俺とグレースは今会場を抜け出し、バルコニーにいた。
夜風が吹いており、優しく頬を撫でる。
しばらくは無言であったが、先にグレースが口を開いた。
「その、戴冠おめでとうね。まさかあんな事が起こるとは思ってもいなかったけれども、創造神様から直々に戴冠されるなんて凄いじゃない」
「グレースもおめでとう。これから大変だと思うけれども頑張ってね」
俺たちはそう言い終わった後、再び黙ってしまった。
俺はこの状況を打開すべく、今度は自分から話しかけてみる。
「そういえばグレースのためにってプレゼントを用意したんだ。ぜひもらって欲しい」
俺はそう言ってオリビアから回収してきた木箱をグレースの前に差し出す。
彼女はその箱を受取、匂いに気づいたのか箱を少し嗅いだ。
「わぁ、すっごい良い香り。早速開けてみてもいいかしら?」
俺が頷くと、グレースは箱をそっと開けた。
中に入っているのはトマスが制作したブローチだ。
彼女はそれを箱から取り出し、じっくりと観察する。
そしてつけてみても良いか尋ねてきたので、勿論良いと返した。
「すごい綺麗……ねぇ、似合っている?」
彼女は胸元にブローチを付け、くるりとまわってみせた。
月光がブローチに反射し、真ん中に据えられた黄色の眼球が美しく輝いた。
「うん、とっても似合っているよ」
「えへへ// ありがとう……」
その後、俺たちは一緒に月を眺めた。
しばらく眺めた後、一緒に会場に戻る。
戻ってからしばらくして、パーティーはお開きになった。
俺はそのまま屋敷に帰ろうかと思ったが、明日国家間の会合があるとのことなので今日は王城に泊まることにした。
いつもと同じ部屋に入り、俺は眠りにつく。
◇
翌日の朝、俺はこの前までと同じように朝食を食べた後、正殿内の会議室に通された。
室内には机と椅子がずらっと並べられている。
それぞれの国家の国旗が置かれているので、自国の旗の席に座った。
他国の使節も続々と到着し、会議が始まろうとしていた。
彼らとは昨日の夕食会ですでに面識がある。
主催国であるルクスタント王国の女王であるグレースが挨拶を執り行った。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。これより第32回大陸国家合同会議を開始いたします」
集まった面々から拍手が起こる。
グレースは着席し、会議が始まった。
「まずはグレース様、新女王即位おめでとうございます。そしてルフレイ様、まさかあんな形で神様にまみえることが出来るとは思ってもいませんでした。新たなる貴国と我々は上手く付き合っていきたいと思っています」
白髪の優しそうな老人が発言する。
彼は昨日にも出席していたゼーブリック王国の外交官だ。
名は確か……そうそう、ヴォイド=ジョージだ。
昨日の挨拶の様子から優しいオーラが滲み出ていた。
「新女王の即位は大いに歓迎する。だが新国家は認めん! あんなものもでっち上げに過ぎないだろう!」
いきなり男が席から立ちあがって大声を上げた。
ヴェルデンブランド第二王国の外交官で、名はジョルジュ=グレマンサーだ。
彼の性格は、なんというか、横暴だ。
「グレマンサー、そんな事を言うものではありません。神罰が当たりますよ」
「何が神罰だ、出来るものならやってみろ!」
ヴォイドがなだめようとするが、グレマンサーは取り合おうとしない。
「ほら、そんなことよりも大事なことがあるでしょう」
だが彼らはコソコソとなにかを話し始めた。
そしてなにか決まったのか、2人はこう発言した。
「我々ゼーブリック王国とヴェルデンブランド第二王国は」
「相互に援助し合う同盟を締結する」
――えぇっ!!
