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第83話 威風堂々、連合艦隊

 戦争開始から2週間と2日。

俺は鎮守府の地下の司令部にいた。

ちなみにもう2日ほどこの部屋にこもりっきりで戦争の推移を観察、分析している。


「司令、少しは休まれては?」


 俺の前にコーヒーを置く男。

俺は今まで一人で戦局を分析していたが、脳の処理限界に達しつつあった。

そのため、俺は戦局分析をするにあたって3人の軍人を新たに召喚した。


 1人目は陸軍のエルヴィン大将、陸軍大臣に任命している。

2人目は海軍のウィリアム大将、海軍大臣に任命している。

最後の3人目はハンス大将、空軍大臣に任命している。


「あぁ、すまないね」


 俺はエルヴィン大将から渡されたコーヒーを口に含む。

コーヒーに含まれるカフェインが俺の眠気を飛ばす。

彼らを召喚して以来、俺達は4人でずっとこの部屋に引きこもっていた。


 彼らと戦局を分析していくうちに、どんどんと絶望的な状況になっていることは明白であった。

エルヴィン大将らから条約内容を破棄してでも宣戦布告を行うべきだという声も上がっていたが、俺は流石にそれはできないと止めていた。

だがそんなときに、一気に状況が変わる一通の知らせがオリビアによってもたらされる。


「ご主人様! ルクスタントより通信があり、我が国の参戦を要求してきました!」


 オリビアの言葉を聞いた司令部内が一気にざわつく。

ようやく求めていた参戦の糸口をつかめたからだ。

答えはもちろんイエス、これで戦争に介入して王国を救うことができる。


「ルクスタント王国に連絡、我が国はそちら側に立って参戦すると伝えよ!」


 オリビアは部屋から出て通信を行いに走って行った。

俺たちも作戦行動に移るべく、司令部の外に出る。


 イレーネ軍港。

そこには今に出航せんと多数の艦艇が組織を再編、みな連合艦隊の一員として出撃の機会を待っていた。

俺は強襲揚陸艦「ワスプ」に乗艦する。

ワスプに乗り込んだ俺は艦橋の方へと歩いていった。


 これからあらかじめ決めていた作戦を実行する。

1つ目はフォアフェルシュタットの人々の救出作戦。

揚陸艦を利用して人々を救出、一時的に島に避難させる。


 2つ目は王都周辺のヴェルデンブラント軍の掃討作戦。

保有しているA-10Cサンダーボルトを投入して一気に敵軍の殲滅を図る。

3人の大臣にはこちらの指揮を担当してもらい、俺はフォアフェルシュタットの救出を指揮することになっている。


 今回もそれぞれの作戦に作戦名をつけてある。

フォアフェルシュタット救出作戦の作戦名は『ケ号作戦』。

ヴェルデンブラント軍殲滅作戦は『せ号作戦』と命名した。


 俺はワスプの艦橋に立った。

そして艦内放送用のマイクを通じて艦隊の全艦に出撃命令を下す。


『神機将に今動かんとす。帝国海軍所属の艦艇はこれより王国支援のために抜錨、各員奮戦激闘をもってここに精鋭たる我が艦隊の本領を発揮せよ。連合艦隊、出撃!』


 出撃命令を下すと同時に出港ラッパが鳴り響いた。

各艦は錨を上げて泊地を離れる。


 艦隊はフォアフェルシュタット救出のために出航する。

今回は揚陸部隊の護衛に第一機動部隊、戦艦部隊も続いている連合艦隊だ。

艦隊は威風堂々陣形を組みながら出港した。





 艦隊はアルマーニ海を北上、フォアフェルシュタット周辺海域に差し掛かっていた。

艦隊は第三警戒航行序列に推移、各巻のスクリューが波濤を蹴って疾駆する。

俺は甲板上に出て、ワスプに搭載されているF-35Bが発艦しようとしているのを眺めていた。


 だがまだ誰も離陸していないのに、空にジェット音が響く。

上を見ると、ヴェルデンブラント軍殲滅に向かうA-10Cと護衛のF-15Cの編隊が飛んで行った。

