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第64話 国家としての体制づくり

 進水式を終え、俺は鎮守府へと戻ってきた。

今日からは俺は本格的にこのイレーネ帝国の皇帝としての仕事を始めなければならない。

この国には決めなければいけないことが多すぎるのだ!

俺は長官部屋の椅子に座って考え始めた。


 まずはこの国に国民が居ない問題。

これに関しては全くインフラが整備されていないのでまだ国民を受け入れるつもりはない。

先にインフラの整備を行わなければならないだろう。

この問題はひとまず置いておこう。


 次はこの国の統治機構。

現状は俺が皇帝ということになっているが、この国には大臣も国会も何も無い。

どんな政治体制にするのかを決めなければいけない。


 俺が今構想しているのは、皇帝を維持しつつも大臣や国会などを中心とした政治体制の構築だ。

この世界では王などがいることが国としての絶対条件のため、皇帝を廃位することはできない。

かといって独裁体制を敷くわけにもいかないのだ。

今は内務大臣、外務大臣、財務大臣、経済大臣、陸、海、空軍大臣を置こうと思っている。


 だが誰を大臣に任命するべきだろうか。

軍隊関係の大臣はそれに相応しい人間を召喚すればいいが、それ以外はどうしようもない。

今は内務、財務、経済大臣は不要だが、外務大臣は必須だ。


 だがこの国にこの世界のことに精通している人間は居ない……

いや、いるじゃあないか。

少し強引かもしれないが、彼女に任せてみるのも手かもしれない。


「なぁすまない、ちょっといいかい?」


 俺は部屋の隅に控えていたオリビアを呼ぶ。


「はい。何でございましょうかご主人様」


 彼女は俺に呼ばれるとすぐに机の前に立った。


「実は今この国の統治機構を考えているんだが、この国には現状全くと行っていいほど外国についての知識を持っているものが居ない。よってオリビア、君を外務大臣に任命したいと思うのだがどうだ?」


 だがオリビアは俺の言葉にいまいちピンと来ていないようだ。

この世界に大臣という概念はない。なぜなら一部の貴族が政治を独占しているからだ。

俺は彼女に大臣という職について説明する。


「外務大臣というのはそうだなぁ、主に自国と外国との外交を行う人たちのトップの職だ。この国の中で1番外国についての知識があるであろう君にぴったりかと思ってね」


 オリビアは俺の言葉を聞いて驚く。

彼女は今まではルクスタント王国の王城で働いていたメイドに過ぎない。

彼女には少し荷が重いかもしれないな。


「そんな重要な仕事を私が出来るでしょうか? 確かに外国の方の接待などを行うためにある程度の外国に関しての知識は身につけておりますが……」


「大丈夫だ。オリビアなら出来るよ」


 俺がそう言うと、オリビアは真剣に考えだした。

そして彼女はついに結論を出す。


「分かりました。外務大臣としての職、謹んでお受けいたします」


 よし、外務大臣をオリビアが受けてくれた。

俺は横においてあった白紙と万年筆を取り出し、そこにオリビアを外務大臣に任命する旨と、俺のサインを書いた。

彼女にも万年筆を渡し、彼女もそこに署名する。

そして俺はその紙を丁寧に机の引き出しにしまった。


 次に考えるべきは国歌についてだ。

これはグレースから聞いたことだが、この世界にも国旗、国歌という概念は存在しているらしい。

国旗と国章はイズンから下賜されたが、国家までは与えられなかった。

だから帝国でも国歌を制定するべきだと考えたのだ。


 しかしどのような国歌が良いであろうか。

流石に一から作るわけにはいかないので、既存のものを流用するしか無い。

となると選曲が非常に大事だ。


 無難に『君が代』でも良いし、『星条旗よ、永遠なれ』や『ラ・マルセイエーズ』も良い。

『ソヴィエト国歌』は……音割れしそう(小並感)

考えれば考えるほど困るものだ。


「よし! こういうのは音楽関係の人に聞くのが1番だ!」


 俺は軍楽隊を召喚することにした。

スキルで召喚された軍楽隊の人間は自己紹介を行った。


「初めまして司令。私はクラウス、軍楽少佐であります」


「よろしくクラウス。早速だが俺は今この国の国歌について何を採用するべきか悩んでいる。そこで何か意見をもらえれればと思って」


 クラウスは腕を組んで考えを巡らせる。

しばらくした後、彼はこう聞いてきた。


「司令はどのような雰囲気の曲をお求めでしょうか?」


 どんな雰囲気、そうだなぁ……


「力を感じる荘厳な歌、かな」


「荘厳ですか、成程……ならば"神よ、皇帝フランツを守り給え"などいかがでしょう? 神聖ローマ帝国、オーストリア=ハンガリー二重帝国、そしてその旋律はドイツの国家として受け継がれています。とは言ってもわからないので実際に聞いてみればよろしいかと」


 確かに実際に聞いてみないとわからないかもしれないな。

クラウスに俺は試しに外で演奏することを提案してみた。

彼もそれに賛同し、俺たちは外に向かった。


 鎮守府庁舎の外、車止めに俺たちは出る。

ここなら十分な広さもあるし軍楽隊を召喚しても問題ないだろう。

俺はMPを消費し、軍楽隊員を100名ほど召喚した。


 彼らはそれぞれの楽器を用意し、演奏に備える。

クラウスが彼らに演奏曲を伝えると全員が頷いた。

クラウスは指揮棒を握り、振り始める。


 その後、軍楽隊によって演奏された曲は俺の心を鷲掴みにした。

その時俺はその曲を国歌として制定することを決定したのだ。


 クラウスは指揮棒を持ってこちらへとやってくる。

俺が彼に感想を伝えると、彼は嬉しそうに微笑んだ。


「気に入っていただけたようで良かったです。では私はこの旋律に合う歌詞を考えましょう」


「よろしく頼んだよ」


 こうして、"神よ、皇帝フランツを守り給え"が国歌として決定された。

俺は再び鎮守府長官室へと戻った。

次は軍隊の編成を決定しよう。


 現状のイレーネ帝国軍はきっちりとした部隊組織などは存在しない。

今後外国の紛争に介入するうえでそれでは統率に悪影響が出かねない。

俺は今の軍隊の構成を確認するため、紙に戦力を書き出してみた。


「うーん。どうも少ないな」


 改めて紙に書き出してみると、想像よりも兵力に欠けると思った。

まず陸軍は今後大陸に展開するのであれば全くと言っていいほど兵力が足りない。

海軍はこの国が島国であり、また外洋に展開する可能性が高いことも考えるとやはり数が少なすぎる。


 最後に空軍だが、はっきり言って貧弱だ。

もしもおびただしい数の翼竜が襲ってきたりしたら捌ききれないだろう。

今持っている全てのMPを用いて軍備を強化しよう。


 俺は軍備強化のために外に出る。


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