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第80話 紳士の軍隊

 ルクスタント王国上空高度25000M。

はるか高空を高速で飛行する機体が存在した。

∪−2Rドラゴンレディである。


 この機体はイレーネ島を離陸した後、敵のはるか上空をここまで飛行してきていた。

下の地面ではルクスタントとヴェルデンブラントによる熾烈な争いが起こっていた。

ドラゴンレディは雲の隙間から地上撮影のためのカメラを構える。


「よし、撮影を開始する」


 ドラゴンレディは誰にも邪魔されること無く写真を撮影するのであった。

貴重な写真はすぐに島のルフレイの下へと送られた。


 その少し前、地上では……


「隊列を崩すなー!」

「押せ押せー!」


 ルクスタント、ヴェルデンブラントの歩兵部隊が激突していた。

部隊ごとに隊列を組んで突進し、その部隊を弓兵が支援する。

さらにその後ろから魔法部隊による攻撃も行われていた。


「絶対にここを守り抜くんだ! ここを取られたら後ろの村にいる無力な女子供が危険にさらされるぞ!」

「命を捨てて攻撃せよ!」


 ルクスタントは数的劣勢にありながらも勇敢に戦っていた。

だが数で勝るヴェルデンブラントに徐々に押され、村の際まで防衛戦が後退している。

それをさらに加速させるがごとく、上空にヴェルデンブラントの翼竜部隊が集結し始めていた。


「我が国の翼竜部隊はまだか!」

「早く援護を!」


 地上の兵士は叫びながら助けを懇願する。

だがその声は届かず、ヴェルデンブラントの翼竜がルクスタントの兵士に向かって降下し始めた。

ルクスタントの兵士たちは皆怯えて足が動いていなかった。


「やめろ、こっちに来るな!」

「熱い! 助けてくれぇ!」


 翼竜は地上の兵士に向かって炎を吐く。

そらとぶ翼竜に対し全く無力な兵士たちは、その炎に焼かれるしかなかった。

数十分もすると、あたりには人間の焦げた匂いが漂っていた。


「よし、村を占領するぞ!」


 ヴェルデンブラント軍の隊長が兵士に突入を命じる。

その声とともに兵士たちは一斉に村に突入した。

村人たちはその様子を怯えた目で見つめる。


「生き残っているものは捕虜にしろ!」


 誰かがそう叫ぶ。

その声とともに兵士は家々の扉を片っ端から開け始めた。

兵士たちは家々の中に隠れている住民を探して歩き回る。


「おっ、女と子供がいるじゃねーか」


 ヴェルデンブラントの兵士が、民家に隠れていた人間を見つける。

兵士はその家へと足を踏み入れた。


「ひっ、子供だけはお助けを……」


 女は子供を抱えて懇願する。

そんな女に兵士は言った。


「安心しろ。我ら誇りあるヴェルデンブラントの兵は無抵抗な女子供、老人には攻撃しない。国旗に誓おう。だから安心してついてこい」


 女と子供は兵士に連れられて村の集会所に集められる。

そこには大勢の非戦闘員と、生き残った少数の捕虜がいた。


「ではお前たちを本国へと護送する。基本問題を起こさない限りは自由にさせてやるが、もし問題を起こしたら容赦しないからな」


 集会場の演壇に立って隊長が言う。

そんな彼のもとに兵士が上がってきて、こう言った。


「隊長、やっぱり溜まっていますんで、一発だけかましちゃいけませんか?」


「うむ、許可しよう」


 そのやり取りを聞いていた女が声を上げる。


「ひどい、私たちに手は出さないって言ったじゃない!」


 他の女、捕虜の兵士も抗議する。

だが隊長はそれを抑えていった。


「勿論だ。無抵抗な女子供に手は出さない。だが男となれば話は違うだろう?」


 ヴェルデンブラントの兵士の視線が一斉に捕虜の男たちに注がれる。

彼らは捕虜となった兵士に近づき、品定めを始める。


「お、お前良い体つきしているな。こっちにこい!」


「まて、何をするつもりだ」


