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第68話 誇り高き近衛部隊

 ブローチの制作を依頼してから5日後。

俺のもとにブローチが完成したとの知らせが入った。

今日トマス部長が鎮守府に運んでくることとなっている。


 コンコン


 長官室の扉を叩くことが響く。

俺が入ることを許可すると、トマスが入ってきた。

彼は手に木製の箱を持っている。


「司令、お約束のものが完成いたしましたので持ってまいりました」


「ありがとう。では早速見せてもらおうかな」


 俺は彼から箱を受け取る。

箱には金の箔打ちでイレーネ帝国の国章が入れられていた。

そして驚いたことに、箱からはとても上品な木の香りがした。

例えるのならばヒノキのような香りだ。


「驚きましたか? この箱はレーダーサイトを建設するために切った木を使用しています。とても香りが良いので最適な素材かと」


 そんな素晴らしい木が生えているとは全然知らなかったな。

俺は木箱の蓋を開け、中身を確認する。


 中に入っていたのは、ステンレスの台座の中央にデスホーンラビットの眼球がはめられたきれいなブローチであった。

これならば喜んでもらえるであろう。


「ありがとう。素晴らしい贈り物になると思うよ」


 俺は木箱をそっと閉じた。

俺はトマスに感謝し、トマスは長官室をでていった。


 後は付添として連れていきたい人間がいる。

まずはオリビア。彼女の外務大臣としての初の外国での仕事の場にしたい。

俺は部屋の隅に立っているオリビアに声を掛ける。


「オリビア、知っているとは思うが俺はグレースの戴冠式に出席する。そこで外務大臣としてオリビアについてきてほしいのだが」


 俺がそう言うと、オリビアはこくんと頷いた。

これは肯定の合図と捉えて良いのだろう。

俺は他の連れて行くメンバーを集めるため長官室を出た。





 その後、俺は陸軍基地に向かっていた。

ここに連れて行く人間がいるからである。


「ロバートはいるかい?」


 俺は兵舎内に入り、ロバートを呼び出す。

というのも、王都に向かうのに護衛の一人もいないのはマズいのではと思うのだ。

だから初期からいる彼らを護衛として連れて行こうと思う。


「はいよ司令官。なにか用かい?」


 彼は呼ぶとすぐに出てきた。


「俺は2日後に行われるグレース女王の戴冠式に参加するんだが、護衛として第一小隊を連れていきたいと思ってね。付いてきてくれないかい?」


「もちろんさ司令。俺たちはいつでも司令に付いていくよ」


 よし、彼らが護衛に来てくれればもしもがあったとしても安全だろう。

それはそうとして、流石に今のままの格好では式典にはふさわしくないな。

彼らのために何か服を用意してあげよう。


「スキル【統帥】発動、英国近衛兵の服を召喚!」


 俺はイギリスの近衛兵の服を召喚した。

この服ならばどんな場であろうとも相応しいであろう。

俺は部隊の人数分、50着を用意した。


「ほほう、英国近衛兵の制服か。確かに皇帝でもある司令を護衛するにはふさわしい服装だな」


 彼は部下を呼んでくると言って一度どこかに言った。

戻ってきた彼とその部下は皆自分に合うサイズの制服を取って着た。


 近衛兵の服を着た彼らはまさに近衛という言葉にふさわしいエレガントな姿になった。

もはや彼らの部隊名を近衛部隊に変えるべきではないだろうか。

いや、変えるべきだ。


「全員注目してくれ」


 俺がそう言うと、彼らはこっちの方を黙って向く。

俺は彼らにこう告げた。


「これより第一小隊を解体、その後近衛部隊として再編する。君たちはこれから俺の身辺を守る部隊として頑張ってくれ」


 彼らは直立不動で敬礼する。

俺は彼らに敬礼を返した。

その後、まだ固まっているロバートに話しかける。


「俺の身の安全はロバート、君にかかっている。頑張ってね」


「はっ! 謹んでお受けいたします」


 彼はいつもと態度がガラッと変わった。

このままでは俺もしゃべりにくいので直してくれと言ったら元に戻してくれた。


「司令、普段はこのまま喋らせてもらうけど、流石に外に行った時はあの喋り方にさせてもらうぞ」


「あぁ、分かったよ」


 あ、そうそう。

流石に近衛部隊がM16を持つわけにはいかないな。

俺は代わりに銃剣つきM1ガーランドを召喚、彼らはそれを装備した。


 こうして俺の身辺警護の部隊が誕生した。

護衛も決定したことだし、そろそろ出発するとしようか。

俺と第一小隊改め近衛部隊は軍港を目指して移動を開始した。





 俺とオリビア、近衛部隊は大和に乗艦し、今まさに出港しようとしていた。

護衛としてタイコンデロガ級の2隻が随伴する。

大和はタグボートに押され、イレーネ湾の外へと運び出された。


 出港した大和の艦尾には旭日旗がはためいており、斜桁にはイズンにもらった国旗がはためいていた。

そして今、大和を含めた3隻は満艦飾の準備をしていた。

満艦飾を行うことによって特別な日を祝うのだ。


 大和の艦首から艦尾にかけて沢山の信号旗が掲げられた。

タイコンデロガ級たちも同様であり、艦はお祝いモードになった。


