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第86話 上陸作戦の事前準備

 艦隊は航海を終了、イレーネ湾に帰投していた。

輸送艦からは多くのフォアフェルシュタット住民が下船してきており、彼らはそれぞれ輸送車両に乗せられてイレーネ島中心部へと運ばれた。


 そこには帝都造成の一環として既にいくつかの建物が建てられており、アパートも含まれていた。

水道や電気なども完備されており、生活する分には支障のないぐらいの家具は揃えられていた。

因みに電気は魔石式蒸気タービンを応用した発電用の設備を急遽作って賄っている。


 人々はアパートまで連れられてこられ、それぞれに部屋が割り振られた。

食事は鎮守府から料理人が派遣され、彼らに無償で配給される。

こうすることで避難民の生活は困窮することなく何とかなるだろう。


 そしてもう一つ重要なことが。

それは治安維持のための治安部隊の導入だ。

彼らも見知らぬ島に連れてこられた以上、暴動が起こってもおかしくはない。

そんな彼らの治安を維持する必要があるのだ。


 では誰に任せるべきだろうか。

SS? それはやばい……憲兵? それもやばい……

そんな輩を召喚してしまったら大変なことになってしまう。


 無難に陸軍部隊の誰かから引っ張ってこよう。

俺は1人陸軍基地へと人員の確保に向かった。


 陸軍基地に付いた俺は、歩兵たちの中から20人ぐらいを選んで治安部隊に任命した。

彼らには早速避難民の生活するアパートの周辺の見回りを下令する。

これで島の中の治安が著しく悪くなることはないはずだ。


 再びアパートの立ち並ぶエリアに戻ってみると、避難民たちが列をなしてアパートから出てきているのを発見した。

何があるのかと思い俺は彼らの後についていく。

すると、彼らは島の中心部にある神殿の前でピタリと止まった。


「どうした、中に入りたいのか?」


 俺はその集団の中の1人に話しかけてみた。

急に話しかけたせいかビックリされてしまったが、俺の質問には答えてくれた。


「はい、みんな自分たちが助かったことのお礼をイズン様にと……」


 なるほど、そういうことか。

確かに中にはイズンの像(誇張済み)があるから祈りもささげられるな。

そうとなったら彼らにこの神殿をお祈りの場所として解放してあげよう。


 俺は神殿の扉を開けて中に彼らを迎え入れる。

彼らは最初は入るべきかどうか悩んでいるようだったが、結局全員が神殿の中に入ってきた。

この神殿は大きいため、これだけの大人数が入っても余裕だ。


 そういえば1年以上も入っていなかった神殿だが、中には全く埃が積もっていないな。

そして神殿内には天井の大きなガラスの天窓から光が降り注いでいた。

そんな中で、彼らは手を組んで目をつむり、イズンへの祈りの態勢に入る。


 そんな彼らを邪魔してはいけないので、俺は静かに神殿を出た。

あんなイズンだが、しっかりと崇められているのだな。

そして俺は行きに乗ってきたハンヴィーに乗って鎮守府へと戻った。





 鎮守府地下作戦室……

ここにはいつも通りの顔触れがそろっていた。

ちなみの俺達の間ではいつしかここを大本営と呼ぶようになっていた。


「で、これからはどうするべきかねぇ……」


 俺は机上の地図を眺めてうなっていた。

最前線の敵を蹴散らすことは出来たが、未だに王国の大部分は敵の支配下になっている。

だから強襲上陸やらなんやらで地上戦力を送り込む必要があるのだが……


「司令、何度も言っていますがあの量のM1A2を瞬時に展開することは不可能ですよ……」


 エルヴィン陸軍大将が呆れた口調でそう告げる。

そう、陸軍の主力となるはずであったエイブラムスの輸送が厳しいということに気づいたのだ。

なにせ現状保有している輸送艦では全車輸送するまでにとんでもない時間がかかってしまう。


 かといって他の戦車を輸送するとなればエイブラムスたちはどうするんだという話だ。

この島で置いてけぼりを食らうというのもかわいそうな話しだ。

いらない子にならないように何とか使ってやりたいがどうすれば……


「司令、1つ提案がありますが……少々現実味はないのですがよろしいでしょうか」


 そういってゆっくりと手をあげたのは海軍大臣のウィリアム大将。

海軍の大将た言う事もあり、海に関する知識は人一倍持っている。

彼ならばあまりものになってかわいそうなエイブラムスの活用方法を考えてくれるかも!


「なんでもいい、言ってみて」


「はい、あの大量のエイブラムスですが輸送する手段が1つだけあります。それもエイブラムスだけでなく保有する全車両を一気に輸送することができるような方法が」


 なんだって、そんな方法があるのか!?

そんないい方法があるのならば早く言ってくれたらよかったのに。

なぜ今まで黙っていたのであろうか?


「で、その方法とは?」


「はい、それはワトソン級という車両輸送艦を使うことです」


 ワトソン級? 聞いたことのない艦の名だな。

とにかくその艦を使えば輸送ができるのならば使わない手はない。

早速その艦を召喚するために外に出ようと思ったのだが……


「司令、お待ちください。実は大きな問題点があります……」


 問題点? なんだろうか。

俺は立ち止まり、ウィリアム海軍大将の言葉を待つ。

彼は少し残念そうにこういった・


「実はワトソン級が入港するためにはある程度整備された港が必要となるのです。だからフォアフェルシュタットとかには展開することができません……」


 それはなかなかに致命的な弱点だな。

当たり前といえば当たり前だが、この世界の港は基本的に大型船が入港できるようには整備されていない。

これでは実質不可能に近いじゃあないか。


「しかし司令、まだ諦めるのは早いですぞ。この世界にも1つだけ整備されている港が存在します」


 そんな都合のいい港がどこに……

いや、1つだけなら心当たりがあるぞ。

その心当たりのある港とは……


「ゼーブリックの泊地……か?」


「当たりです司令。褒美に牛乳瓶の蓋をあげましょう」


「いらんわ!」


 そんなどうでもいいことはいいんだ。

なるほど、ゼーブリック泊地かと思った俺は、再び席について地図を眺める。

ゼーブリックの泊地からルクスタント王国は少し離れているが、ここならば問題はなさそうだ。


「ふーむ……ではここを占領する方針で進めていこうか」


「わかりました司令、それともう一つ気になることが存在しています」


 ウィリアム海軍大将が地図の上に置かれている駒を指さす。

それはイレーネ島の北方に展開している敵の翼竜空母の艦隊だ。

大した問題でもなかったので放置していたのだが、何か問題なのだろうか。


「何か問題でもあるのかい?」


「えぇ、その、気のせいかもしれないのですが敵の速力が帆船にしては早いんですよね。なので何か特殊な技術が使われているかもしれないので鹵獲したいのですが……(1人の船好きとして)。それに技術も調べることが出来ますしね、えぇ」


 なるほど、あの船を鹵獲したいのか。

確かにどんな技術が使われているのかも気になるしいいかもな。

それにしても船速が速いっていったい何ノットなのだろうか。


「船速が速い? いったい何ノットなんだい?」


「えぇと……約13ノットです」


「13ノットぉ!?」


 いやいや流石に速すぎるだろう。

13ノットといえば時速24kmだぞ、普通の帆船と比べて流石に早すぎる。

確かにそれは何が起こっているのか気になるな。


「分かった。その船の鹵獲も視野に議論を進めよう」


 夜中の議論はまだまだ続くのであった。


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