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第84話 硝煙薫る艦砲射撃

 フォアフェルシュタットから帰ってきたエアクッション艇が続々と母艦に収容されている。

最上甲板から見える限りでもかなりの人数がワスプに収容されており、全艦合わせればかなりの人数になりそうだ。

最後のエアクッション挺が収容し終わり、ウェルドッグのハッチが閉じられた。


 俺は最上甲板から降り、収容した人たちのもとに向かう。

温かい食事も用意してあるので、少しでも彼らも恐怖を和らげられたら良いのだが……

というか前に停泊しているところを見たことがあるかもしれないとはいえ、実際にこんな船に連れられてきている時点でもうビビっているか……


 俺は格納庫内に集まっている人たちのもとに向かった。

子供も大人もどちらもおり、親と思われる人たちは自分の子供を抱きしめていた。

そんな彼らに俺は優しく話しかける。


「皆さん初めまして、私はルフレイと申します。この船に乗ったからにはもう大丈夫ですよ。皆さんの身の安全は保証しますので、どうか大船に乗ったつもりでいてください。まぁ実際大船ですがね、はっはっは」


 空気を和ませようと渾身のギャグをお見舞いしたのに、返ってきたのは子どもの笑い声だけだった。

大人からの反応は鈍かったが、まぁ子供が笑顔になっただけでも良しとしよう。

とにかく彼らには元気になってもらうため温かいものを食べてもらおうか。


「皆さんお疲れだと思いますので、ここで食料をお配りしたいと思います。そこに一列に並んでくださーい」


 俺がそう言うと、格納庫内に設けられた食料配給所へと彼らは向かっていった。

食料配給所では温かいスープにポークビーンズ、パンとフライドポテトが支給される。

だがあまりにも列が長いので、後ろの人達にまわるまで随分と時間がかかりそうだ。


「おかーさん、お腹すいたよー」

「ご飯がもらえるんだから少しは我慢しなさい」

「はーい……」


 そんなやり取りが何処かから聞こえてきた。

よく見ると大人はじっとしているが、子供はお腹が空いて仕方がなさそうだ。

そこで、俺はあることを思いつく。


「列に並んでいる子どもたち、全員集合! 集合したら良いものをあげるよー!」


 俺は列の方へと大声でそう叫ぶ。

その声を聞いた子どもたちは一斉に俺の方へと駆け寄ってきた。

俺が並ぶように言うと、彼らは大人しく1列に並ぶ。


「はい、どうぞ」


 俺はチョコレートを取り出して前に並んでいた子供に渡す。

だが子供はどうやら銀紙の剥がし方が分からないようなので、俺は銀紙を剥いて渡してあげた。

彼は現れた茶色いチョコの板に若干の不信感を覚えつつも、思い切って噛んだ。

その様子を全子供がガン見で眺める。


「なんだこれ、すっげぇ甘ぇ!」


 彼は驚きのあまりチョコレートを落としそうになった。

その様子を見て、他の子供達も我先にとチョコレートを取りに来る。

チョコをむしり取られた俺は全員に配り終える頃には俺の服はボロボロになっていた。


「あーつかれた」


 俺は格納庫の床にどかっと座り込む。

そうしていると、どこか聞いたことのある声で声をかけられた。


「お久しぶりですルフレイ様。また助けていただくことになるとは……感謝してもしきれません」


 後ろを見ると、フローラが立っていた。

彼女はワスプのエアクッション艇で避難していたようだ。

彼女は配給される食事のお盆を持って、俺の隣りに座った。


「それにこんな豪華な食事も用意していただけるなんて、もう待ちきれません。いただきます!」


 フローラはパンをちぎりポークビーンズにつけて食べる。

彼女の反応を見る限り、とても美味しいようだな。

彼女は飲み込むと、俺に感想を伝えてきた。


「これ、すごくおいしいですね! まさか船の中でこんなに美味しいご飯が食べられるなんて思ってもみませんでしたよ」


