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第61話 報酬は私でよろしいですか?

 魔物狩り大会が中止になった翌日。

俺はいつも通り学園に登校しようと思ったのだが、なぜかグレースに止められた。

彼女がいいと連絡をくれるまで学園に来るなというのだ。


 グレース自身はすでに学校に登校しており、俺は王城に取り残された。

時計の針はすでに10時をまわっており、俺はポケットに魔法通信珠を入れたまま王城内を散歩しておた。

特になにかやることもなかったので、俺は久しぶりに帝国技術部第一班の工廠を訪れることにした。


 夏休み前はちょくちょく訪れていたが、夏休み後にここを訪れるのは初めてだ。

この前来たときに工作機械や材料などいると言われたものは一通り取り揃えておいていたが、はたしてどこまで進んでいるだろうか。


 ちなみにまだダンジョンで見つけたロボットの残骸や魔法通信機の解析はまだ始めていない。

まずはひとつひとつ解析を行こなおうというわけだ。

前回に設計図は完成していたので、もう試作のタービンが完成しているかもな。


 俺は倉庫の扉をガラッと開け、工廠内に入る。

中に入ると、外からは全く聞こえなかったが中ではタービンの稼働している音が聞こえてきた。

完成したのか! と思って中を見ると、タービンのシャフトの先に羽をつけて涼んでいる研究員の姿があった。


「……何をしているの?」


 俺が中に入って声をかけると、研究員たちは一斉にこちらを向く。

そしてあわててタービンの運転を止めようとしたが、今更遅いぞ。

俺はそのまま歩いていき、タービンを利用したジャンボ扇風機の前に立った。


「おぉ、これはなかなか涼しい……がちょっと風が強いなぁ。で、いつこれは完成していたの?」


 俺が聞くと、研究員の1人が答えた。


「つい先日のことです。今はタービンの試運転と問題点の確認を兼ねて連続運転を行っていたところです」


 なるほど、これは試運転を行っていたのか。

「だが羽を付ける必要はないのでは?」と聞くと、彼らは頭をかいて「暑いですし……」と答えた。

別に暑いのは事実だから咎めたりは全くしないけれどもね。


「なかなか順調に稼働しているみたいだね。これなら十分実用に耐えられるな」


「えぇ、これで基本的な技術は概ね習得することが出来ました。あ、そういえば魔石が大きすぎたので4つに割って使用しております。残った3つでもタービンは造っているので、合計4つが完成したことになります」


 確かに工廠の奥には追加で3つのタービンが置かれていた。

せっかくだし2つを使って船を建造、1つは学園に寄贈、残りの1つはエーリヒにあげようかな。

彼にはお世話になったし、喜んでくれると良いのだが。


 そう思っていると、ポケットに入れた魔法通信珠が光り輝いた。

俺は通信珠を取り出し、グレースからのメッセージを聞いた。


「ルフレイ、こっちは準備ができたから私服に着替えて学園の闘技場に来て頂戴」


 それっきりで会話は終了した。

俺には何の用意ができたのか分からなかったが、私服と言われたのでとりあえず今来ている制服を軍服に着替えよう。

そしてその間にトラックにタービンを積んでおくよう指示し、俺は自分の部屋に戻る。


 着替えが終わり、俺はタービンを積載したトラックに乗り込む。

そしてトラックに学園に向かうよう伝え、トラックは走り出した。





 トラックは学園の門をくぐって構内に入った。

だが人気はなく、シーンとしている。

俺は取り敢えずグレースに言われた通り闘技場へと向かうことにした。


 その際に俺はタービンも持っていこうと思ったのだが、俺は気づいてしまった。

こんな重たくでかいものをどうやって運ぶんだと。

だが、俺の頭に神がかったアイデアが思い浮かんだ。


 それは防御魔法にくるんで持っていくということである。

防御魔法であれば自由自在に変形でき、さらに手から離して浮かせて移動させることも出来る。

俺はタービンの周りをぐるっと防御魔法で包み、闘技場へと向かった。


 闘技場に向かう道中、廊下には1人も、教室にも1人も人がいなかった。

何があったのかと思いながら闘技場へと向かっていると、闘技場に近づくにつれ段々と人の声が聞こえてきた。

そして俺は闘技場の入口をくぐり、フィールド上に立った。


「英雄だ! 英雄が来たぞ〜!」

「キャー! ルフレイ様こっち向いて〜!」

「さすが優勝者は伊達じゃないな!」

パチパチパチパチ……


 俺がフィールド上に立つと同時に大きな拍手と歓声が起こった。

周りを見ると、生徒たちが全員立って俺に拍手をしているのが見える。

何が起こったのか分からず前を見ると、そこには昨日倒したドラゴンの亡骸とドレスを身にまとったグレース、そして学園長のイルゼがいた。


 ……もしかして英雄ってドラゴンを倒した俺のことだろうか?

俺はとりあえずタービンを地面に置いて、グレースたちの元へと歩いていく。

俺が彼女の前に立つと、彼女は「サプライズ成功!」と言わんばかりのドヤ顔で俺を見てきた。

そして横に立っていたイルゼがグレースの口の前にマイクを差し出す。


『こらこら、騒ぎたい気持ちはわかるけれども一回静まりなさい』


 彼女がそういうと、生徒たちの歓声と拍手はピタッと鳴り止んだ。

そして彼女はこほんと咳払いをし、そして話し始める。


『えー、ドラゴンという未曾有の脅威を見事に打ち払った功績を評し、ルフレイ=フォン=チェスターに特一等名誉騎士団章を授与する』


 そして彼女は少し溜めて、こんな爆弾発言をした。


『ルクスタント王国の女王、かつあなたの未来の嫁候補のグレース=デ=ルクスタントより』


「「「「えぇ〜〜!!」」」」


 グレースは言い切ってやったという顔をしながら、顔を真っ赤にしていた。

そして場内は彼女の突然の告白に湧く。

俺も俺で突然のことに驚いた。


「答えはまたいつか聞かせてくれたら良いわ。ささ、勲章をつけるわよ」


 グレースはそう言い、俺の軍服に勲章をつけた。

勲章はこの世界固有の金属であるミスリルで出来ており、美しい銀色が白い軍服に映える。

俺は胸についた勲章に誇りを持った。


『さぁ、もう一度英雄に拍手を!』


 グレースの言葉で、会場内がもう一度大きな拍手に包まれた。

そして俺はイルゼがどこからともなく取り出した花束を手に抱え、拍手に手を振って答える。

グレースからのサプライズは見事成功した。


 その後、今日は授業はなしということで解散となった。

俺は持ってきたタービンを学園に寄贈する旨を伝え、学園側も快く受け取ってくれた。

学園卒業まであと5ヶ月、俺は残された時間を楽しく過ごそうと思った。


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