翌日の日の出前、俺はフォアフェルシュタットに到着していた。
俺は今は既に大和に乗艦して航行し、もうイレーネ島に到着している。
因みに昨日もらったミートドリアのパイ包みは非常に美味しかった。
大和を降りた俺は、鎮守府長官室の中でゆっくりとしていた。
だが脳内はフルであることを考えている。
それはこの島におけるインフラや街のことに関してだ。
前々から作ろうとは思っていたのだが、結局考えがまとまらずに今日まで来ていた。
だが流石にもうそろそろやらないといけないなと思ったのだ。
それに久しぶりに王都の街並みを見て刺激を受けたというのもある。
加えて、街の1つもなくては国家として成り立たない。
それに街がなければ移住したいと思う人も出てこないであろう。
国民を呼び込むうえでもそういう整備は必須だ。
そして街の設計は非常に重要なことだ。
何処に何を配置するのか、どんな作りにするのかで住心地が大きく関わってくる。
ここをミスするわけにはいかないのだ。
因みに今考えているのは、俺が最初にいた神殿を中心として街を構築していくことだ。
神殿は島の真ん中に位置するので、絶好の選択だろう。
町のシンボルにすることもできるしな。
そこから大通りをつなぎ、その脇に政府機関を作ろうか。
そしてさらに学校や劇場、スタジアムなど文化的な建物も整備しよう。
俺の胸の中にはやりたいことが山のようにあった。
俺はとりあえず工兵部隊のもとに出向いてみることにした。
彼らも独自に設計を行っているとのことなので、意見を聞くべきであろう。
実際に作ってもらうのも彼らだしな。
◇
「おーい、やってるかー……ってなんじゃこりゃあ!」
俺は工兵部隊の宿舎へと入っていく。
これは俺が学園に行っている間に建てたものらしい。
なかなかに頑丈で古風な見た目をしていて俺は好きだ。
だがそんなものがどうでも良くなるような光景が目の前に広がっていた。
入ってすぐの場所から巨大なジオラマが配置されていたのだ。
おそらくここに置かれているものが彼らの計画案なのだろう。
「おや司令、いらっしゃいませ。今みんなで街の設計を行っていた所ですので、司令も見ていかれますか?」
俺は出迎えに来た工兵部隊のリーダー、シュペーに誘われて中に入っていく。
近くから見れば見るほどその迫力と精巧さに驚かされる。
そして基本設計は、俺の考えていたものと大部分が一致していた。
流石は工兵部隊だ、言わなくても通じ合う。
「……で、本当にこれは必要か?」
俺はその中の1つの巨大な建築を指差す。
おそらくこれが宮殿であろう。
だがあまりにも大きすぎると思ったのだ。
「勿論です。逆に宮殿がないと威厳が伝わりません」
「あ、そう……そうなんだ」
これまでも何度か宮殿はいらないと言ってきたが、そのたびに反対されてきたのでもう何も言わないことにしよう。
人間時には諦めることも肝心だ。
「では、この街の説明に移ります」
シュペーが棒を持ち、島のメインストリートを刺す。
その横にはずらりと大きな建物の模型が並んでいた。
パリのシャンゼリゼ通りを意識しているのだろうか、途中には凱旋門のような大きな門が置かれている。
「まずはここがメインとなる大通りですね。この通りの左右には国の大事な機関の建物やデパートが立ち並んでいます。道路は片側三車線で、道路と道路の間には植物を植えます。その先には神殿と宮殿がそびえますね」
シュペーは棒を今度は山の麓に動かす。
「そのうえで重要となるのがこの発電所です。工廠の開発した蒸気タービンの大型版の物を用いて島中に電力を供給いたします」
てっきり俺は魔道具を多用するのかと思っていたが、地球の技術者だった彼らには電気を扱うほうが慣れてはいるわな。
大した問題も起こらないだろうし、なんの問題もない。
「そして交通機関として電車を採用します。工廠の連中に既に開発を依頼していますので、それの完成を待ちましょう。……工廠っていったいなんなんでしょうね?」
工廠の仕事じゃない気がするが、そこは気にしないことにしよう。
「最後にこの海岸線です。海岸線には島防衛のために要塞線を築きます。列車砲を主体とした防衛戦で、島中の観測点から得られたデータを下に射撃、近づいてくる艦船を撃沈いたします」
絶対にこんなにいらないという量の列車砲が海岸部に整列している。
……こんなに戦力が必要だろうか? いやもう何も言うまい。
とにかくこれの完成にはとんでもない時間かかかる気がするが、根気よく完成を待つしかないな。
「分かった、この計画を承認する。今日から仕事に取り組むように」
こうして島の都市化計画が始まった。
◇
さて、島の都市化計画を承認した俺は今度は陸軍基地に足を進めていた。
海軍の訓練には参加したが、陸軍の訓練にはまだ顔を出したことがなかったからである。
彼らの練度も見てきておきたかった。
「司令官、いらっしゃいませ」
俺が基地に到着すると、早速出迎えがやってきた。
彼は戦車部隊の隊長、ベルントだ。
俺は彼と握手を交わし、彼に案内されて基地の奥へと足を進める。
「皇帝陛下に敬礼!」
ベルントに連れられた先には、陸軍に所属する全車両が砲門を上に向けて待ち構えていた。
乗員はハッチから体を出し、全員俺の方に向けて敬礼する。
俺はその前を敬礼をしながらゆっくりと歩いた。
観閲が終わり、俺はエイブラムスを眺める。
その鋼鉄の巨体は静かにそこに鎮座していた。
そんな俺にベルントが話しかけてくる。
「司令官、よければ乗られますか?」
俺が頷くと、ベルントは俺を一旦宿舎内に連れて行く。
そこで俺はエイブラムス用の装備品を手渡され、それを着た。
その格好で俺は再び外に出る。
ベルントに案内され、俺は一両のエイブラムスの前に連れてこられた。
彼にぜひ乗るよう促されたので、俺は思い切って乗り込んだ。
エイブラムスに乗り込んだ俺は車長用ハッチから顔を出す。
新たな視点から車両群を見ていると、突然足に振動が響いてきた。
他の車両も出発準備を始めたようだ。
俺の乗ったエイブラムスを先頭として、車両は基地を出ていく。
後ろを見ると、車両は皆複縦陣を組んでいた。
「司令官、なにか指示を出してみてください」
下からベルントはそういった。
何か指示、か。俺は周りを見渡す。
ちょうど左側に大きな岩があったので、それを目標に撃ってみようか。
「全車単縦陣に移行、走行状態を維持したまま照準を左の大岩へ。発射の合図があるまで待機せよ」
全車両の砲塔が左に旋回する。
全車照準を終えたことを確認し、俺は射撃の合図を出した。
「撃てぇー!」
俺の合図とともに全車が一斉に発砲する。
音を立てて無数の砲弾が宙を舞い、次々と大岩に着弾した。
砲弾を受けた大岩は跡形もなく消え去った。
「目標の撃破を確認」
インカム越しにベルントの声が聞こえてくる。
もしも陸上での戦闘になったら俺がこうして陣頭で指揮をしたほうがよいだろう。
俺の中のモットーは「指揮官先頭」だ。
演習も終了し、俺は基地へと帰還した。