまでも水上でのこと。空において我らに勝ることはない!』


『そうだ、その通り! 我らに勝る敵はなし!』


 空には彼らの声が高らかに響き渡った。

だがそんな部隊の前に超長距離から高速の矢じりが迫ってきていた。

それこそ要撃部隊の放ったAMRAAMであった。

ほとんどの部隊はそれに気が付かないまま、回避運動すら取ることはなく被弾、次々に撃墜されていった。


『なんだ、いったい何が起こったんだ!』


『とりあえず陣形を組みなおせ!』


 翼竜部隊はすぐに陣形を組みなおす。

だがそんな彼らの鼓膜をジェットエンジンの低い音が振動させる。

要撃部隊がさらに放ったサイドワインダーも陣形を組みなおした翼竜たちに命中、どんどん落ちて行った。


『くそっ、翼竜部隊は全滅か。あと残っているのはドラゴン部隊だけか……』


『おい、あれを見ろ!』


 ドラゴン部隊の上を高速でイレーネ帝国の要撃部隊が飛んでいく。

彼らは猛烈に吹き抜ける風に吹き飛ばされそうになったが、なんとか手綱を握ってドラゴンにしがみつく。

そうしているうちに、上空からA-10Cが1機猛スピードで降下してきた。


 ブォォォォン……


 空に30mm機関砲の音がこだまする。

30mm機関砲の砲弾は先頭を飛行していたドラゴンへと向かって飛んでいく。

その音を聞いたドラゴン部隊は恐怖した。


『あれはまるで悪魔のサイレン……』


 そうして先頭の1騎が機関砲弾によりハチの巣になって落ちていった。

他の騎への攻撃は行われなかっため被害はなかったが、もはやドラゴン部隊は攻撃を諦めて引き返そうかと思うほどであった。

もはや栄光の海軍翼竜部隊はその姿を海中に消し去ってしまった。


「とりあえず連絡を入れよう」


『あーあ、こちら海軍所属第1ドラゴン部隊。ほとんどの部隊が全滅――』


「おい、また来るぞ!」


 通信を行っていたパイロットは仲間の声掛けに反応して前を向く。

目の前からは炎を引く矢じりが猛スピードで接近してきていた。

それを見たとき、彼は自分の死を覚悟した……


『部隊は全滅する……もう一度家族にザザザザザザ……』


 通信珠は砕け散り、パトリオットの命中したドラゴンたちは海面に向かって落下していった。





「さて、敵の来襲も未然に防げたことだし、早速例の作戦を実施しようか」


「例の作戦……『CP作戦』ですね?」


 鎮守府地下作戦室。

敵艦載機の攻撃をはねのけた俺たちは新たなる作戦に踏み切ろうとしていた。

その作戦の名は『CP作戦』、capture plan(鹵獲)の頭文字をとったなんとも安直なネーミングだ。


「既に海兵隊員はたたき起こしてきました。いつでも敵艦を強襲することは可能です!」


 ウィリアム海軍大将は得意げに話す。

彼はこの作戦で要撃にほぼ参加できなかった屈辱を晴らそうと躍起になっている。

やる気があるのはいいことだ。


「分かった、ありがとう。だがひとつだけ作戦に変更を加えようと思う。俺も強襲に参加するぞ!」


「「「はぁぁーっ!?」」」


 俺の突然の宣言に3人は驚いたように叫ぶ。

もちろん俺が乗り込むことなど作戦には盛り込まれていない。

だが俺もその船に興味があるから実際に見てみたいのだ。


「司令、流石にそれは……」


 ウィリアム大将はおろおろと答える。

他の2人もウィリアム大将に同意し、うんうんと頷く。

だが俺は前線に出るという考えを変える気はなかった。


「いや、俺は行くぞ。これは大元帥命令だ」


「はぁ……それなら仕方がないですね、もっと護衛を強化しなくては。空母も1隻つけましょう。でも決して無理はしないでくださいね」


「分かってるって」


 そう言って俺は作戦室を出、港に停泊している艦船のもとに向かう。

港では既に多くの艦艇が出港の準備に取り掛かっていた。

俺は前回の時と同じく再びワスプに乗艦し、出港の時を待った。


 出航時間になると錨が巻き上げられ、ワスプはタグボートに押されてイレーネ湾を出る。

ふと島の方を眺めると、遠くで手を振っている子供が見えた。

避難してきた子供だ、俺も彼らに対し手を振ってそれに応えた。


 艦隊は追跡を行っているバージニア級からの位置情報を頼りに進路を北にとる。

艦隊は9隻と、前に比べると少ない隻数で輪形陣を組んでいる。

この艦隊に参加しているのは大和、ワスプ、ニミッツ、以下護衛艦隊の6隻だ。


「司令、準備ができました。甲板に駐機しているオスプレイにお乗りになってください」


「おぉ、ありがとう」


 俺は案内されて甲板の外に駐機するオスプレイへと向かう。

俺の乗る機体以外にも搭載されている8機が整列しており、加えて2機も後から出発する。

俺は座席に座ってシートベルトを締め、発艦に備える。


 オスプレイは垂直に発艦、ある程度距離と速度を稼いだところで、固定翼モードに切り替える。

全10機のオスプレイと、それを護衛するF/A18Eスーパーホーネットは編隊を組み、周囲に警戒しながら目標の艦隊へと接近していくのであった。

CP作戦、開始である。


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