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第62話 卒業、そして別れ

 夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ、気づけば季節は春になっていた。

この間には非常に充実した時間が流れていた。

1年にも満たない短い期間だったが、まるで自分の失った青春を取り戻したような気分だ。


 だがそんな日々も今日で終わる。

今日俺たちは卒業を迎えようとしていた。

生徒たちは各自の教室で卒業式が始まるのを待っている。


 クラスのメンバーとはすでに全員と話し終えており、クラスは微妙な雰囲気に包まれていた。

エーリヒなど外国から留学に来ている人は、俺もそうだが、学園生活が終わると各自の国に帰っていく。

もういつ会えるのかもわからないのだ。


「ほら、みんなそんな顔しない。胸を張って卒業式に望むわよ」


 メリルが全員の前に立ってみんなを励ました。

みんなその言葉を聞くと、自然と顔から寂しさが消える。

俺たちは立ち上がり、卒業式の会場である闘技場へと足を進めた。


 闘技場の入口から中まではずっとレッドカーペットが敷き詰められており、脇は色とりどりの花で飾り立てられていた。

俺たちはその中を進み、闘技場の中へと入ってく。


 闘技場内に俺たちが入場すると、大きな拍手が巻き起こった。

観覧席には1、2年生の生徒が全員立って拍手をしている。

その光景を見て、もう涙を流している人もいた。


 俺たちは入場した後、所定の席に座って開式を待つ。

Sクラスの後にAクラス、Bクラスの生徒も続々と入場して、ついに卒業生が全員揃った。

全員揃ったことを確認した後、メリルが開式を宣言した。


 俺たちは一斉に立って礼をした後、ひとりひとり担任に呼ばれて担任と一言交わした後にイルゼから卒業証書を受け取る。

だが担任との話の間に泣いてしまい、なかなか進まない人もいた。

そしてSクラスの生徒が全員呼ばれ、残るは俺のみとなった。


「ルフレイ=フォン=チェスター、前へ」


 俺はメリルに呼ばれて前に出る。

彼女の前に出て一言をもらおうとすると、彼女は何も言わなかった。

その代わりに彼女は目いっぱいに涙を浮かべていた。


「あなたと一緒に過ごした時間は短かったけれども……あなたは……私の大切な生徒だからね」


 メリルは涙混じりにそういった。

そして彼女はそのまま倒れそうになったので俺は彼女を支える。


「ごめんなさいね……私ったら。さぁ、いきなさい、胸を張って生きるのよ」


 俺は彼女を離した。

目に涙が浮かびそうになるのを何とかこらえ、俺はメリルに大きく頭を下げた。

そして俺はイルゼのもとにいき証書を受け取った後、自分の席に戻る。


 その後A、Bクラスと式はつつがなく進行した。

やがて全員が証書を受け取り、いよいよ閉式となった。

俺たちは在校生の拍手に見送られながら、闘技場を後にした。





「あーあ、私たちももう卒業かぁ。何だか早かったわねぇ」


 闘技場を出て、生徒たちが思い思いに外で話している時間。

俺はグレースとともにいた。

彼女はそうつぶやき、校門の方へと歩いていく。


 俺もそれに続いてグレースの後を追って歩く。

しばらく無言の時間が続き、もう校門がすぐそこまで迫っていた。

校門には多くの迎えの馬車が止まっており、非常に混雑している。


「ねぇ、そういえばあの時の返事、まだ聞いてなかったわよねぇ」


 グレースはふと止まって、俺の方を見てそういった。

あのこととは勲章をもらったときの告白のことだろう。

結局いい答えが思いつかずにほったらかしにしていた。


「すまん、ええと、なんと言えば良いのか……」


 俺がモタモタしていると、グレースはふふふと笑った。


「まだ結論は出さなくてもいいわ。私、いつでも待っているから」


 そう言ってからグレースは大胆にも俺の頬に口づけをしてきた。

俺は突然の出来事に思考がフリーズしていた。

そんな俺に「じゃあね」といって、彼女は馬車に向かって走り出してしまった。


 ……結局何も言えずに終わってしまった。

俺は今から島に戻るため、もう王城に戻ることはない。

またいつか会おう、グレース。


 俺は迎えに来ていたハンヴィーへと向かう。

これから島に戻るのだ。

この国には本当にお世話になったな。


 俺は車に乗り込もうとハンヴィーの後ろドアを開ける。

荷物はあらかじめフォアフェルシュタットに輸送しておいたので、後は俺が向かうだけだ。

だが、ドアを開けた先には居ないはずの人間が居た。


「……なんでここにいるの?」


 後部座席に座っていたのは、王城のメイドのオリビアだった。

彼女は姿勢をピンと正して座席に座っている。


「もちろん主である御主人様の世話をするためです。すでに城には暇乞いを出してあるのでご安心を」


 そういう問題じゃないと思うんだよな俺は。

そんな島までついて来てもらってまでして世話をして貰う必要はない。

今すぐに王城に戻ったほうが良いだろう。


「俺はぜんぜん大丈夫だから。王城に帰って構わないんだぞ?」


「いえ、私は自分の意志でここに居ますのでご安心を」


 その後、俺が何度説得しても彼女には聞き入れてもらえなかった。

とうとう俺のほうが折れ、彼女に同行を認めてしまった。

彼女は「やりました」と言って嬉しそうに席を詰めた。


 俺を乗せたハンヴィーは王都を離れる。

ハンヴィーのサイドミラーには修復が終わりつつある王城の3本の塔が映っていた。





 夕方頃、俺を乗せたハンヴィーはフォアフェルシュタットに到着していた。

港には迎えに来ていた大和の内火艇が停まっており、俺とオリビアは内火艇に乗るべく桟橋の方へと向かっていた。


「ちょっと待ってください〜!」


 後ろから誰かを呼び止める声が聞こえてきた。

俺が何の気なしに振り返ってみると、走っているのはなんとフローラであった。

彼女は俺の前まで走ってくると、息を切らしながら手に持っていた箱を俺に差し出してきた。


「今日卒業されたのですってね、おめでとうございます。こちら大したものではありませんがお祝いの品です」


 俺は彼女から差し出されたものを受け取った。

中を確認していいかと聞いたら良いとのことなので、俺はくくってある紐をほどいた。

するとはこの箱の中から出てきたのは、冒険者カードとはまた違う金色に輝くカードであった。


「それは我がマルセイ商会のVIPカードです。それをお買い上げのときに提示してもらえれば、全品が半額になります。この国の中でそのカードを持っているのはルフレイ様しかいませんよ」


 そんな良いものをもらっても良いのだろうか。

だが俺はありがたく頂戴することにした。

フローラはこの後用事があるからと言って、渡したらすぐに帰ってしまった。


「じゃあ島に向かおうか」


 俺とオリビアは内火艇に乗り込み、大和を目指す。

俺たちを収容した大和は、王国を後に出港した。


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