ルクスタント王国国境部。
この前の会議で伝えられた2国の同盟を危惧し、国境には見張りの兵士が置かれていた。
彼らは元王国に征服された国の住民や、もとからの住民から構成されている。
よって士気はあまり高くなく、警備には穴があった。
見張り台に立って空の警戒をしていた兵士はちょうど居眠りをしている。
それ故に接近してくる存在の発見が遅れた。
見張りの兵士たちの上を何かが通過していく。
「おい! ヴェルデンブラントの翼竜部隊だ、配置につけ!」
兵士たちの指揮官が大声を張り上げて戦闘の用意を促す。
だが彼らにそんな事はできず、大勢のものが我先にと逃げ始めた。
その背後からヴェルデンブラントの兵士たちが侵攻してきていた。
「まずいぞ、早く王都に連絡を入れなくては」
指揮官は魔法通信珠を取りだして王都に連絡を入れた。
時を同じくしてアルマーニ海海上、ルクスタント本土ら50kmほどの地点にゼーブリックの艦隊がいた。
その艦隊の翼竜搭載艦からは、翼竜が続々とフォアフェルシュタットに向かって飛んでいく。
「海軍翼竜隊よ、敵国を炎の海にしろ!」
ゼーブリック艦隊の旗艦「ヴュルデ」から艦隊の指揮官が叫ぶ。
突然の侵攻の手はどんどん伸びてきている。
◇
「ヴェルデンブラントの軍が国境部に侵攻してきているですって!? 宣戦布告を受けた記憶はないのだけれど」
王城内にグレースの声が響く。
彼女は今丁度軍務卿から国境守備隊の有り様を聞いた所だ。
「いえ、本日の早朝、守備隊の報告の数分前に宣戦布告を受けました。それに加えて現在ゼーブリックの翼竜部隊が王都に向け侵攻中とのことです。迎撃をあげていますが、どうやら敵は皆腕利きのものばかりのようです。勝てるかどうか……」
軍務卿は苦い顔でグレースに伝える。
グレースはその報告を来て歯ぎしりしていた。
彼女は今、再び国家の危機にあることを悟ったのだ。
「相手は強大な2か国の同盟軍です。我が国では数、練度共に劣るでしょう。ここはルフレイ様に条約に基づき援軍を求めるべきかと」
軍務卿はグレースに提案する。
だが彼女がついに首を縦に振ることはなかった。
「いえ、それはならないわ。同盟を組んでいるとはいえ彼は大陸外の国家。大陸の動乱に巻き込むわけには……」
グレースは言いながらうつむく。
彼女も正直自国の軍隊だけでは勝利は絶望的であるとは悟っていた。
だが彼女は女王として国民のために戦うことを誓う。
その後も何度も軍務卿が援軍の要請を進言したが、グレースは頑なに考えを曲げない。
そんなグレースの様子に軍務卿も折れてしまった。
「今すぐに国土中に戦えるものは戦い、避難すべきものは避難するよう勅令を出しなさい。なんとしても私はこの国を守り抜きます」
グレースは徹底抗戦の意思を固めた。
◇
イレーネ鎮守府本庁舎。
俺は紅茶を飲みながらまったり過ごしていた。
今は島の改造が行われており、鎮守府の窓からもその様子はよく見える。
俺が窓の外を眺めていると、廊下を走ってくる音が聞こえた。
その足音はだんだんと近づいてき、俺のいる部屋の扉がノック無く開いた。
そっちを見ると、オリビアが息を切らして立っていた。
「どうしたんだいオリビア? そんなに焦って」
俺はそう言って笑い、紅茶をすする。
しかし彼女の顔は全く笑っていなかった。
彼女は荒れる呼吸を整えると、俺にこういってきた。
「ご主人様、大変です! 戦争が勃発しました!」
俺は驚きのあまり口に含んでいた紅茶を吹き出した。
オリビアは紅茶がかかるのを防ぐため一歩後ろに下がる。
むせるのが止まった後、俺はオリビアに聞き返す。
「戦争だって? そんなに突然?」
オリビアは頷いて言う。
「そうです。グレース様直々に連絡がありましたが、王国に宣戦を布告した後すぐに攻め込んできたそうです」
宣戦布告と同時の攻撃。
いきなりの不意打ちにルクスタント軍は動揺しているだろう。
偵察からもかなりの軍隊が集まっているのが確認できていたからな。
そして条約に基づき、我が国も参戦するべきであろう。
ルクスタント王国と我が国の連携が重要になってくる。
そうなれば作戦を今すぐ練らないとな。
「で、王国は俺に参戦を要求してきたか?」
「いえ、それが……」
なんだ、要求してきていないのか?
要求されていなければこちらも無闇に動くわけには行かない。
それが条約の決まりだからな。
「どうやらグレース様はご主人様を今回の戦争に巻き込みたくないようです。軍務卿様は自国だけで対処するとグレース様が言っているとおっしゃっていました」
グレース、何を考えているのだ。
条約があっても参戦を要求されなければこちらは何もできない。
俺は机を拳でおもいっきり叩いた。
その音にオリビアは少しびくっとする。
「仕方がない。出来る範囲でまずは情報を収集しよう」
俺はそう言って部屋を出る。
向かう先は空軍基地だ。
保有するRQ−4に加えて今回は更に偵察機を使用する。
空軍基地に到着した俺は、すぐさま航空機の格納庫に向かう。
俺の入った格納庫にいたのはU-2Rドラゴンレディだ。
この機体はほっそりとした胴体に長細い直線の翼が特徴だ。
「すまない、緊急任務だ。今すぐに偵察をしてきて欲しい」
俺は格納庫で待機している搭乗員に告げる。
ゆっくり団らんしていたようだが、彼らは親指を立てすぐに気持ちを切り替え、早速出発の準備に取り掛かった。
搭乗員は黄色い宇宙服のような服に着替え始める。
格納庫の外に出ると、既に滑走路をタキシングしている機体がいた。
E−3セントリーとおそらく護衛であろうF−15Cだ。
戦争勃発の方を聞いたのであろうか、既に機体は哨戒のため離陸しようとしている。
それらの機体も離陸し終えた後、本命のドラゴンレディが姿を表す。
格納庫から出たU−2Rは2本の足でフラフラしながら滑走路をタキシングしていた。
離陸位置についたU−2Rはゆっくりと加速を開始した。
そして速度が出てくると機体は両翼に取り付けられている補助輪を分離する。
U−2Rは空高く舞い上がり、目標の空へと飛んでいった。
◇
次に俺は海軍基地へと向かう。
大陸との間にあるアルマーニ海の敵艦隊の捜索、追跡を行わせようと思う。
早期警戒機を用いて捜索を行うが、どうしても航続時間が短いからね。
使用する艦種は潜水艦。
潜水艦を海域に等間隔で展開する散開線を構築し、敵艦を捜索させよう。
ただそれにはあまりにも潜水艦が少なすぎるので、追加で召喚する。
「スキル【統帥】発動、バージニア級原子力潜水艦を召喚!」
俺は追加で8隻のバージニア級を召喚した。
これによって合計10隻の潜水艦で散開線を構築することが出来る。
俺は各艦に出港するように指示する。
そして俺自身は空軍基地へと戻った。
それらの艦や偵察機が情報をかき集めてくるのを俺はただ待っているしかなかった。