「なんでも良いじゃないか。さぁ早く」


 兵士は捕虜をしょっぴいてどこかの家屋に連れ込む。

そして――


「「アーッ♂!!!!」」


 ……お楽しみのようだ。


 お楽しみが終わった後、捕虜たちは荷馬車に載せられてヴェルデンブラントへと移送を始められた。

ドラゴンレディが写真を撮影したのはちょうどその時であった。





 ドラゴンレディ離陸から約4時間。

偵察から戻ってきたのRQ−4グローバルホークも追加の偵察のために再度離陸を終えていた。

そのまま空軍基地で待機していると、空にジェット音が響いた。


『司令官、どうやら∪−2Rが帰ってきたようです』


 管制塔から連絡が入る。

俺はすぐに滑走路へと移動し、着陸を待った。


 数分後、滑走路に漆黒の機体が舞い降りる。

機体は追跡車の指示により完璧なバランスを取って2輪で滑走路を滑走する。

そして最後に翼端を地面に擦り付けドラゴンレディは完全に止まった。


「司令、只今戻りました。撮影してきた写真は見ていただけましたか?」


「いい具合に撮れていたよ。ありがとう」


 俺は搭乗員にお礼を言った。

彼はこちらに手を降って格納庫へと歩いていく。


「これは……馬車の列? それに何かが燃えているのか煙が立ち込めているな」


 俺は撮られた写真を眺めてつぶやく。

写真には村の建物と、馬車の列と思われるものが写っていた。

これだけでは判別し難いので、俺は制御室でグローバルホークの映像と照らし合わせることにした。


「やぁ、作業は順調かい?」


 俺はグローバルホークの制御室のドアを開ける。

中のモニターには、様々な映像が写っていた。


「司令、お疲れ様です。ゆっくりと情報は集まって来ていますよ」


 俺はオペレーターから写真を見せられる。

内陸部の偵察を命じたドラゴンレディとは違い、グローバルホークには沿岸部の街などを監視させている。

そしてこちらの画像にも馬車が列をなしてヴェルデンブラントに向かっていっているのが確認できた。


「司令、後グローバルホークのうち1機は潜水艦部隊からの要請に応えて敵艦隊の撮影をしてきております」


 オペレーターは表示する画像を変える。

そこには三日月状の陣形を組んだ艦隊と、それに続く輪形陣を組んだ艦隊がが収められていた。

ただ後ろの艦隊の端っこの1隻だけかけているのが気になるな。


「潜水艦によると、この艦隊はゼーブリックではなくこちらイレーネ島北部海域に向けて航行中、注意されたしとのことです」


 母港に帰らないつもりなのか?

もしかしたら島に攻撃が来るかもしれないな。

対処する準備だけはしておかなくては。


「あ、あと1つ悪いお知らせがあるんですが……聞きます?」


 悪い知らせ、何のことだろう。

とりあえず聞いてみないことには始まらないので、俺は言うように言った。

オペレーターは「怒らないでくださいね」と断って話しだした。


「これは哨戒中の潜水艦で起こったことなのですが……突然乗員の1人が『お前がそこにいるのが悪いんだ……お前が悪いんだぞ……』とか言って勝手にミサイルの発射ボタンを押してトマホークが発射され、見事敵艦に命中したそうです」


 えぇ……なにそれ。

今日からそのボタンを押した男のあだ名は「トマホーク」で決定だな。


「それで、艦長はその乗員になにか罰でも与えたのか?」


「いえ、『まぁいっかぁ』と言ってその場は収まったそうです。ですがそれに魚雷屋の連中が乗っかろうと魚雷を発射しようとしましたが、それは止められたそうです」


 大丈夫かなぁうちの海軍。

なんだか不安になっていたぞ。


 敵艦をうっかりで撃沈したとはいえ、まだ我が国は戦争に介入できていない。

こうしているうちにも、ルクスタント王国はどんどん敵兵の侵入を許しているのであった。


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