それに負けじと、F-35Bが発艦、第一機動部隊の2隻の空母からもF/A18E.F、E-2Dが発艦していく。


 艦載機が発艦、フォアフェルシュタットの制空権の確保に乗り出し始めている間、揚陸艦内ではエアクッション艇の発進準備が進められていた。

舟艇には人々の誘導のために数人の海兵隊員が乗り込んでいる。


 だが、ファオフェルシュタット付近の海域で敵艦を捕捉したとの報告がE-2Dより入ったので、先にそちらの対処を行うことにした。


 すぐに随伴の空母から艦載機が発艦していく。

それらの機体は主翼の下部にハープーンを4発携行していた。

各艦から10機ずつ、計40機のF/A18Eスーパーホーネットが空に飛び立った。


 そしてF/A18EはE-2Dの指示に従って敵艦の方へとまっすぐに飛んでいく。

敵艦を捉えた彼らは、確実に当たるよう入念にロックオンし、そしてハープーンを放った。

40機から放たれた160発ものハープーンは敵艦隊へと直進していく。


一方そのころハープーンが飛んできているとも知らないゼーブリック艦隊では……


「あーあったけぇー」


 乗組員たちはみな甲板上で日光浴をしていた。

まだイレーネ帝国の参戦を聞かされていないため、彼らはルクスタントの艦隊を殲滅した時点で敵はいないと慢心していた。

だがそんな艦隊にミサイルのお見舞いが行われる。


 ドォォォォン……


 刹那、付近に轟音が広がった。


「なんだ、何が起こったのだ!?」


乗組員は立ち上がって何が起こったのかを確認する。

彼らの目に入ったのは、真っ二つになって轟沈する友軍艦だった。

艦は2つに裂けた後、海にあっという間に沈んでゆく。


 だが彼らには呆然としている暇は与えられていない。

驚く彼らを横目にどんどんとハープーンが着弾していった。

ゼーブリックの軍船はその攻撃になすすべもなく撃沈されていく。


 ハープーンが全弾着弾したことにより、フォアフェルシュタット周辺の敵艦隊の脅威は去った。

だが残念なことに翼竜部隊は配置転換されており今はいない。

だからこそ被害を免れることが出来たともいうが。


 連合艦隊は再びフォアフェルシュタットを目指す。

既に町にはかなり接近しており、もうエアクッション艇を出してもよいぐらいの距離になっていた。

町上空にも敵機はいないとのことなので、俺はエアクッション艇に出動命令を出した。


 揚陸艦のウェルドックが開き、中からエアクッション艇が発進した。

ワスプはさらにオスプレイを1機発艦させ、住民の誘導へと向かう。

俺は艦橋で指揮を執ることに専念した。





 エアクッション艇はフォアフェルシュタットの海岸に向けて爆速で向かっていた。

その後エアクッション艇は海岸から陸地に乗り上げ、前部のハッチを開く。

エアクッション艇からは誘導役の海兵隊員がフォアフェルシュタットに上陸した。


『みなさーん、助けに来ました! この町に残っている人は避難のために海岸に向かってくださーい』


 上空を飛行するオスプレイから拡声器で避難指示が出される。

その声を聴いたフォアフェルシュタットに残っていた住民は一瞬戸惑いながらも海岸に向かって走り出した。

そして彼らは誘導役に誘導され、エアクション艇に乗り込む。


 その中には逃げ遅れていたフローラもいた。

彼女はオスプレイのローターの音を聞き、ルフレイの助けが来たと思って一目散に駆けだしていた。

走った彼女の目にはエアクション艇が飛び込んでき、助かったと確信した。


 彼女は他の人と一緒にエアクッション艇にぎゅうぎゅうに乗り込み、やがてエアクッション艇は母艦に向かって帰投した。


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