 しばらく航行し、艦隊はフォアフェルシュタット湾に到着する。

艦隊はそのまま湾内に投錨した。

だが湾内には俺たち以外の外国艦艇はいないようだ。


 大和から内火艇が降ろされ、俺とオリビア、近衛部隊は内火艇に乗り込む。

そのまま内火艇は湾内を進み、俺は王国に上陸した。


 俺は近衛部隊に囲まれながら街の方に向けて歩き始める。

しばらくすると、1台の馬車と見慣れた騎士が立っているのが見えた。


「お久しぶりですルフレイ様。女王陛下の命を受けお迎えにあがりました」


 俺に馬から降りて敬礼したのは、騎士団長のミルコだ。

彼は馬車の扉を開け俺に中に入るよう促した。

俺とオリビアは馬車にゆっくりと乗り込む。


 俺たちの乗った馬車の周りをロバート等近衛部隊が取り囲み、その前と後ろにそれぞれ王国騎士団が付いた。

そして車列はゆっくりと王都に向かって動き出した。





 フォアフェルシュタットを出て約6時間、中継地点の街ヴァイスバッハに到着した。

ここから王都までは残り半分といった所だ。

俺はあらかじめ用意された宿に泊まり、明日に備えて眠りにつこうとしていた。

因みにオリビアはもう俺の布団の中でいつも通り寝ている。


「おい、止まれ!」

「待たんかこら!」


 突然廊下から部屋の前で警護をしていた近衛兵の声が聞こえてきた。

その後廊下で暴れるような音が響き、やがて収まる。

何かあったのだろうか、俺は外に出てみることにした。


「おい、何があったんだ?」


 俺が外に出ると、近衛兵たちと近衛兵たちに抑えられている男の子が見えた。

年は10歳ぐらいであろうか、必死の顔でこちらを見ている。


「皇帝陛下、危険です。お下がり下さい」


 近衛兵がそう言うが、俺は捕らえられている男の子の顔をじっと見つめた。

彼は俺の視線に対して鋭い眼光で返してきた。


「俺が何か恨まれるようなことをした覚えはないんだが……ここに来た目的はなんだい?」


「皇帝陛下……」


「良い、話させてやれ」


 俺はそう言って近衛兵を静止する。

彼らは向けていた銃口をそらしたが、目はまだ男の子を睨んでいた。

だが男の子は気にもせずこちらに話しかけてきた。


「……ただ俺は金持ちそうなあんたに金を無心しにきただけだ」


 彼は怯えもせずにそういった。

金の無心……確かに身なりは貧しいが、それだけの理由でわざわざ宿に押しかけてまで金を無心しに来るだろうか。


「金がほしいのだな。じゃあなぜ金がほしいのか、それになぜ宿に押しかけてきたのか理由を聞かせてくれ」


 俺がそう言うと、彼は一瞬黙ったがやがてゆっくりと話し始めた。


「……俺はかつてこの王国に滅ぼされた国の生まれだった。父ちゃんは兵役に取られて死に、母ちゃんも俺を守ろうとして矢の雨に当たって死んだ」


 彼は自分の境遇をゆっくりと話し始めた。

俺はその話をじっくりと聞く。


「俺は小さいにも関わらず1人でこの世界に放り出された。……まだその時俺は4歳だった。俺は死んでたまるかと必死に生き続けた。……盗みも犯した」


 彼は顔を暗くして話を続ける。


「明後日はその国の新しい王の戴冠式だといって街中は大騒ぎだ。だが俺たち滅ぼされた国の人間からしたらたまったものじゃない。俺は少しでも不幸にしてやろう考えた」


 彼は息継ぎをして話を続ける。


「そんな時にあんたの車列が通るのを見かけた。立派な馬車だ。ひと目見ただけで戴冠式に出席する人間が乗っているのだと分かったよ」


 俺は黙って話を聞いていた。


「だから金をむしり取ってやろうと、あわよくば殺してやろうと考えたんだ」


 その言葉を聞いて近衛兵があわてて男の子の服をまさぐった。

そして彼は男の子の服の中に隠されていたナイフを取り上げる。


「取り上げられたか……まぁいいさ。で、俺をどうするんだ? 殺すか? 突き出すか? 好きなようにしやがれ」


 俺はその話を聞きながらあることを考えていた。

かつてこの国を統治していたというグレースの父による征服戦争、その犠牲者がこんな風になっているのかと。

そのうえでこの国をこれから治めていかないといけないグレースの大変さを感じた。


「分かった。少し待っていろ」


 俺は部屋に戻る。

部屋に入った俺は荷物の中から1枚金貨を取り出す。

これを彼にあげて帰ってもらおう。


「おまたせ、これを持ってさっさと帰りなさい」


 俺は彼に手に持っていた金貨を差し出した。

彼は驚いたようにこちらを見た後、恐る恐る金貨に手を伸ばした。


「良いのか……? 俺はお前を殺そうとしたんだぞ」


 彼は震えながら聞いてきた。

俺は静かに頷き、彼は金貨を手に取る。


「本当にすまなかった。今後二度とやらないと誓うから許してくれ」


 俺は彼を許し、彼を開放した。


「そういえばお兄さんの名前は何ていうんだー?」


 彼は帰り際にこちらを向いて聞いてきた。

その質問に俺は笑って答えた。


「イレーネ帝国の皇帝、ルフレイ=フォン=チェスターだ」


 男の子は手を降りながら走って宿をでていった。


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