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第73話 逃亡せし元王太子②

 新しく用意された部屋の中にアルベルトとアルファは入る。

部屋の扉が閉ざされ、部屋の中は2人きりになった。

その状態でアルファは早速質問を投げかける。


「では、何があったのかお聞かせ願えますか」


 アルベルトは少し不機嫌であった。

逃げてきた身とはいえ他国の王族をこのように扱うものだろうかと思ったからだ。

だが彼に逆らう権利はないので、渋々話し始める。


「俺の妹、第一王女のグレースが反乱を起こして俺は何とか逃げ出してきた。王城の爆発はきっとその時のものであろう」


 アルベルトはしれっと嘘を付く。

あの爆発が、自分の指示で戦争を始めた国にやり返されたものだとは言いたくなかった。

グレースの反乱を見ているのであれば彼女らのせいにしてもわからないだろうと考えていた。


 だがアルファはアルベルトの嘘を見破っていた。

ルクスタント王国内で暗躍する特務隊から彼のもとに届けられた情報によると、未知の黒い翼竜が頭上を通過したとのことだ。

アルファはその翼竜による攻撃だと見ていた。


「ふむ、成程。王女の反乱に伴う爆破、ですか。ではお聞きしたいのですが、反乱前に鳴り響いた空襲警報と空を飛んでいた未知の翼竜は何なのでしょうか。あんなものが王国にいると?」


 アルファは探りを入れてみる。

アルベルトにとってそれは効果抜群であったらしく、わかり易いほど顔に動揺が現れていた。

アルファは「やっぱりか」と内心でニヤニヤと笑う。


 一方、アルベルトは相当に焦っていた。

自分が嘘をついたことが相手方にバレているからだ。

だが彼は実際に見てはいないため、黒い翼竜については知らない。


「確かにあの爆発は反乱軍によるものではなかったかもしれない。だが黒い翼竜については一切知らないな」


 アルベルトはそういった。

確かにアルベルト花にも見ていないので言っていることは正しい。

だがアルファはその言葉を聞いてさらに心のなかで笑う。

それも声にも顔にも出そうなほどだ。


「分かりました、そういうことにしておきましょう。ではここからは取引の時間です」


 アルベルトは何を言っているのか想像もつかなかったため首を傾げる。

取引を持ちかけるアルファにはとっておきの作戦があった。

そんな彼の耳元にアルファは近寄って、コソコソと言った。


「我々はゆくゆくは王国を攻撃しようと考えています。だがもしも今こちら側になるというのであればそれなりの待遇は約束しましょう。さぁ、本当のことを話していただけますか? あ、一応言っておきますが拒否したら貴方の身の安全は保証いたしませんよ」


 アルベルトは驚いてバッと顔を上げる。

見上げたアルファの顔には気味の悪い笑みが浮かんでいた。

アルベルトは頭をフル回転させてどうするか考える。


『本当の事を言うべきか? いや、言わなければ殺されるであろう。だが受け入れてもらえるだろうか……』


 結局、アルベルトは本当のことを話すことにした。

彼にとっては生まれた国よりも自分の命のほうが大切であった。

覚悟を決めて彼は本当のことを話しだす。


「……実はあれは未知、というかついこの間知った情報だ。俺は王国内のとある人物から新たなる島の情報を手に入れた」


 アルファは黙って話を聞く。

アルベルトは話を続ける。


「その島を領有するために第一騎士団を派遣したのが始まりだった。最初は一瞬で征服できると思っていたが、実際は騎士団が全滅。交渉役として彼らについて行っていた宰相と騎士団長が捕らえられた」


「あの第一騎士団がですか? あの騎士団は我が王国内でも精鋭だと言われておりますが……」


「その騎士団がだ。宰相の今にも泣きそうな声が通信珠から聞こえてきたよ。そしてあちらから報復の宣言があり、その結果があの有り様ってわけだ」


 アルファは腕を組んで考える。

彼はイレーネ帝国とルフレイの情報は全く持っておらず、想像するしかない。

そんな彼の頭の中には、その国に対する興味しかなかった。


「分かりました。地図を持ってくるのでその島の位置を描いていただけますか?」


 アルベルトは頷く。

アルファは一旦地図を取りに部屋を出た。

アルベルトはアルファがでていったのを見計らってため息を付いた。


「遅くなりました」


 アルファは地図を持って部屋に戻ってくる。

彼は地図を広げ、それを2人は覗き込む。

アルベルトはアルファから渡されたペンを取り、彼の覚えている島の位置にマークをつけた。


「はて、そんなところに島はあったでしょうか?」


 アルファは首を傾げる。

アルベルトの示した位置に島など載っていなかった。

だがアルベルトは首を振って言う。


「アルファ、この地図、今"大陸"中に広まっている地図がどうやって作られたか知っているか?」


「"世界"で使われている地図ですか? 知りませんね」


 アルファは知らないので首を横に振る。

そんな彼にアルベルトは地図の成り立ちを説明した。


「今の地図は昔に遺跡の中で発見された地図が元になっている。君は知らないと思うが俺はその模写を一度見たことがあるからわかるが、現代の地図とは全く違うものだった」


 アルファは黙って話の続きを聞く。


「最初は何が何だか分からなかったのだが、ある昔の王国の王宮の人間がその地図ね引かれている線に意味を見い出した。その線、何十にも描かれた線の一本を取ると今の地図になることが判明したのだ」


「それが今"世界"中で使われている地図の始まりですか?」


 アルファの問にアルベルトは首をふる。


「半分あっているが半分間違いだ。実際にこの地図が使われているのはこの"大陸"中に過ぎない。その地図によると、この世界にはあと2つの大陸があることが判明したのだ。だが昔の王たちはそれを隠蔽するために今我々がいる大陸だけの地図を普及させたのだ」


 アルファにとっては驚きの情報であった。

今まで自分が世界だと思いこんでいたものが、世界の一部に過ぎなかったなんて。

彼は分かったような分からないような複雑な顔をした。


「今はわからなくてもいい。俺もよく知らなかったことだ。で、島の話だが、おそらく昔の人が映し忘れたか、新たに島ができたのかもしれない。結局のところ海のことなど我々は殆ど知らないのだ」


 そうですか……とアルファはうつむく。

彼にはそれを聞いただけではどうしようもなかった。

判断をするべく、彼は少し考える時間が欲しいと思った。


「どうもありがとうございました。ではお約束どおりあなたの身の安全は私が保証いたします」


「本名も聞いていない人間が、かね?」


「ふふ、申し訳ございません」


 アルファはそう言って机の上の地図を持って立ち上がった。

彼は一礼をした後、部屋を出ていく。

彼は魔法通信珠を取り出して、廊下を足早に歩いた。





 その日の夜。

騎士団詰め所の地下で集まる5人の黒い服の人間がいた。


「……それで情報は終わりか? アルファ」


「えぇ、これで終わりですよチャーリ」


「何だか面白そうじゃないか。なぁエコー?」


「私に話を振らないでくださいデルタ。そう思いますよねブラボー、ブラボー?」


「zzz……zzz……」


 彼らは一斉にブラボーを見つめる。

そしてねている彼を見ながら笑った。


「では、この件を陛下に伝えるとしましょう」


 彼らはそう言って音もなく部屋を出ていった。


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