会場内にざわつきが起こった。
彼らの発言に反対を唱えるものも現れた。
「我々は認めません。それでは貴方がたあまりにも強大化しすぎてしまいます!」
反論したのはフリーデン連立王朝と呼ばれるエルフの王国の外交官だ。
この国は昨日始めて存在を知った。
どうやら大陸の北方の森林地帯に住んでいるようだ。
そして彼の名はユリウス=エッケンベルク。
この世界には耳の尖ったエルフと呼ばれる民族が住んでいるらしい。
異世界系漫画ではおなじみの種族だな。
「我々もだ。国境を接している以上隣国の強大化は受け入れにくい」
「我が国もだ」
続くのはミトフェーラ魔王国の外交官ウッド=ヴィロンと、サマルカンド獣帝国の外交官ベトレオ=フォルマンだ。
魔王国は大陸の西方、獣王国はルクスタント王国と魔王国の中間に位置する。
2ヵ国ともそれらの国と国境を接しているので警戒しているのだろう。
「何を言われようと結構。だがこれは既に決定事項だ」
グレマンサーはそう言って3人の言い分をはねのけた。
その後も何度も3カ国が反対するも言い分を受け入れず、議論は平行線となる。
一旦昼食の時間となったため会議は一度中断された。
昼食後。
俺はグレースと話すべく彼女のもとに出向いた。
俺は彼女に先程のことについて問うべく話を切り出す。
「正直な話、グレースは同盟のことをどう思っているんだ?」
グレースは俺の問いにこう答えた。
「正直認めたくはないわね。私の国も国境を接している以上、2カ国の同盟は王国にとって大きな脅威となるわ」
グレースも合併には反対のようだ。
イレーネ帝国は島国という都合上国境は接していないが、大陸でこのことが発端で問題が起きても困る。
なにか対抗策はないだろうか……
そうだ、こちらも同盟関係を結ぶというのはどうだろうか。
同盟を結ぶことによって、少なからず相手を牽制することが出来る。
それに俺が大陸で少なからず影響力を持てるようになるしな。
「なぁグレース、ならば俺の国と君の国の間でも同盟を結ばないか? もし有事が起こった場合に向こうと同じく相互に援助できるような体制を作るんだ」
「成程、こちらも同盟を組むのね。それはいい考えかもしれないわね。内容はどんなものにするの?」
俺は同盟内容を考える。
「うーん、ならばこんなものはどうだろうか。もし同盟を組んでいる国のどちらかが1か国以上と戦争に突入した時、もう1か国が戦争当事国から参戦要求を受けたらそれに応じなければならない」
「分かったわ。ルフレイの言う事だし、それでいきましょう」
グレースは特に迷いもせずにオーケーを出す。
なんともあっさり同盟の締結が決まった。
俺たちは同盟というカードを携えて会議に戻った。
◇
「――で、午後の会議を始めるわけですが、私とグレースから1つご報告がございます。我がイレーネ帝国とルクスタント王国はここに相互援助のための同盟を結ぶこととします」
俺は午後の部開始早々そう宣言した。
会場内は俺の発言にシンと静まりかえった。
だがその静まりを切り裂くようにグレマンサーが豪快に笑う。
「ハハハ! 同盟ですか。そんなぽっと出の新興国家と同盟を結ぶとは。そんなものよりも我々の同盟に入ったほうが懸命なのでは?」
彼はグレースにそう言ってからも笑い続けた。
流石に笑いすぎたのか、彼は机に置かれた水をぐっと飲んだ。
失敬失敬といって笑いながら謝る。
「さて、これ以上話しても意味がない。私はここらで帰らせてもらおう」
そう言ってグレマンサーはがたっと椅子から立ち上がる。
そして彼は扉の方へと歩いていき、豪快にそれを開けて出ていってしまった。
その後にヴォイドが続いて退出しようとする。
だがこのまま返すのも少しむかつくなぁ。
俺は特に悪くはないが彼に少しいたずらをしてやろうと思った。
この前偵察に当たっていたRQ−4から最近新しい情報が入ってきていたのだ。
歩く彼の肩を取り、耳元でささやく。
「貴国は基地や造船所の様子を見る限りどうやら海軍が盛んのようですな。それ自体は結構ですが、我が国の北方60海里ほどでずっと居座っている大艦隊は何なのでしょうか。どうやって島の位置を把握したのかは知りませんが変な真似はしないことですね」
俺は彼の方をポンポンと叩いて開放してやった。
「なぜそれを……」
ヴォイドはそう言ったが、それ以上は何も反応せずに部屋から退出した。
その後会議の参加国がいなくなったので、会議は自然に解散となった。