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第63話 新型タービン搭載艦、進水

 フォアフェルシュタットを出港した大和はそのまま南下、イレーネ島へと向かって航行していた。

そのころ、俺は大和内の一室でだらだらと過ごしていた。

大和にはラムネ製造機がついているので、俺はラムネを取り寄せてゴクゴクと飲んでいる。


 その横でオリビアはじっと立っていた。

彼女は何の言わずそこに立っているが、彼女の視線が俺の持っているラムネに向いていることは明確であった。

飲みたいのなら言ってくれれば取ってくれのに……


「なあオリビア、もしかしてラムネが飲みたいのか? 飲みたいなら取ってくるけれど」


 俺がそう言うと、彼女はかしこまって答えた。


「いえ、そんなわざわざ私のために取ってきていただく必要はございません。ただ、もしよろしければ御主人様が飲んでいるものを一口貰えればと」


 それでは間接キスになってしまうがオリビアは良いのだろうか。

俺は別に気にしないのでいいのだが、まぁ彼女がそれでいいというのであればそれでいいか。

俺は手に持っていたラムネの瓶をオリビアに手渡す。


「ありがとうございます。では……ゴクッゴクッ……ぷはぁ。こんなシュワシュワして甘い飲み物は初めて飲みます。とっても美味しいですね」


 オリビアはどうやらラムネが気に入ったようだ。

ならば今ある分は彼女にあげて、俺は新しいのを貰いに行こうかな。

そういえば酒保にはビールなどのお酒もあるはずだ。

日本じゃ未成年だが、この世界ではこの年齢でもお酒を飲んでも良いのかな。


 俺が椅子から立ち上がろうとすると、誰かが部屋のドアを叩いた。

俺が入ることを許可すると、中に入ってきたのは大和艦長の山下大佐だ。

彼は俺に敬礼をし、俺もそれに返した。


「提督、ご卒業おめでとうございます。我々からもこの記念すべき日になにか出来ないかと考え、提督に我々艦隊の練度を観閲していただけるように訓練展示を行おうと思っております」


 時々王城に届けられていた手紙には、軍のみんながさらなる練度の向上に向けて訓練している旨が綴られていた。

俺も彼らの特訓の成果を見てみたいと思っていたので、そんな企画をしてくれたのは嬉しいな。

だが今はもう夜だ。このまま明日になるまで待ってから訓練を行うのだろうか。


「流石に今からというわけではないだろう、大佐?」


 だが彼は俺の言葉にふふっと笑って答えた。


「いえ提督、勿論"今"からやるのですよ。気づいておられないかもしれませんが、すでに本艦を中心に艦隊は集結しているのですよ」


 何だって、全然気が付かなかった。

俺はオリビアを連れてすぐに艦内を走って艦橋をエレベーターを用いて登った。

防空指揮所からは、各艦が月明かりに照らされている様子が目撃できた。


「ハァ、ハァ。提督、急に走らないで下さい」


 山下大佐も合流し、俺たちは3人で航行する艦隊を眺める。

すると、前を航行していたニミッツの甲板に動きがあるのが確認できた。

あの感じ、もしや夜間に空母から発艦しようとしているのか?


 俺の見立て通り、エンジンから炎が吹き出しているのが見えた。

そしてF/A18Eはカタパルトから射出され、夜の空へと飛び上がる。

その後もその機体に続いて続々と機体がそれに上がった。


 俺も、隣に立っているオリビアもその光景に見とれていた。

全機発艦し終えたのを見てからも俺は空母の甲板を見つめていたが、山下大佐に「後ろから来ますよ」と言われた。


 彼の言葉を聞いて上の空を見ると、F/A18Eの編隊がきれいな三角形の陣形を作り出して飛び越えていった。

轟音を立てて飛んでいく一糸乱れぬ編隊に俺は見とれる。


「提督、固まっている暇はありませんよ。次のは少し音が大きいのでこれをつけて下さい」


 俺は理由がわからずとりあえず耳栓をつけた。

オリビアも同じく耳栓をつけると、どんな理由でこれをつけなければいけないのかが良くわかった。

先頭を航行している比叡と大和の主砲が動いたからだ。


 月明かりの中、大和と比叡による夜間砲撃演習が実施される。

海に響く砲撃音は、揺るぎない守りを表しているようだった。

そして訓練は終わり、艦隊は母港へと帰投する。





 翌日、鎮守府の長官室のベッドでおきた俺は、今日行われる式典のための準備をしていた。

オリビア手作りの朝ご飯を食べ、軍服に着替えて、迎えに来たハンヴィーに乗り込む。

向かう先は海軍基地の建造ドッグである。


 ハンヴィーは目的地に着き、俺は車から降りた。

完成した10のドッグの内の1つ、第3号ドッグに入っている船が1隻ある。

この前に完成した魔石式蒸気タービンを主機関として搭載した新造船だ。


 実はこの船の設計は蒸気タービンの開発段階から始まっていて、蒸気タービンを作る傍ら技術研究部の連中が独自に設計を行っていた。

その設計案を元に建造したのがこの船というわけだ。


 現在、この船の二番艦以降、そして発展型艦の建造計画がスタートしている。

技術研究部が手に入れた魔石加工のノウハウを利用して、すでに蒸気タービンは量産の段階に入ったとのことだ。

そしてさらに、蒸気タービンの復水部を撤廃し、水もすべて魔石で補うという案も浮上してきているとの報告も入ってきている。


 いずれにせよ、今日はその記念すべき一番艦の進水式を執り行う。

本来進水式というのは艤装前に行うのが通例だが、今回は艤装作業が完了した状態で行う。

艤装類はタービンで発電した電気を使って稼働させている。


 俺はドッグの前に作られた足場に登る。

目の前には大きな新造艦の艦首がそびえていた。

後ろを振り向くと、造船を行った作業員たちが整列しているのが見えた。

俺は作業長からマイクを受け取り、あらかじめ決められていたこの船の名を発表する。


『本新造艦を"第一号輸送艦"と命名する』


 俺の命名宣言とともに、作業員たちから大きな拍手が巻き起こった。

俺の命名宣言とともに紅白の幕が降ろされ、船の名が姿を表す。

続いて俺はシャンパンボトルを受け取り、それを艦首にぶつけた。


 ガシャァァン!


 シャンパンボトルは音をあげて割れる。

中に入ったシャンパンが艦首に降り注いだ。

最後に俺は作業長から銀の斧を受け取る。


 俺は斧を艦首に括りつけられた縄をめがけて振り下ろした。

縄がぷつりと切れ、船は船台を滑り降りる。

同時に艦首から吊るされたくす玉が割れ、中から大量の紙吹雪と風船が舞い散った。


 これによって進水式は全て終了……ではなくまだ続きがある。

この艦に登場する乗員の任命式典だ。

俺はMPを使って乗員100名を召喚した。


「これより諸君に第一号輸送艦への乗艦を任命する」


「「「「はっ! 謹んでお受けいたします」」」」


 彼らは俺に敬礼をした後、タグボートによって接舷された輸送艦へと向かう。

こうして進水式は終了した。

これから第一号輸送艦は試験航海に向かう。


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