目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第77話 秘匿兵器視察

 同盟締結の1か月後、ヴェルデンブラントにゼーブリック側から秘匿兵器の視察のための武官が派遣されていた。

だが実際は軍服を着た保安隊の面々であった。

彼らはヴェルデンブラント側の軍人に案内されて秘密の基地へと案内される。


 中に入ると、そこには早速滑走路が広がっていた。

そんな滑走路に入ってくるひときわ大きな翼竜がいた。

それこそ秘匿兵器のドラゴンだ。


「こちらが秘匿兵器のドラゴンです。非常に強力な鱗に覆われており、通常の魔法であればはじき返してしまいます。それに体躯も大柄で航続距離が長く、攻撃力にも長けています」


「なるほど、それは強力そうだ。だが欠点はないのか?」


 アルファはそう聞いた。

他の面々はドラゴンに近づき間近で観察する。

そんな彼らを見ながら案内の軍人は返答を返す。


「そうですね、まずはやはり非常に希少な種ですので数をそろえるということが非常に難しいです。それにこれだけ大柄である以上食費などもばかになりません。優に翼竜の4~5倍はかかると思っていた方がいいでしょう。ですがそれを差し引いてもこれは強力だと思います」


 アルファはその説明に納得したように頷く。

彼も他の保安隊たちに混ざってドラゴンを観察した。

アルファも数度翼竜を見たことがあるが、これほど大きかったものはないと思った。


「では次にまいりましょうか」


 案内の軍人は彼らを次の兵器のもとにつれていく。

次の場所に置かれていたのは魔探だった。

案内の軍人は保安隊を魔探の管制室へと連れていく。


「これが魔探です。この画面を見て敵騎がいるかいないかを確認することができます。今ちょうど周辺を味方の翼竜が飛んでいるので反応が出ていますね」


 案内の軍人は画面上の輝点を指さす。

その輝点は翼竜が付近を飛んでいることを示していた。

アルファたちは管制室の外に出て実際に飛んでいるかを確認した。


「おー、本当に飛んでいるぞ! これがあれば空の守りが劇的に強化されるな!」


「騎数までぴったしだ、これはすごいぞ」


 保安隊の面々はそれを見てワイワイしていた。

そんな彼らの上空を翼竜が編隊を組んで飛び去って行く。

しばらくした後、案内の軍人は彼らをさらに別の場所へと連れていく。


 軍人が案内した先には対空砲のようなものが置かれていた。

だが事前情報では秘匿兵器は2つだったのでアルファたちは首をひねる。

そんな彼らに案内の軍人はついてきたアルファたちに解説を始める。


「これはつい先週に試作が完成した兵器です。先ほど見ていただいた魔探と共に用いることによって真価を発揮します。使い方は……見てもらった方が早いですね」


 軍人は対空砲に配属されていた兵士に合図を送る。

合図を受け取った彼らは砲塔を旋回、仰角を大きくとった。

それを見た案内の軍人は発射の合図を送る。


 合図とともに大きな音が鳴り響き、砲身が後退する。

あまりの大きな音にアルファたちは思わず耳をふさいだ。

そして発射された砲弾は上空1000Mほどで炸裂した。


「申し訳ございません、大きな音がするのを言い忘れていました。それでこの兵器の解説なのですが、未加工の魔石をわざと爆発させ、その力で砲弾を上空に打ち出し、その砲弾が炸裂することによって敵を撃墜することを目的としています」


 アルファたちは説明を聞きながら対空砲を眺める。

彼らにはどうやってこんな緻密なものを作り上げたのかが謎であった。

それを質問してみようとアルファは思った。


「ちなみにこれらの兵器はどこで作られているんだ?」


「ええと、すみません。それについては私も教えてもらっておりませんし、知っていたとしてもお話しすることは出来ません」


「そうか……」


 アルファは少し怪しいと思ったが、秘密にしておかなければならないこともあるだろうと特に考えないことにした。

そしてその後は基地内の一室に入り、交渉を進める。

兵器の引き渡し時期やドラゴンの搭乗員の練習の支援などを次々に決めていく。


「では最後に価格ですね……」


「ちょっと待て、金取んのかよ!」


「そりゃあそうですよ。こっちも慈善事業じゃないですし」


 タダだと考えていたが、よく考えたら当たり前だとアルファは思った。

そして提示された金額白金貨10000枚(日本円で約1兆円)の支払いの契約を結んだ。

契約を結び終えたアルファたちは本国へと帰還した。





 それからさらに1ヶ月後、ゼーブリック王国には少数の魔探と対空砲が納入された。

だがヴェルデンブラント側から生産が追いついていないとの報告を受け、保証費用として白金貨10枚が支払われていた。

ゼーブリック側は保有する秘匿兵器の有効活用を考えていた。


 今のところそれらの兵器は殆どが王都防衛のために、魔探の一部が現在建造が進められている新型艦へと搭載されることが決定している。

それらの艦は設計の変更を受けて就役が一番艦が今年末に、二番艦が来年春にずれ込むことになった。


 そしてドラゴン部隊の養成も着々と進んでいた。

最初こそはその扱いの難しさにゼーブリックの竜騎士たちは手を焼いていたが、今はかなり慣れてきているようだ。

ヴェルデンブラント側との共同訓練も行っているようで、養成された部隊は今年の冬に進水する新型艦に配属される手はずになっている。


 それら一連の報告を聞いてフェルディナントは大変満足であった。

彼は大金を払った甲斐があったと思って喜んでいる。

彼自身もその秘匿兵器の性能はその目で見ていた。


 そしてそんなゼーブリック王国は絶好調な様子であった。

国民も平和に暮らしており、このままの状態が続くかと思われた。

だが段々と雲行きが怪しくなってくる。


 ガチャッ!


「失礼します!」


 突然王の間のドアが開き、男があわてた様子で駆け込んできた。

駆け込んできた男はゼーブリック王国の外交担当、ヴォイド=ジョージだった。

焦った様子で走ってきたジョージにフェルディナントは声を掛ける。


「どうした騒々しい。なにかそれほど急ぐ用事でもあったのか?」


「はい、その、ですが、ええと……」


 だがジョージはなかなか話を始めようとしない。

そんな状況を煩わしく思ったのか、フェルディナントは少し強めにジョージに言った。


「ええとではわからない。余に分かるように説明せよ」


 その言葉を聞いたジョージは一瞬ビクッとし、そして話し始めた。


「実は……王子様のロイド=ゼーブリック様がルクスタント王立学園を退学になったそうです」


「は、退学?」


 フェルディナントには情報があまりうまくつかめていなかった。

彼は少し考えた後、ようやく合点が行ったようであった。

合点のいったフェルディナントはジョージにもう一度聞き返す。


「どうして我が息子のロイドは退学になったのだ? わかりやすく説明せよ」


「正確なことはロイド様から聞いた方が良いと思いますが、今のところこちら側ではロイド様がルクスタント王国女王のグレース様に不貞な行為をしようとしたことが原因のようだと聞いております」


 その言葉を聞いてフェルディナントは頭を抱えた。

王子の振る舞いは国家の評判にも大きな関係を持っている。

彼は自分の顔と国に泥を塗られたような気持ちであった。


「仕方がない、事実確認はあいつがこっちに返ってきてからにしよう」


 フェルディナントはそう言いながらさらに眉間にシワを寄せて考え落胆するのであった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?