偵察を行った次の日。
俺はいつも通り長官室にいると、机の上においていた魔法通信珠が光りだした。
グレースからの通信だが……何の用であろうか。
「はい、もしもし?」
『あ、ルフレイ、久しぶりね!』
通信珠越しのグレースは非常に元気そうであった。
「久しぶり。で、用は何?」
『実は王城の修繕工事がやっと終わったのよ。だから私の正式な戴冠式を外国からも客を招いて行おうということになってね。そこでルフレイ、あなたを国賓として招待したいのだけれど?』
成程、戴冠式か。
これは一生に一回しかお目に出来ないものだし、それに断る理由もない。
そして俺以外の外国の使節も招かれるのであれば、それらと交流を持つことも出来るかもしれない。
「それはおめでとう。もちろん俺も参加させてもらうよ」
『本当!? ありがとうね。戴冠式は1週間後に王都で行うから』
「分かった。それまでに準備をしておくよ」
そうして魔法通信は切れた。
さて、何か彼女にプレゼントを用意していかなければならないが何を持っていこう。
流石にマルセイ商会で仕入れるわけにはいかないよな……
ならば工廠の連中になにか作ってもらおうか。
でも前世で女性にプレゼントなんて送ったことがないから何を渡せばいいか分からないな。
とりあえず俺は工廠の連中に掛け合ってみることにした。
長官室を出て、工廠に向かって歩いて行く。
工廠に着くと、中は機械の動く音で満たされていた。
今はタービンを量産している途中であり、また新型の魔道具の開発も盛んに行われている。
俺は工廠の奥、技術研究部第一班の部屋へと入る。
中にはテーブルと椅子が置かれ、椅子には白衣の男が腰掛けていた。
彼はトマス、この研究部の部長を任している人間だ。
「おや司令官、工廠に何か御用ですか?」
彼はこちらをくるりと向いて言う。
「あぁ、実はグレースの戴冠式への招待があったから受けようと思うんだが、持って行くプレゼントが思いつかなくてな。何か作ってもらったりすることは出来るだろうか」
「勿論ですとも。それならばいい素材があるんですよ。ええっと……どこだったかな?」
トマスは壁の棚をあさり始める。
そして彼は中から1つの箱を取り出し、それを俺の手の上に置いた。
俺が箱を開けてみると、中には黄色のきれいな玉が入っていた。
こんなきれいな玉をどこで手に入れたのだろうか。
「司令、その素材が何だか分かりますか? それはデスホーンラビットの眼球ですよ」
えっ、眼球?
たしかにそう言われてみれば眼球に見えないこともない。
だがそれは驚くほど硬かった。
「これを主体にブローチなどを作るのはいかがでしょう?」
ブローチか、それは中々の名案かもしれないな。
じゃあそれを作ってもらうことにしよう。
「ではブローチを作ってもらおうかな。戴冠式が1週間後だからそれまでに間に合わせて欲しい」
「分かりました。きっと気に入ってもらえるものをお作りいたします」
ブローチの制作を依頼した俺は第一班の部屋を後にした。
そしてそのまま帰ろうかと思ったが、ついでに工廠内を見て回ってみることにした。
工廠内では絶賛タービンを製造中であるが、よく見ると別のものが作られていたりする。
例えばこれ、一見するとタービンのようであるが現行のものよりもサイズがかなり小さい。
俺は工廠の作業員を呼び止めて説明を聞くことにする。
「これは新型タービンの試作機です。復水器を廃止して水を魔石からの供給にすることによって小型化を図っています」
成程、この前小耳に挟んだが、これがその試作機なのだな。
というかこのサイズであれば戦車のエンジンや航空機用のエンジンなどにも使えてしまうのではないだろうか。
俺は新型タービンの試作機を後にし、別のものを視察する。
次に目に入ってきたのは、野砲のような形をした筒であった。
「これは一体?」
「これは未加工の魔石を装薬として発射する砲の試験機です。今の段階ではその性能は未知数としか言えません」
確かに授業で未加工の魔石は衝撃で爆発すると聞いたが、それを装薬として砲を作ろうという考えには至らなかった。
やはりそういうところは研究者のほうが頭が柔らかいな。
その後は特に目ぼしいものはなかったので、俺はそのまま帰ろうとする。
だがそんな俺の目に飛び込んできたものがあった。
それは正面外板が取り外されたロボットの姿であった。
俺はそのまま開かれたロボットの中身を見る。
中には配線がびっしりされていて、かなり高度な技術で作られたことがわかる。
「これは司令が鹵獲してきたロボットですね。分解してみてはいますが現時点では全容の把握はできておりません」
この工廠の作業員は俺が召喚したものなので基本的に前世の地球の技術の知識は持っている。
そんな彼らが分析に苦戦するとなれば、このロボットは地球と同じ、いやそれ以上の技術で作られていることになる。
そんな技術がこの世界の人間に可能なのであろうか。
ルクスタント王国の技術力を見る限りそれは不可能に近いであろう。
だがダンジョンにいたとなると、何か超技術を持った古代文明の遺産であるかもしれない。
星条旗が掲げられていたことやロボットが英語を話したことを見る限り俺よりも前の時代に何らかの転生者がいたのかも……
それは流石にないかなぁ。
「司令が鹵獲してきたものといえば、アレの研究は終わっていますよ」
俺がもう1つ鹵獲してきたものといえば長距離通信魔道具だ。
作業員は俺を工廠内の一室につれていき、俺はその中に入っていく。
中には俺が鹵獲してきたものよりも大型の機械が据え置かれていた。
作業員はその機械の捻りをいくつか回した後、俺にマイクのようなものを渡す。
「今丁度実証試験を行っておりまして、試験的にレーダーサイトとの間に通信環境を整えております。早速使ってみますか?」
俺はマイクを持ち、機械に向かって話しかける。
「あー、あー、放送が聞こえているなら応答されたし」
『こちらレーダーサイト管理棟、感度良好感度良好。要件を話されたし』
しっかりと向こうからも返事が帰ってきた。
俺は試験放送である旨を伝え、放送を切った。
これは魔法通信珠や地球の通信装置にも劣らない性能を持っている。
これがもっと小さく携帯出来る大きさであれば向こうの王国でも売れるかもしれないんだがなぁ。
というのも、王都にいるときに魔法通信珠が売っているところを見なかったためグレースに聞いたところ、魔法通信珠はダンジョンから発見できる分しか供給がないため市販はされていないとのことだ。
その劣化版の長距離通信装置も高額で一部の貴族や有力商人の間にしか出回っていない。
だから小型の通信機械が完成すれば王国での圧倒的なシェアを獲得出来るかもしれないのだ。
因みに魔法通信珠のほうが高い理由は、ただ見た目がきれいだからというだけだ。
「これはなかなか使えそうな技術だね。今後は小型化に力を入れて欲しい」
「小型化ですか? もう出来ていますよ」
いやもう出来ているんかーい。
そっちを先に出さんかいそっちを。
彼は部屋の中から地球の◯Phoneのような小型の機械を取り出した。
が表面には液晶ではなくいくつかのボタンと公衆電話の受話器のような穴が開いている。
「この部屋にあるものは長距離の端末に一気に放送が可能なように作られたものです。一対一の放送であればこのサイズで十分です。魔石の交換は頻繁になってしまいますが……」
いままでの機械には大きな魔石を入れて無限とも言える魔力の供給を受けてきた。
だがこの機械は小型なので魔石の交換が必要になってしまう。
そこら辺も考えて販売を検討しないとな。
俺はそんな事を考えながら機械を1つ譲ってもらって工廠を出た。