 フローラはご飯に満足してくれたようだ。

周りを見渡すと、ほかの人たちも楽しそうに食事をしている。


 ……さて、俺は自分の仕事に戻ろうかな。

そういえばもうすぐでF-35Bが帰投するらしいな。

せっかく出し子どもたちにも見てもらおうか。

俺はフローラに用事があると言って辞し、俺は飛行甲板へと戻っていった。





 子どもたちを連れて俺は航空機用エレベーターで甲板上に上った。

彼らは楽しそうに甲板上を走り回っている。

そんな彼らを艦橋付近に集めながら俺は考える。


 現在フォアフェルシュタットの人々の保護は終わったが、まだやらなければならないことがある。

それは町の周囲を囲む敵兵たちの対処だ。

今回は町の人々の避難のために揚陸艦を使っているので、若干名以外の海兵隊員たちは島に置いてきているので、上陸作戦というわけにもいかない。


 だがこの艦隊には対地攻撃をするだけの装備ならそろっている。

艦砲やミサイルなどを用いて地上部隊の殲滅といこうじゃないか。

そう思っていると、航空支援に行っていたF-35Bが戻ってきた。


「なんだあれ、すげー!!」


 子どもたちはF-35Bを見て大はしゃぎだ。

F-35Bはそのまま垂直に自動で着艦する。

機体はそのまま甲板上の所定の位置に係留されるため動く。

移動が終わったF-35Bか乗組員がおりてきてこちらにやって来た。


「司令、ただいま帰投いたしました」


「おかえり、向こうの様子はどうだった?」


「そうですねぇ、見たところ敵は固まって動きを見せず、こちらどころか町の住民が消えたことにも気づいていないのではないでしょうか」


 彼はそう言った。

気づいていないのならばそのまま撤退してもいいのだが、流石に敵兵を放置しっぱなしはまずいのでちゃんと攻撃しないとね。

それに固まっているのならば好機だな。


 俺は甲板を後にし、艦橋内部に入る。

子どもたちはエレベーターを使って親御さんたちのもとに返してもらう。

艦橋内についた俺は、艦隊の全艦に無線を飛ばした。

攻撃のために艦隊を組み直すためである。


「全艦、第四警戒航行序列に推移せよ」


 艦隊は陣形を変え、ワスプは後方に移動する。

艦隊は陣形を組み直し、攻撃の準備が整った。

俺はこんどは戦艦群に指令を飛ばす。


「おーい、聞こえるか? 今からフォアフェルシュタット郊外に在中する敵兵に対して艦砲射撃を実施する。準備をしてくれ」


『了解、E−2Dの観測結果をもとに全艦攻撃の準備に入ります』


 俺はそれを聞くと通信用のマイクを持って再び艦橋から外に出る。

望遠鏡で前を見ると、航行している戦艦群の主砲身がゆっくりと持ち上がり始めた。

全艦射撃の準備が整ったようで、発射号令を待っている。


「目標フォアフェルシュタット周辺の敵部隊、距離20000、撃てぇ!」


 ズゥゥゥゥン……ズゥゥゥゥン……


 号令とともに一斉に主砲弾が放たれる。

対地射撃用に大和と比叡が使う砲弾は零式通常弾、アイオワとニュージャージーが使う砲弾はHE-CVT Mk.143と呼ばれるクラスター砲弾だ。

どちらも炸裂とともに大量の子爆弾をばらまいて攻撃する。


 戦艦群は主砲の発射を終えると、再装填を始める。

しかしアイオワとニュージャージーが全門斉射だったのに対し、大和と比叡は交互打ち方を行っているため、E−2Dから得た弾着情報を下に再度砲撃を行った。

……射撃法はどちらかに統一したほうが良いかな、まぁこのままでも良いか。


 その後も射撃と修正が行われ、艦隊全体で約200発の砲弾が発射された。

E-2Dの報告から攻撃は十分だと判断した俺は戦艦群に火器を収めを号令し、敵部隊への攻撃を終了した。

十分な攻撃を行った艦隊は、イレーネ島に向けて針路を変えた。


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